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BTC市場における集団行動が市場に与える影響

UKIです。

仮想通貨トレードオンラインサロンが世間を賑わせています。このようなサロンの登場が相場の価格形成へ影響を与えるのでは、との懸念の声が上がっています。
今回はBTC市場(特にBitMEX)における集団行動が市場に与える影響を簡単に見積もりましたので手短に検証結果を報告します。


1.売買の偏りと相場へのインパクト

まずBitMEXのtradeデータを用いて、売買の偏り(Buy VolumeとSell Volumeの差分)と同期間のリターンとの相関を調査しました。
以下は売買の偏りと同期間の1時間足のリターンの散布図です。

仮にサロンのオーナーから売買指示が出て、1時間以内に1000人が平均10000USDのポジション(=合計1000万USD)を仕込んだとします。この集団行動による値動きの期待値はおよそ0.2%となります。現在の価格水準を7000ドルとするとその値幅は14ドルとなります。BitMEXでは新規建て&手仕舞いの両方を成行注文した場合、掛かる手数料は0.15%です。要するにサロンの集団行動による市場への影響は、手数料に毛が生えた程度のものとなります。

そもそもBitMEXは定常時は板が非常に厚く、1つの板に数百万USDの指値があることも珍しくありません。このことからもサロンの集団行動における市場へのインパクトは大きくないことは明白です。

さらに本データは過去の値動きを元にしており、1つの取引所で売買の偏りが生じるときには当然他の複数の取引所でも偏りが発生しています。サロンによる売買はこれとは異なり、1つの取引所における局所的なものであるため、実際の影響は上記の見積もりより小さくなると考えています。


2.相場のトレンド形成への影響

以下は売買の偏りとその後24時間、5日間のリターンの散布図です。

これを見ると、局所的な売買の偏りがその後の相場のトレンド形成に与える影響はないものと考えられます。


3.PUMP&DUMPの可能性

時折話題となるPUMP&DUMPなどの価格形成は、緻密に市場のマーケットインパクトを操作し、それぞれの注文が連携立って行われないと効果がありません。BitMEXくらいの流動性があればサロンによる集団行動でPUMP&DUMPは形成されないと考えています。

逆にPUMP&DUMPが発生しうるとすれば、サロンの集団行動を狙ったロスカット狩りに注意しておく必要があります。サロンの集団行動ではなく個別の大口プレイヤーによる計算立った行動のほうが市場への影響は遥かに大きいのです。このような集団行動に対する攻撃については、ヨーロピアンさん(@sen_axis)やAkagami(@akagami_v2)さんと議論を交わしたことがあります(以下リンク参照)。


[2018/8/9追記]
下記の記述ですが、記事をリリースしてから見返してみると間違っておりました。bFFXやBitMEXのトレードはデリバティブであり、買い残・売り残の概念はありません。急いで書き上げたため推敲不足でした。どちらにしろサロンの売買は不利であるため、以下のように記述を差し替えます。

[差し替え前]
またそもそもサロンの情報に基づくと、サロンの集団行動が行われた時点で多かれ少なかれ買い残(売り残)が偏っていることは明白であり、その後は逆方向のポジションに有利に働くことを忘れてはいけません。

[差し替え後]
またそもそもサロンの情報に基づくと、ポジションの情報(建値の水準や推奨レバレッジ、特に損切りの水準)が不特定多数に筒抜けであり、他の市場参加者から見て不利な立場となっていることを忘れてはいけません。


4.結論

結論としてサロンによる集団行動は、それ自体が局所的な値動きやその後のトレンド形成へ影響を与えるものではありません。よってサロン参加者が利益を得るためには、集団行動による相場変動の利益は期待できずオーナーのスキルに依存する部分が大きくなります。逆にロスカット狩りなど逆方向へのリスクが存在することを頭に入れておかなければなりません。

最後に、以下のブログにも言及があるようにサロンの集団による売買は仕手と見なすことができ、通常の金融商品では”クロ”となってしまう案件です。暗号通貨の投資には、通常の金融商品と同じく投資家保護のための規制が早く整うべきだと考えています。