『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』(坂本龍一)

『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』
(坂本龍一)

『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』
(坂本龍一)

2021年1月 直腸ガンの手術を終えた後、病室で教授がふとつぶやいた言葉がこの本のタイトルになった。内容は2009年から今年3月28日に亡くなるまでの活動の振り返り。享年71歳。彼が息を引き取ったとき 家族のひとりは「71年だけれど、でも、人の3倍は生きたよね」といった。まわりもその言葉に同意したらしい。実際、教授の生きた時間の濃密さからしたら210年でもおかしくない。それくらい多岐に渡る活動を、エネルギーを持って取り組んでいたこと。この本を読んで初めて知った。彼は偉大な人だった。

幸いなことに、昨年末、教授の最後のピアノ・ソロ・コンサート『Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 2022』を観る機会があった。本書によれば、このときはすでに1日数曲を弾くのが精一杯のコンディションで、撮影を終えてから1ヶ月ほどはずっと体調が落ち込んでしまった。それでも「死ぬ前に納得できる演奏を記録することができてホッとしています」とのことだ。実際、素人目にも教授の演奏は素晴らしかった。身体はかなり痩せ細っていたけれど声はハッキりしていたし生気もある。彼の存在から鬼気迫るものがあった。表現において、病気を患うことはむしろプラスに作用するんじゃないかと思うほどに。

***

「人は自分の死を予知できず──/人生を尽きぬ泉だと思う/だがすべて物事は数回 起こるか起こらないか/自分の人生を左右したと思えるほど──/大切な子供の頃の思い出も──/あと何回 心に浮かべるか/4~5回 思い出すのがせいぜいだ/あと何回 満月をながめるか/せいぜい20回/だが人は 無限の機会があると思う」

※ 『シェルタリング・スカイ』(1990年) |  映画の最後、原作者のポール・ボウルズが登場し、彼がぼそっと語る

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?