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ランデブー

月食。
校舎から見られないかな、と思ってうろうろしていると、廊下の奥にいい窓を見つけた。

向こうの空に吸い寄せられるように歩いてきたから、男子生徒がひとり壁際に立っていることに気づかなかった。

彼はやや南を仰いでいる。
背中は自信がなさそうに見えた。
視線の先には弓形の、引っ掻いたみたいな光が浮かんでいた。

「きれいですね」と彼は言った。
表情は見えない。

「覆われるまでみていたいけど、もう行かなくちゃ」と言いながら、一向に動く気配はない。

影はすこしずつ弓をしならせて、傷を小さくしていく。
とうとう月がすっぽりと隠れた。光るのは非常口の緑色だけ。隣の生徒の気配までもが弱くなったように思えた。
音もなく立ち去る彼の背中に、本当は「またね」と言いたかった。

実在する生徒だったのか、今となっては確かめる術がない。