コミック感想『イイナ-Feel For Love』その2
ラストまでのネタバレを含む評論です。
結論から書くと、硝子坂イイナというメインヒロイン、彼女自身はハッピーエンドを迎えることはできませんでした。
作られた生命体が、人間として生きていくのがハッピーエンドの唯一の形とは限りませんが、「無垢で主人公になついてくる女の子」が主人公の恋人にならない、というのはショックでした。
「アイドルとは何か、ファンはアイドルのあり方に完璧を求めていいのか」という問いかけに対しての答えとすれば有りかとも思いますが。
「ファンの想いをすべて受け止める完全なアイドルはいない。いるとすればそれは人魚姫のように、最後には泡になって消えなければいけない」
イイナが作中で最後に演じた役・人魚姫はそんなポリシーの象徴だったと思っています。
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作中に登場する「ハリウッド7」という伝説的な映画制作集団には驚きました。
かつて「赤狩り」で表舞台を追われた天才スタッフ7人。「彼らの新作を見られるなら」と、内容を発表しなくても制作費がまかなえるほどのネット予約が集まる。
「都合がいいなあ」とちょっと思いましたが…「社会主義・共産主義者の集団が世間から追われる」というのは原作のS-nary Angel、大塚英志さんの生涯のテーマのひとつなので、これもひとつの原作者の、社会への反骨表現かもしれないです。
また、明らかに北野武監督をモデルにした映画監督が登場します。彼の取る「夕鶴」をベースにした映画の描写も静謐でよかった。
「池澤映樹」という映像作家…名前のベースは「池澤夏樹」さんかな? 声優をプロデュースするのは、お嬢さんの池澤春菜さんを思わせる。
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イイナ以外のヒロイン、幼馴染で後に女優をめざすこの葉と、「あや可Re-Birth」プロジェクトの声優をつとめるクラスメイトの理恵。
大きすぎる存在「自殺した生紙あや可」を乗り越えるために頑張る二人。最終的に光と恋人になるのは、いわゆるツンデレ関係だったこの葉。意外な結末でしたが、イイナ=あや可のコピーとすれば、その幻から離れることこそ、光の成長なのかも。
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ところで「生紙あや可」は「きがみ あやか」と読みます。変わった名前。
白倉由美作品『サクリファイス』の中で自殺するヒロインも「生紙あや可」なので、この世に適応できないアイドルを象徴する存在につけたい名前なのかも。
『サクリファイス』の生紙あや可はたしかロングヘアだったので、ボブカットのあや可とは似てないです。
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