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【第12話 強者との出会い】

私がCPPに加入して、一週間が経った。E-PSIが発動してからは十日...

この十日間。私は、名取さんやCPPの研究員・戦闘員の方の協力を得て、自身のE-PSIについて調べることに費やした。

私のE-PSIの効力は、刀を使って戦闘をした時、物理法則を無視する…とでも言うべきものだった。

…なるほど、と思った。私が麗花に力で勝つなんて、そんな能力じゃないと実現しない。

ただ、これだけ聞けば強力過ぎる能力に思えるけれど、CPPのメンバー曰く

「E-PSIには、発動条件や制約がある能力も多い。だから、その調査は継続すべきだ。キミの能力みたくシンプルに強力なものは特に、制約が隠れてる可能性が高いからね。またE-PSI自体、継続使用でレベルが上がっていくこともわかっている。現状、キミのレベルはまだ駆け出し。熟練のE-PSIerとの戦闘は危険だ」

とのことらしい。

加えてCPPのメンバー、いやほとんどのE-PSIerは皆、E-PSIに名前を付けているとも聞いた。

私が、自身のE-PSIに付けた名称は《 Katana ---カタナ---》。

我ながら安易すぎるネーミングセンスだわ...と最初は落ち込みもしたものの、今ではわかりやすくて気に入っている。

Katanaについて深く知るため、そしてレベルアップのために、私は一昨日からCPP本部内の"ジム"を使わせてもらっている。

今日も、ジムであの気味の悪いデッドとやらを葬りまくってやる…と意気込み、ジムがずらりと並ぶエリアに辿りつくと、ある一つのジムの周囲に何やら人だかりができていた。

「おい、アイツ新入りらしいぜ」

「ヤバいだろあの動き...ルーカスさんと近接戦闘でまともにやりあえるヤツ、初めてじゃねーか?」

こんな声が聞こえてきたので、興味をそそられ自然と足がそちらのジムへ向く。

そのとき、私の目に飛び込んできたものは...

ありうべからざる剣捌きでデッドを次々と屠る、同年代の男の姿だった。

しかもその相手はデッドだけではない。

恐らくギャラリーが”ルーカスさん”と呼ぶ男が、デッドの指揮を取りながら戦っている。

ルーカスという名は、CPPに入ってすぐに耳にした。CPPの戦闘員のなかでもかなりの手練れ...のはずだ。

そのルーカスと、デッドの群れで構成される集団を剣一本でいなす、新入りの若い男…

「何者なの...?」

------やがてデッドが全滅したところで二人は戦闘を停止し、会話を始めた。ジム特有の音を通すガラスのおかげで、ギャラリーである私にもその会話は聞こえた。

「aliasよ、剣はどうだ?」

「うん、すごくイイね。他の武器と比べて剣が一番、手になじむ感じがするよ」

「うむ。その感覚は非常に大事だ。お前は剣をメインアームとするのがベストだろう」

------...!

私はその会話を聞いて、戦慄が走った。

「い...今の戦いが、剣を使ったの初めてだっていうの!?」

私が見たaliasという男の剣捌きは、自身の常識に照らせば明らかに、達人の領域だった。

しかし実際は、”武器を選ぶのために試してみた”に過ぎなかったという…

戦闘が終わってギャラリーが解散しだしたので、私もヨタヨタと自分が使用するジムのほうへ歩きトレーニングを開始したが、正直なところ身が入らなかった。

------

小百合は、帰宅するなりベッドに倒れ込み、ぶつくさと独り言を漏らしながら物思いに耽った。

「あのaliasという男...私と同じくらいの歳よね…っていうか、aliasってなに?どう見ても日本人なんだけど...まぁそれはいいとして。剣を使ったの初めてなのに、なんなのあの動き...間違いなく、強い...」

徐々に、小百合の中に沸々と湧き上がる情動------

「...戦ってみたいわ」

小百合自身、元々剣道においても強い敵と戦うのを好むうえ、E-PSIerとなったことでより自信を獲得していた。

故に、今回のような規格外の戦闘能力を持った者を目にしても、畏怖の対象とはならず、むしろどちらが強いか、という純粋な好奇心が沸き上がっていた。

------翌日。小百合は部活を追え学校を後にした。今日もジムへ行こうかなと迷いながら、学校から最寄りの駅に辿りつくと、そこで驚くべき人物と出会う。

「あ、昨日の...!.」

昨日、小百合に戦慄を走らせたあの男。aliasと呼ばれた男が、同じ駅の改札にいる。

小百合はたまらず、声をかけた。

「あの...!」

「...え?」

「そこの公園で、私と剣道の試合しない?」

...小百合は、何を言ってるのか自分でもよくわかっていなかった。

竹刀を所持しているのは自分だけ、防具も無い、そもそも相手からしたら見知らむ女が、”そこの公園で試合しよう”...

aliasとおぼしき男が、変質者を見る目で戸惑っているが、それも無理はない。

「え、えーっと...」

「あ...ご、ごめんなさい!何言ってるのかしら私...」

「君は?」

「私は、瀬戸 小百合。あなたと同じCPPの...E-PSIerよ」

「な、まさか...」

「昨日、本部であなたの戦いを見たわ。すごいと思った...それで、私と試合してほしいの。もちろん公園じゃなくていいわ!本部でよ」

「なるほど...aliasのやつ、最近戻りが遅いと思ったら、派手にやってんだな…」

「へ...?」

------

ある日俺は、突然現れて「そこの公園で剣道の試合しよう」などという謎の言葉をかけてきた女性に出会った。

年齢は俺と同じくらいだろうか、小柄で目が鋭く、身に纏う制服は俺と同じ学区にある学校のものだ。

そして、片手には"竹刀"を入れているであろう袋を持っていた。このことから剣道家であることが窺え、彼女の口にした「試合しよう」というのは、剣道の試合を指すのだと推察される。

しかしながら、俺は全く剣道に触れたことは無い。

人違い...そう、他人の空似かと考えたが、であれば心当たりがあるのは俺の方だ。

そんな折、彼女は”CPP所属のE-PSIerである”ことを俺に明かし、CPP本部で俺の戦いを見た...と言う。

決まりだ。

まず彼女はE-PSIerに間違いなく、CPPに所属しているのも本当だ。

そして、戦闘員としてのトレーニング、あるいはミッションをこなしているのか?

その過程で、CPP本部のジムを利用しているのだろう。

そこで見つけたんだ。俺の分身、aliasを。

aliasの戦闘を見て、驚愕する者は多い。そもそも本体である俺だって見るたびに毎回驚いてる。

そんなことが続けば、中には道場破りのような者も出てくるだろう。

「たしかに...俺もE-PSIerで、CPPに所属している。でも、君が見たのは、俺であって俺じゃない」

------もしかして、含みを持たせ過ぎただろうか。その彼女は俺の言葉を聞き、怪訝になる顔を必死で隠そうとしていた。

「まずは、CPP本部に行こう。話はそこで」

こうして俺達は、新宿方面の電車に乗り込んだ。まぁ、同じCPPのメンバーだ。CPP本部でaliasと引き合わせても問題ないだろう。

他組織のスパイの可能性も疑ったが、そうであればまずCPP本部の入口の認証で弾かれる。俺がここで時間を食って疑う意味は無い。

しかし、同年代の女性と連れ立っているところを亜矢やその周囲の人間に見られたら、めんどうなことになるなぁ...などと考えたが、その女性は電車の中では俺と距離をとり、ほぼ無言のまま何かに集中している様子だった。

「つくづく、不思議な子だな...」------聞こえない程度のボリュームでそんな独り言を漏らす。

そして、俺達はCPP本部へ辿りついた。

------

新と小百合に、CPP本部で最初に声をかけたのはルーカスだった。

「やぁ、新。む?隣の女性は...ふむ。新よ。君は二人になれるからと言って複数の女性と関係を...」

ルーカスがアメリカンジョークを炸裂させようとするが、さすがに気まずい状況になること請け合いと考えた新が即座に否定する。

「違うって!ルーカス。同じCPPのメンバーの子だよ」

「っと、これは失礼。最近のCPPは人数が多くて把握しきれなくてね。私の名はルーカス ギルバート。戦闘指揮官だ。君の名は?」

「あ、私は、瀬戸 小百合と言います。まだ加入して十日くらいで...よろしくお願いします」

「------君が!あの瀬戸さんか」

ルーカスは小百合の名を聞いた途端、その目を爛々とさせた。

「瀬戸流と言えば、日本の武術に興味がある者なら知らぬ者はいない。その師範の娘がE-PSIerになってCPPに加入したとは聞いていたが…」

どうやら、ルーカスは小百合の家に代々伝わる瀬戸流剣術について知見があったようだ。

「私が初めて日本に興味を持つきっかけになったのが、瀬戸流剣術の高速乱打技術。あれをとある映像で目にしたからさ」

「そ、そうなんですか。えっと…ありがとうございます」

「やはり君もあの高速乱打を…?」

「えぇ。基本技ですから」

「素晴らしい!」------

「おい、ルーカス」

盛り上がるルーカスと、少し照れたように受け応えしていた小百合の会話に、新が割って入る。

「この子、aliasと試合…っていうかここだともう戦闘だよな。aliasと戦いたいらしいんだけど。その高速乱打とやらも見れるんじゃないか?」

------ここで新は、小百合が不思議そうな顔をしていることに気付く。新をaliasだと思っていた小百合にとって、今の状況は理解しにくいのだろう。

「っとそうだ。言ってなかったな。aliasってのは、俺の分身だ。俺は、分身をつくりだすE-PSIerなのさ。君が見たのは、俺じゃなくて分身の戦闘だ」

「……な、なるほど。そうゆうこと」

「ほう。瀬戸さんがaliasに戦いを挑むのか、それはおもしろそうではあるが…」

ルーカスはそこで言葉を切り、少し真顔になって二人それぞれに一瞥をくれる。

「その戦闘フィールドには私も立ち合う。もちろん基本は手出ししないがね」

新と小百合は、どこかルーカスに凄みを感じ、理由を聞くのは遠慮した。

「だ、だよな。審判みたいな人もいたほうがいいだろうし」

「そうね」

------

ポーンッと小気味いい音でエレベーターが停止、無音でドアが開く。

「あそこだ」

ルーカス、新、小百合の三人は、連れ立ってジムのある階に辿り着いた。

立ち並ぶジムのなかで、ルーカスが指し示した、一つのジム。

そこだけに、またもや人だかりが出来ていた。

しかも前日よりさらに多くの人がいる。噂がうわさを呼んだのだろう。

今日もaliasは、通常のトレーニングではあり得ない数のデッドを屠りまくっているようだ。

「新、aliasが武器を決めたことは聞いたか?」

「あぁ。今朝わかれるときに、そんな話をしたよ。剣を使うことにしたって」

「どうも一番しっくりきたようだな」

「私も、武器を決めるところを見ていたわ」

今度は小百合が、二人の会話に割って入る。

「武器を選ぶためにあれこれ試していたみたいね。その試し打ちを見て、私は彼が剣の達人だと勘違いしたの」

「え…試し打ちで?」

新が素っ頓狂な声をあげる。

「だから、戦いたくなったのよ」

「そうか、昨日のギャラリーのなかに君が…しかしね、aliasといえどほかの武器に関しては、握った途端に扱えたわけじゃない。すぐに使いこなせていたのは剣だけだよ」

火に油だぜ…という言葉を飲み込む新。

そして小百合は、無言のまま沸々と闘志を燃やしはじめた。

------ジム内のフィールドに表示されたデッド湧出時間の残量が0になり、aliasがすべてのデッドを葬ったところで、ルーカスが人だかりをかき分けジムの扉を開く。

巨躯を誇るその男は、腰に手を当て仁王立ちになる。

そして右手の掌を前に突き出し、そのまま右方向へ横一線に振りながら声をあげた。

「aliasよ!」

------ルーカスがaliasに声をかけるときはこのポーズとセリフがお決まりとなっているが、aliasは毎回吹き出しそうになるのをこらえるのに必死だ。

「やぁ、ルーカス。あれ、新も来たのかい?」

大量のデッドとの戦闘をこなしながらも涼しい顔をしたaliasが、三人のほうへ歩を進める。

「ふふ、alias。お客さんは新だけでは無いぞ」

ルーカスがそう言うと、その大きな図体に隠れていた小さな女の子が姿を現す。

「?」

aliasはポカンとしている。

「こちら、瀬戸 小百合さんだ」

「初めまして。aliasさん」

「初めまして。えっと、僕に何か?新の友達かい?」

「いや、alias。俺も今日初めて会ったんだ。この子は、お前に用があるのさ」

「僕に用って、なんだい?」

「------私と、戦ってくれませんか」

意を決して戦いの申し出をした小百合に対し、aliasは目を丸くする。

「僕と戦う?えっと、それは戦闘って意味だよね?今ここでデッドとやってたような…」

小百合がコクリと首肯すると、横のルーカスが口を開く。

「そのとおりだ、alias。瀬戸さんは最近、戦闘員としてCPPに加入したE-PSIerだ」

「せ、戦闘員?」

aliasは、信じられないといった様子だ。

「信じられない、といった様子ね。でも、戦ってみればわかるわ」

「うーん…」

「大丈夫だalias、危険と判断したらすぐに私が最大重力で二人の動きを停止させる」

「まぁバーサーカーにさえならなければ、それでも大丈夫か…」

小百合にとっては意味がわからない会話だったが、aliasの意思が戦闘に向き始めたのを察知したところで、改めて言葉をかける。

「手合わせ、お願いします」

「わかった。いいよ、やろう」

------

ジムの武器庫に入り、私は武器を選ぶ。

ルーカスさんが、

「真剣で戦えば戦闘員同士の殺し合いになってしまう。剣の形状をした打撃系武器を使うように」

と、私とaliasさんに指示したから。

aliasさんも、同じ条件で別の武器庫で武器を選んでいる。

私は自前の竹刀にしようか迷ったけれど、強度的にE-PSIer同士の戦闘には耐えられないだろう。

武器が壊れてしまえばその時点で勝負あり…負ける気など微塵もない私は、強度重視で武器を選定する。

「これがいいわね」

私が選んだのは、細身だが重厚な木刀------

戦いの前に、軽めにE-PSIを発動した状態で実際に木刀を振ってみると、重厚感から来る重さは消え、その細い線に見合うスピードで技を出せる。

確かな手応えを持って、いざフィールドへ...

フィールドの真反対には、すでに別の武器庫で武器の選定を終えていたaliasさんが立っていた。

奇しくも、同じく木刀を選んでいる。私のものより長さ・幅ともに大型ではあるけど…

------後日、木刀を選んだ理由を聞くと「いや、あれしかないでしょ。ギリギリ壊れなくて殺傷能力ないやつなんて」と、軽く返されてしまった------

「二人とも、準備はいいか」

「僕はいいよ、ルーカス」

「私も…いけます!」

「では、一方が負けを認めるか、私が続行不可能と判断した時点で勝負ありとする!不服は無いか!」

「あぁ!」

「えぇ!」

「では、いざ!尋常に、勝負!!」------

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