恥のそよ風~easy breezy~

恥の多い生涯を送って来ました。
この一文から文章を書き始める度胸、ないしは、物書きとしての矜持たるやいかなるものだろう。高田馬場のボロい木造アパートに住んでいた10年前の僕は、この太宰治『人間失格』の書き出しに、圧倒されるというよりは、むしろそれを頼もしく感じながら(微笑みさえ浮かべて)その間延びした学生期間に、何度かこの本を読み返した。すごいなほんま、いいながら。

この「恥の多い生涯」の一文に、頼もしさを感じるなんて言うと、素っ頓狂に響くだろうか。でも実際その通りで、僕の人生を振り返って、はじめての自意識の困難が、この日当たりのわるいアパートに詰め込まれていたのであり、そこでは太宰治は「自意識の困難の先輩」として、篤く信頼されていたのだ。異論はなかろう。

つまるところ「少し世間とズレてる感じがしないでもない」自身のよろめきを、太宰治の「よろめきながらも厳粛あり笑いありの血の文章」に重ね合わせ、そのかっこよさや、世間評価すら含めて、アリってことよなぁ…。とひとりごちる。そんないくらか安易な性格もあったと思う。ただし、そんな風にまとめた日には「そう見えるならそうなんじゃない(お前の中では)」とか、言い返されるような真剣さもあった。そんな記憶がある。

なぜこんな10年前の思い出をひっぱってきたかと言うと、新共同マガジン『一日一恥』を書こうということになったためである。

10年前、おぼつかなくなり始める僕のために
このマガジンでは、常識的にはミスとされる恥を「礼賛すること」を個人的なモットーにしたいと思っている。このへんの位置づけやモチベーションは、リレー形式で書いていく(現状3人!)各人で多少の差はあるだろうけれど、僕なりの勝手なアイデアを聞いておくれ。

深夜の2時から4時が一番好きで、屋外の洗濯機があるベランダの、ドア窓開けて腰掛けて、ビレバンで買ったオレンジ色がこぼれる関節照明の下、特に好きでもないマイルドセブンの6mgのタバコと、ウイスキー的なものを室外機の上に置いて、「楽ではないよなぁ」とかいった小説の字面にぐっときていたあの頃の僕に話しかける。

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結論から言おう。アナタがおぼつかなくなってきている未来像は「まだよくわからない」と。そして、よくわからないことがスタンダードでもあると。変化変化の世の中です。仕事一つとっても、一つの専門技能で云々言う時代ではなくなりそうです。我々は永遠の素人になるそうですよ。要は新しいことを学び続ける必要があるということね。色々知りたいと思っているのであれば、悪い話でもないけれど、ちょっとめんどくさいわな。

そうそう、アナタが好きな銀河鉄道999の「これからの星」は、あれこれ不都合や問題も多いのに、そこにいる人々は皆口を揃えて、これからや!これからや!と言ってる星なわけやけど、メンタリティー的には意外と遠くない気がしてる。

明確なゴールがあって、最適なアプローチを考えるという発想ではなくて、どちらかと言えば、思い描く世界をこれから創っていこうみたいな思想に近いっぽい。うっかり話が大きくなりましたが、世は総表現社会。ビジョンが大事になってきていますよ、と伝えておこう。

―話が見えんな?と。恥と何の関係があるんや?と。お前の共同マガジンは何なんや?と言う声が聞こえそうやな。

まぁお聞きよ。太宰治もどっかで「自らの書くもので、向かうべきものがやうやう見えてきた」的なことを言うてたやろ。あやふやで申し訳ないが。

つまりは、大学生のお前のこれからの10年は、無明へと至る道です。就活でふわっといい感じで入った気がした会社は50ヶ月勤めて辞めて(ちなみに、送迎会は自分で企画する)それから旅に出て世界一周して帰って来て、フリーランスと無職の丁度真ん中を走っています。驚きましたか。

まぁ今やそない珍しいことでもないから心配すな。ただ、そんな行き当たりばったりでも、幸いにも、わからないながらでも話せば「やろうやろう!」って言うてくれる人がいることは知ってていいかも。10年後のアナタは、人に相談とかが出来るようになります。良かったな。

ジタバタ一択
「わからない、答えがない」が前提なら、具体的にやって、沢山失敗して学びながらやるしかないやろ。というわけで、アナタがいつぞやにTwitterで言うてた気がする自己分析の「照れ屋で、引っ込み思案で、ええかっこしい」を標準装備している状態では、なかなかの状況になってます。かわいそうに!あほあほー!

だから、今は恥を肯定的に捉えていこうとしています。先般の旅する気持ちを大事にしようとする流れも受けつつ、いろいろと旅にこじつけて考えてしまうんやけど、言うなれば、人生という旅で出会う心地良いそよ風のように、恥もあははと書き捨てて行けばいいんじゃない?というものが『一日一恥』の見てる景色ってことね。題名はそんなところ。

大体のことは伝わったろうか。インパクトと納得感狙った太宰トークはどうやった?

―書き出しが違う。

バレたか。そうやな。『人間失格』の本当の書き出しは、私は、その男の写真を三葉、見たことがある。やな。

無くしたと思って買い直し、その後ひょんなところから見つかったせいで、高田馬場のアパートの本棚には、2冊の『人間失格』の黒い背表紙が並んでいましたとさ。一つは新しく、一つは古く。

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以上、今回はまさまさが、浅草橋の鳥貴族からお送りしました!ご意見、コメント等、お気軽にお寄せ下さい。

次回は、みゆきちです!ご期待あれ!

よくぞここに辿り着き、最後までお読み下さいました。 またどこかでお目にかかれますように。