見出し画像

ママ、保育士体験をする

ヨーヨーの通う保育園には、一日保育士体験のプログラムがある。参加すると、廊下に親子写真が掲示される。

今年になって、その存在に気づいたヨーヨー(4歳)が、「‘’ママ先生‘’やって」と言うので、うっかり「そうねえ、やろうかな」といったら

掲示の前を通るたびに(つまり毎日)「ママもやるよね!」「いつ?あした?」と、キラキラした目で見上げられるようになってしまった。

彼は翌日には自ら「僕のママが‘’ママ先生‘’します。」と宣言していたらしく、一週間以上経ってわたしが重い腰を上げて申し込んだ時には、既に担任の先生の知るところとなっていた。

なかなか予定が合わせられず、二ヶ月越しになってしまったが、今週、ついにその‘’ママ先生‘’の日がやってきた。

朝の9時から17時まで、体操→プール→ごはん→お昼寝→おやつ→自由遊び!

羨ましい一日?いやいや、主役は幼児。

お着替えにもトイレにも、まだまだ手がかかる。そして舌ったらず。思っていた以上に”ママ先生”は大人気で、みんな一生懸命話しかけてくれるんだけど、その半分くらいが何を言っているのかよくわからない!

ヨーヨーが大好きな「ファインディング・ニモ」のカメの子・スクワートとクマノミ父さんのマーリンの会話でこういうのがある(日本語訳が原文に続く):

(スクワート)OK, crank a hard cutback as you hit the wall. There’s a screaming bottom turn, so watch out! Remember--rip it, roll it, and punch it! :いい?壁にぶつかる時は固いカットバックのところクランクしてね!ボトムターンが絶叫してるから、気を付けて!忘れないで…リップしてロールしてパンチだよ!

(マーリン)He’s trying to speak to me, I know it! You’re really cute, but I don’t know what you’re saying!:私に話しかけてるんだよね!わかってるよ!君ってホントにかわいいけど、何言ってるか全然わかんないよ!

…このシーンを何度思い出したことか。

そして、そんな小さい人たちが全力でプールの水をはね散らかしたり、ごはんをのんびり食べたり、お昼寝したりする表の対応の裏でも、食器を並べたり、お布団敷いたり、泣く子をあやしたり、保育士さんは休む間なしの大忙しなのであった。

実は、ヨーヨーには「お昼寝のときは背中トントンしてね!」と頼まれていて、それはたぶん仕事の中で一番楽かなあなんて思っていたのだが、そのお昼寝時が盲点の大変さだった。あっちからもこっちからも「マキ先生!」「こっち来て!」「トントンして!」とお呼びがかかる。

中には大人しい子もいるけれど、そういう子も本当は構ってもらうと嬉しいのでだ。自分が幼児の頃そういうむっつりしたタイプだったので、声にならないリクエスト(うまく説明できないが、ちょっとした目線とかモゾモゾ感とか)も、ついフォローしてしまう。

焦った。手が10本くらいほしかった。

催眠療法のテクニックで何とかならないかとか一瞬血迷って呼吸を読みかけたけれど、珍しい大人がいてやや興奮気味の20人以上の子供たちを一度に寝かせつけるなんて、天才催眠士、ミルトン・エリクソンなら、もしかしたらどうにかできたのかもしれない魔法レベルだ。が、そもそも、催眠は睡眠ではないしお昼寝は治療ではないので、バカな思い付きは一瞬で冷めた。

そんなこんなであっという間の一日。小さい人たちのエネルギーをもらって、かえって元気になった感じではあるが、たっぷり体を動かしていい具合に疲れた。日頃の、保育士の先生方には感謝の限りである。

幼児数十人と一日過ごすなんて、かつての自分にとっては恐怖でしかなかったけれど、我ながら変わるものだ。

ヨーヨーも大満足で「楽しかったね!来年もしてね!」と喜んでくれたが、さてさて、一年後もまだ「”ママ先生”して!」と言ってくれるかしら。

彼らは恐るべきスピードで成長している。

そう請うてくれるのも今年で終わりかもしれない。

ママ、そばにいてと言ってくれるうちは、精一杯、答えたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?