電中日記 アキコ4
はっちゃけることの無いまま、溶けるように夏休みは過ぎていった。
お見舞いで貰った大量の漫画を2回ずつ読み通した。
毎年一緒に行った母の田舎への盆の帰省も今年は行かなかった。
家に籠もり昼夜は逆転して、また戻り、また逆転して、一日が何時間だったかも分からない生活が続いた。
怪我をする前には今年の夏休みには髪を染めてみたいと思っていた。夏休み期間に髪を染めるというのは、中学生にとって唯一の合法的な規則への抵抗だ。
しかしギプスをして家に引きこもっていた僕にとって、その行為は全く意味をなさなくなっていた。髪を染めるというのは、その行為を友人に認識されて初めて成立するものだ。友人に見せたり写真を撮ったりしなければ、髪を染める意味などないのだ。
それでも何かを変えたかったので、結局髪を染めることにした。
骨折以来、ギプスのせいで風呂に入っていなかった。
身体は拭けば汚れが落とせても頭はそうもいかず、近所の美容室でシャンプーをしてもらった。
もう一度同じ美容室に行ったとき、カットとブリーチ(髪の脱色)をお願いした。
「あの、ブリーチして欲しいんですけど」
若い男のスタイリストは笑いながら
「いいんですか?もう学校始まっちゃいますよ」
と言った。そういう中学生の事情をよく知っているようだった。毎年夏休みの終わりが近づくと、黒染めで戻しに来る人が多くなるらしい。
髪を切ってくる、と言って金髪にして帰ってきた息子を見て母は
「何それ、似合わないねー」
と言ってやはり笑っていた。
翌日から大学病院にリハビリに行くと、金髪の少年のギプスを見て、
「バイクですか?」と尋ねられるようになった。
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