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「信頼できる語り手」

「信頼できる語り手」
act:ヘクトーよるをまもる / 山本夜更 / 小島基成
冒頭作者贅言:chori
BGM SELECTER:Miki Masuda

今回はPUB VOXhallではなくlivehouse nanoに持ち込んだイベント。
昨年11月ごろ、ものすごい偶然で音源(MV)を知った関東のバンド、
ヘクトーよるをまもる。
われながらびっくりするくらいドハマりしてしまって、
そこはおもいつき大臣のため、面識ないのに「京都!nano!来てほしいです!」とゴリ押し、
京都のよるをまもりにきてくれることと相成りました。ありがとう……!!

タイトルも彼らの「フィードバックプラクティス」という大名曲の、
「信頼できない語り手ばっかだ」というパンチラインをもじらせてもらい。
これは元ネタはミステリ用語で「信頼できない語り手」があって、
つまりは視点話者、一人称の地の文で嘘をつく、ないし嘘はつかずとも、
叙述トリック的なギミックがふくまれているという意味。
ヘクトーの歌詞にはS.キングやらチェーホフやら井伏鱒二やらメルヴィルやら、
とにかくふんだんに文学要素が散りばめられていて、
でもそれがけして衒学的、高踏的じゃない、平熱の勁さが前面に出てる。
あっ、これはのちほど個別感想にて詳述します。

◆Miki Masuda
もぐさん曰く「今音楽をいちばんすきな人間のひとりと思ってる」。
「そこですよねー!」と実感。
イースタンユースからSUPERCAR、スーパーノア、ピアノガール、わたなべよしくに……、
とかく、場の雰囲気を読みつつそこに引きずられないセレクトが激エモだった。
しっかり「nanoらしさ」も充満していて、
すばらしいBGM SELECTER、ありがとミキティ!!

◆chori
冒頭作者贅言、っていうのは、
本の最初のとこにある作者からひとこと、の意。
10分間4本勝負(オール新作)。
うち2編はヘクトーの「フィードバックプラクティス」、
「ワールド・エンド・岐阜」へのオマージュで、やりすぎやろchori……とはおもいつつ、
でもすきなものはすきなのです。てへっ。

◆小島基成(ムシケ)
詩人の帰還。nanoではもうすくなくとも5、6年ぶりかしら。
そのあいだに家庭をもち、子どもたちが生れ、社長にもなり。
最初の出会いはもっちゃんが大学生のころ(ちなみに代はかぶってないけど後輩)だから10年やそこらじゃきかないな。
当時からけっこうな頻度で顔を合わせては、ひたすら2人で酩酊しまくっては詩の話、HIPHOPやポエトリー・リーディングの話をした。
大阪でも京都でも東京でも、われわれは夜空の五線譜からこぼれおちた地上の塵だった。
血よりも濃い水(酒ともいう)でつながった弟。
環境の変化からか数年前に彼はお酒をやめたけど、
いまだなにひとつ色褪せちゃいないぜ。
still stand'n' in da bog yo.
「兄やん、まだぜんぜん諦めてないでしょ?」
「(フロアに向かって)詩人は2人だけ知ってれば大丈夫です。小島基成と、chori」
愚直すぎて、不器用で、けれど牛歩とはいえ常に鶏頭に立ってここまで来た、
もっちゃんの声もことばもステージングもハッとするくらいぶっとくなっていて、
とにかく抜けてくる。届いてくる。胸の裡へ確実になにか、ときどきめんどくさいくらいに置いてゆく。
オケ(ビート)はだいぶごついけど、それでももぐさんが「オケ(外音)ちょっと上げた」というくらい。
なにも弟だから身内びいきなんてしない、というか、
おなじポエトリー・リーディングの人間同士、逆にバチバチ対抗意識がある。
向こうは「兄やんをぎゃふんといわせたる、おれのがやばい」、こちらは「永遠に高い壁でなきゃ意味がない。ハンデつける?」みたいな。
そこに忖度とか変な甘えや馴れなど一切ない。
物理的に殴り合ったら負けるけど、
この夜、バチバチに(直接競うわけではないにせよ)いいステージがお互いできてよかった。
セッティング的なものもあり、転換入れずに冒頭作者贅言~小島基成を続けて組んだのも正解だったなあ。

◆ヘクトーよるをまもる
神奈川と東京からの平均年齢30歳のフォーピース。
先述したように、歌詞がほんとうにいい。
おもしろい角度、切り口だし、収束だったり、あるいはあえて投げっぱなしジャーマンにするとこもセンスの塊。
さらにメロディがすばらしい。リフ優勝。ソロも変則チューニングもモンドセレクション金賞。
おまけにステージ上でなんてたのしそうに演るんだ!という衝撃。
こういったUSオルタナやエモ感、あとローファイ性もあるバンドで、
犬は喜び庭かけまわるかんじの演奏はなかなか観たことがなく(犬バンドを標榜してるので乗っかったまでで「この犬がぁぁぁ」みたいなことではない)、それそのものは善悪に直結しないけど、彼らの場合、めちゃくちゃハマってた。
メガネが2回(2人ぶん)飛び、スティックも2本飛んでたね……!
8曲中4曲はYouTubeで、ぜんぶあわせたら余裕で100回以上聴いてるけど、
とくに2~4曲目の「ワールド・エンド・岐阜」「フィードバックプラクティス」「山椒魚」の流れは、五体投地しかけたほどchori得でした。語彙、旅に出た。
めちゃくちゃすてきだな、とおもうのは、詞の話ともある種相通ずるけど、
ふつう、これだけ文学的くすぐりがあるとどうしても内攻的というか、
「わかるひとは1粒で2度おいしいですよ!」になりがち、
たとえば(音楽ジャンルとしてというより精神性にちかい部分で)
シューゲイザーやアシッドフォークの文脈っぽくなってもおかしくないけど、
そこが見事な振れ幅のうえ「いい危なげのある」志向性を保っているように感じました。
そして、4人ともめっちゃ「うわあ人間だ!すごくすきな人間だ!」と。
な、なにを言ってるのかわからないかもしれないけど、
よく飲みよく食べよくしゃべりよく笑う。
その尊さというか、信頼できる語り手すぎるよ。
ほんとうにだいすきです。
大事なことだし、メガネもスティックもあれだったので2度言います。
だいすきです。
絶対またnanoで観たい。
次回はもぐさんブッキングがいいなあ(チラッ)。

◆山本夜更(Wee Small Hours)
組んでから気づいたけど、ヘクトーがよるをまもったあとに、
夜更(そしてWee~は夜明け前という意味)って順番、なにか降臨してた。
彼とは奇縁妙縁で今月4回一緒(対バンもあれば主宰に出てくれるとかも)だけど、大正解だった。
「フォークパンクなんで40分で十数曲やります」にはしびれた。
根っこにはブルースやファンク、ソウル、いろいろあって、
とにかく手広いワードローブだけど、散逸しないのがすごい。
ぎゅっと絞ったタオルの心地いい冷やっこさも、
遠巻きに暖炉を囲む冬の夜のあたたかさも、
びゅびゅんびゅんと運ばれてゆく車窓のイメージも、
鴨川で寝っ転がって見上げた青空も、
ひょっこりと顔を出しあいながらちゃんと生活としてそこに存在して、ことばや音のかたちをまとって「こんにちは」してくる。
ケレンもあるっちゃあるけど、それがすごく誠実なケレンというか、ファニー。
「これおもしろくないすか?」が、直線でも曲線でも、
とことんうつくしい軌道を描いて伝わるんですよね。
さらには、十数曲のなかで、2編ポエトリー・リーディングがあって、
(余談だけどぼくが主宰してる詩のスラム「ポエトリー・ナイトフライト」、先月優勝をかっさらっていったのが夜更です)
「もう文句ない文句ない」とおもわず昭和軽薄体でバカオロカchoriはつぶやいたのだった。
彼は6月25日に「ポエトリー・ナイトフライト」でチャンピオンステージ、
また30日には将棋のプロ棋士牧野光則六段を招聘しておこなう、
詩×ボードゲーム×音楽×詩×クイズ大会という謎イベントにも出演(いずれもPUB VOXhall)。
どんどんおもしろいことしてこうね!

以上、「信頼できる語り手」の感想でした。
飲みすぎたわけではないけど(8杯)、肉体年齢が99歳の祖父よりいってそうな37歳なので、
足腰の限界がきて24時ごろ帰宅、1時間ほど倒れて、そこからまた+5杯目をあけつつ、ここに記す。

もぐさん、まーこおばちゃん、ミキティ。
もっちゃん、オサメくん、アンジュンくん、うぃるくん、文学くん、けんけん(夜更)。
そしてこの一夜を目撃してくれた、
信頼すべきお客さんのあなた、ほんとうにありがとうございました!!!



    

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