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その色合いが好き - ジェンドリン

私が好きな臨床家、「フォーカシング」のユージン・ジェンドリンの紹介です。

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オーストリア生まれのジェンドリンはカール・ロジャーズの共同研究者(あるいは後継者)として知られていますが、本来は現象学派の哲学者です。

その技法「フォーカシング」は、フォーカサー(来談者)本人にしか分からない身体感覚の動き(=フェルトセンス)に焦点をあてたカウンセリング。

何かを思うときに、”胸が痛い”とか”喉が詰まる”とか、言語化される手前の個人的な「かんじ」を扱います。

与えられたものが物理的な衝撃でなくても、私たちは、胸を押さえたり、首を振ったりしますね。何重年も生きていたら、胸が痛くなるとか、体が熱くなるとか、じんましんがでるとか、ありますよね。そこには何か、言語化される前の確かな身体感覚があるのです。フォーカシングでは、それを観察します。

最近(2017年)までご存命だったので、ネットで検索すると、在りし日のご本人が話す動画などがすぐに見つかるのも嬉しいところですが、ジェンドリンは、手法をマニュアル化することを是としない臨床家だったようです。

言語化以前の身体感覚は、パターンにおとせない。

私たちはひとりひとり、違う世界を見て感じている。使う言葉も違うけれど、言葉とかそれ以外のものも介して、共鳴しながら生きている。

言葉をギブアップした瞬間に、対話は上滑りしてしまう。だから言葉を尊重しなければならない、注意深く選ばねばならないけれども、しかし、言葉が全てではない。

地に足を付けた肌感覚。

ジェンドリンがユダヤ人であった彼の一家が1938年にウィーンを脱出した時のことを語った記事(こちら)は、そんなに長い記事ではないので、ご興味のある方は是非、ご一読いただきたいと思います。

子供のころにナチスの迫害に命を脅かされた、ひりひりするような体験がつづられています。それが、ジェンドリンのフォーカシングの、明るすぎない個性の根っこにあるんだなって、腑に落ちます。

明るすぎない、というのは、例えばロジャースの来談者中心療法には「人は人の中に答えを持っている」というテーゼがありますが、同じことを言うのに「人を救うのはその人でしかない」という言い方をするような。

臨床家が来談者の自発的な進化を信じて傍らに佇むとする点は同じですが、人の孤独を見るそのまなざしの色彩が、ロジャーズが陽光のような暖色なのに対して、ジェンドリンのそれは、透き通った寒色系のように感じます。完全に個人的な「フェルトセンス」ですけど…そこが、わたし好みなんです。

「好きな芸術家は?」と聞かれたら、10-20代にかけては、はじめてその作品の前で戦慄したことがあるピカソの「青の時代」推しでした。年齢とともに、ミレーとか、ターナーとかより優しいのが好きになってきてるんですけど、どれもジェンドリンっぽい気がするんです。

どなたさまも、ハッピーなライフキャリアを。

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