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"choir"voice.14「朝焼けと雨」

"choir"voice.14「朝焼けと雨」
act:神社宏行(asayake no ato) / 藤村光太(It will be rainy(but I go.)) / 北小路直也(MILKBAR) / カーミタカアキ(ULTRA CUB)

※竹垣伯羽はキャンセルとなりました

タイトルは映画「キツツキと雨」からで、
まだ20代の小栗旬演じるインディーズ映画監督のビルドゥングスものなのだけど、ジャンルは違えどおなじクリエイターとして10代、20代前半からずっと観てきた面々なので。
そこに安直にせよ「asayake」「rainy」というバンド名、
キツツキと伯「羽」、「5月14日、雨の日に。」という大名曲のある直也、など、いろいろ縦糸横糸が張り巡らされた流れです。カーミもサンズイの係累だもんなあ。
狙いすぎて安直だとおもったあなた、今度チェンソー持って会いに行きます。

◆カーミタカアキ
伯羽くんキャンセルが当日昼だったので(体調の問題で本人に責はない)、
急遽1番手に繰り上がったけれど、ぶっといステージだった。
ぼくには、カーミってバンド(ラブズ、ULTRA CUB)、ソロとわず、
めちゃくちゃひとことであらわしにくいミュージシャンで。
表層はへらへらしてるようで芯を感じる切迫感があり、
掃き溜めのクズかとおもわば一瞬の光度がちょううつくしい。
ノリで流されてる気がしても、実際は知的な切り口がたくさん見える。

音楽性自体は(バンドの曲とソロのと両方やってはいたけど)、
これはひとことでいうと「きれいなGOING STEADY」みたいな要素はあって、
もうちょっと正確にはゴイステ以降の約20年でミックスされたりブラッシュアップされたり袋小路に入ったり、
数多のバンドやミュージシャンたちが右往左往しながら陶冶(?)してきたその系譜のひとつだとおもう。
ただ、カーミならではなのは、詩(歌詞)の絶妙なバランス感覚。
やぶれかぶれをかっこいいとするでなく、ネガティブな内向性に偏重するでもなく、
ただそこへ「自分」がいて、しかもそれを「カーミタカアキ」が俯瞰している。作者と話者みたいに。
もちろん他人とつながりたい欲求や、愛のかたちをなぞろうとする空気はあるにしても、
それは幾十、幾百といった感情や体験のアウトプットの一部であって、
寝たい、とか、腹減った、と同列に並ぶかんじが信頼できる。
そもそも鳩を素手で捕獲できるひとだしなあ……。

今回、5組のジャンルがそれぞれ微妙に位相がちがって、
そのなかでもカーミは強いていえばいちばん独特なため、
伯羽はじまりでの2番手、最強のギミックとして考えて出順を組んだけど、
いい夜の口開けをしてくれました。
新曲は内臓をぐっと掴まれる、というより、
「いま内臓に皮膚のうえから手当たってるな」って温度を感じた。
マジありがとう。

◆藤村光太
出会いは光太が10代、「ジャンクフードパーラ」ってバンド時代、
主催イベントを、どんな経緯だったかは失念したけれど、
いまはなきWhoopee'sに観に行ったことから。
その日彼は失恋し、ベースがトイレから帰らず、当時高校生だったドラムはのちにぼくと一緒にバンドを組むという、
いまおもうとカオスな一夜でした。

光太のよさはいろいろあるけど、
あの「どっから声出てんねん」っていう抜け方。
歌唱そのものはものすごくハイスキルなわけじゃないし、
いい意味での歌いまわしのクセはあるけど、平坦なところはとことん平坦で、
いま、たとえば米津くんやぼくりりやあいみょんなど、
「とにかく万華鏡レベルで感情表現が変わらねばならぬ」のをすきなひとには退屈かもしれない。
でも、個人的にはそういうアートフォームって、
隙間時間に1曲、3~4分だけ聴くならわかるけど、
アルバム単位やライブ、つまり30~60分だと飽きちゃうので、
(もちろんCDじゃなくDLや定額制じゃないと売れない時代だから否定する意はないです)
「(技術やアイデアなしにただ)平坦である」だけなら別として、
「”平坦”という表現」をできることに敬意の念を送る。

長くなったけど、
つまり、ロックマナーに則ったうえで、
めちゃくちゃまっとうなことをやってるとおもう。
喩えが細かすぎてわかりづらいかもだけど、競馬でいうなら、

・スタートはよいにこしたことはない(イントロなり歌い出し)
・道中はかからないよう、手綱をしめる(AメロBメロ)
・第3コーナーあたりからじわじわ上がっていく(2サビ)
・最終コーナーでおもいきって外へ出すとか馬群を割る(Cメロ)
・直線めっちゃ追う(ラスサビ)

みたいな流れがぴったりハマるかんじの曲構成でありステージだなと。

最初に言及した15年前のイベントでもやってた「脱臼」や、
旧VOXhallやnanoでブッキングしたときの定番ラス曲「leave」をやってくれたのもうれしかったし、
それだけじゃなく光太のキャリアを駆け足で総括するようなセットがいい流れになっていた。
自分のなかの思い入れとかなにがしかの仮託は差っ引いても、
平熱でエモいギターロックってなかなか見当たらないし、
そのうえで「藤村光太」という人間の幹があったかかったな。
これからもよろしく!!

◆北小路直也
正直なところをいうと、
北小路直也については全幅の信頼を置いていて、
「北小路室町(住所)のVOXhallに出てくれてありがとう!」みたいな、
箸にも棒にもかからないジョークしか言いようがない。
だって、これはすくなくとも彼やMILKBARのライブを観たひとの9割には伝わるとおもうけど、
常に(他の演者と較べてという意味ではなく)優勝するタイプのミュージシャンだもの。
といって中村佳穂やミズノミカみたいな「天才」ともちがって、
「最強の天才肌」(これは村島洋一にも通ずる)。

「いい手は指が覚えている」(by郷田真隆九段)
「(郷田の)志は雲のような志だ」(by先崎学九段)
「助からないとおもっても助かっている」(by大山康晴永世名人)
「定跡を文字にしたら丸ビルがいくつあっても(所蔵に)足りない」(by塚田正夫名人)(※大意)
みたいな将棋の名言・箴言を彷彿とさせる。

出会いは旧VOXhall、2008年だったか、
まこっさん(店長)が月曜日なのに7組で組んだ狂気のブッキング。
誘われたので休みだけど夕方から観に行って、さすがに疲れてトリ&初ライブのMILKBAR前に帰った。ごめん。
つまり、出会ってない。
でもその後なんやかんやで共演が増え、
世代もほぼ一緒(MILKBARは直也が1コ下、ほかの2人が同い年)ということもあってか、
ツーマンやったり、車で送ってもらったり、飲んだり、CD一緒につくったりもした。
なにか、ウマが合ったんだろうな。

直也を語るとき、
もちろんあの特徴的な声と歌いまわし、そして詩(歌詞)を挙げるひとは多いだろう。
ぼくも最初はそう感じていた。
でも、十数年つきあってきたいまおもう北小路直也は、
「世界を裏返したい」という欲求と、
「世界の表面を丁寧にやさしくなぞりたい」感情です。
もっといえばその両立。併存。

「掴みたい背中とパスタ男」「Hello Lina」「君に涙、僕に涙」「THE JOSUA TREE」「5月14日、雨の日に。」といった、
誰もがぐしゃっとなるであろう名曲はやらなかったけど、
とにかく詩人のくせ語彙が足りず恐縮ですが、
「ふつうにめっちゃよかった」。
これはすごいことだ。
「北小路一世一代のライブ」「北小路伝説のライブ」とかじゃなく、
ふらっとあらわれてなかなか消えない痕跡をはっきり残してゆく。
それって、ちょうすごくない?
頸筋にうっすら赤い噛み痕みたいだった。

◆神社宏行
この夜はまず「asayake no ato、神社観たいな」が発端で、
とにかくめんどくさいほどに「おねがい!帰ってきて!」と五体投地した(現在、関東在住)。
nano時代も組んでたし、純粋なお客さんとしてライブも観てたし、
新曲のMVが上がるたび悶絶しつつ勝手に宣伝などしていたけど、
それでも5年くらいはlong time no seeで、ぼくのなかの神社成分が枯渇していた。
だから、リハで「おはようございますー」って本人が登場したとき、伊之助くらいほわほわした。
ここではasayake no atoではなく神社宏行というミュージシャンのことを綴ります。

彼の凄味はなんといっても、あの「どっから出てんねん」という声(二度目ー!)、
抜群のメロディライン、そして詩的でありつつ非常に映像的なワードセンス。
本来内向な感情が放射状に拡散されてゆくそのうつくしさ。
エモくもあり、けどそのエモさが力任せではなく、(人間としての)鍛えが入っている。
この夜はごく初期の名曲「指板の海」からはじまって、
2曲目は出番直前、喫煙所にいたぼくのとこへふらっとやってきて、
「choriさん、聴きたい曲あります?」と。
「えっ!?いま!?」ぼくの脳内はこんがらがった。
(クライマーもいいなあ、渚の光芒もいいなあ)
でも、1秒で「Movielike」といったら「ですよね!……できるかな」。
たしかにバンドサウンドありきの(ほうがおいしさが伝わる)曲だけど、ソロでも最高だったよ。
直近の曲もふくめ、this is 神社というセットリストでした。
染みた。

とにかく神社の「突き抜け方」はすごい。
競馬でいうなら直線で、届かないとおもったところから豪快に差し切ってくる。
「どっから声出てんねん」は光太も似てるけど、光太は先行というか、好位につけてしゅっと出てくるタイプで、
神社はミスターシービーまでは言いすぎにせよ持って持っての直線一気がますます堂に入ってきたなとおもった。
バンド編成とちがって、ソロでは自分が王様かつ国民なので、
そこらへんの折り合いが難しいとおもうけれど、
いや、緊張や不安はあっても迷いはないな、このひとって。
こころのそこから信頼できる。

現場にいた方には伝わったことまちがいない。
でも、現場にいなかったあなたにも、
神社というすばらしいミュージシャンに興味を抱いてもらえる一助になれば、これにすぐるさいわいはありません。

ほんとうにすばらしい夜だった。
伯羽くんも「(出演キャンセル)めっちゃ悔しいです」って言ってくれて、
またそう遠くないうちに出逢ってほしいな。

関西(由来)バンドのフロントマン縛り(結果的にだけど)の一夜。
そして、鳩を素手でつかまえるコツは「ノールック」「気配を消す」(by小学校時代からのキャリアをもつカーミ)だそうです。



 

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