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小澤拓朗さん - センス・オブ・アライバルを追及する人


何が向いているか分からないまま

大学時代は経済学部で国際金融の植田和男ゼミに所属していたので、卒業後は金融業界に進む人や官僚になる人に囲まれていました。

私は投資やトレーディング等の金融業務に興味はあったものの「やってみないと、それが自分に向いているかわからないなあ」と思っていました。そこで、組織内でのジョブ・ローテーションがある日系金融機関に入り、様々な金融業務だけでなく世の中のことを学んでいけたらと考えて東京三菱銀行に就職しました。

最初は青山支店で中小企業向けの営業を担当しましたが、3年目には、設立されたばかりのCPM(Credit Portfolio Managementクレジット・ポートフォリオ・マネジメント)の部署に異動しました。

CPMとは、それまで営業活動を通じて日系大企業に偏りがちであった銀行の融資の世界に、投資や資産運用の「ポートフォリオ」の概念を持ち込み、最先端の金融技術を使ってデリバティブ(金融派生商品)を作ってリスクをヘッジしたり、銀行取引のない海外企業のローンをまとめて購入してリスクをテイクしたりするなどして、融資ポートフォリオのリスクを分散化・最適化する手法です。

当時としては最先端の取り組みで、通常、入社3年目の若手が配属される部署ではありませんでした。多分、他に希望する若手がいなかったということもあり、強く希望していた私が配属されました。先輩たちは、銀行中から集められたとても優秀な中堅以上の方ばかりでしたので、日常業務をこなしていくだけで、大変苦労しました。リーマン・ショックの直後ということもあり、証券化商品やクレジット・デリバティブのマーケットが音を立てて崩れていく様子を目撃し、その渦中でとても緊張感のある日々を過ごしたことが印象的です。

2010年からはニューヨーク支店に異動し、米国におけるビジネス拡大のなかで、米国の融資ポートフォリオを対象としたCPMを推進する仕事を担いました。

ただ、世間的には「リスクを取り過ぎたからおかしくなったのでは?」という見方が強く、ますます厳しくなっていく金融機関へのリスク規制に対し、やるせない思いがしました。また、日本のメガバンクが海外市場において、欧米系のメイン・プレーヤーたちと互角に渡り合えない現実も目の当たりにしました。

その頃から、仕事のやりがいについて考える中で、自分は本当に金融の世界に骨をうずめたいのだろうかと考えるようになりました。

それでも、3年間のNY赴任を経て一旦は日本に戻り、次は海外の銀行を買収する業務につきました。アメリカ、アジア、ヨーロッパ、それぞれの地域の銀行を分析してターゲットを考え、買収のためのデュー・デリジェンスや交渉戦略の立案を担当しました。銀行も事業会社と同じで、非連続的な成長のためのM&Aは有効な手段です。

ただ、世界中の銀行を分析する中で、銀行業界の将来に面白みや希望を見い出せなくなり、転職活動を本格化させました。

時間をかけて見つけた、やりたいこと

折しも、2020年の東京オリンピックの開催が決まった直後でした。2000年代前半に小泉内閣のもとで大規模再開発の規制緩和が一気に進み、六本木ヒルズやミッドタウンなどの再開発が話題になっていました。そこではたとひらめいたのは、子供の頃の夢が「大工さん」だったことです。

父が建設会社で橋やダムを作る仕事をしていたことも影響したかもしれません。私が5歳の頃に自宅を建て、その建築現場を見に連れて行ってもらうのが好きでした。大学入学のために上京してからも、新しくできた丸ビルや表参道ヒルズに足を運び、受付でフロアマップをもらってわくわくしながら歩き回ったことを思い出しました。

2015年、ご縁があり、三井不動産に転職しました。最初はオフィス事業の用地買収の部署に配属されました。将来、都心に大規模物件を開発するために、新しい街の青写真を描き、未来の価値を算出して土地の買収交渉をする仕事です。

携わった案件のひとつが、複合的なスポーツ施設を中心とした再開発です。そのエリアにあるスポーツ施設は老朽化が進んでいるため、いつかはリニューアルが必要です。絶え間なく入る試合の予定を止めずに建て替えを進められるよう、関係者と膝詰めで計画を検討しました。開発の経済性や建物のデザイン等はもちろんですが、全体の景観、緑の質と量、利便性等、さまざまな観点から検討を重ね、将来の姿を想像しながら、計画をブラッシュアップさせていきました。完成はまだまだ先ですが、自分が関わった開発として今でも気にかけています。将来、新しく生まれ変わったスポーツ施設で観戦することが楽しみです。そして、ここを訪れる多くの人が楽しんでいる様子を見ることがでれきば、開発に携わった者としての冥利に尽きます。

さて、そんなエキサイティングな4年間を過ごしているうちに海外勤務の念願かなって、2019年4月、ロンドンに赴任することになりました。今は、バッキンガム宮殿に近いMayfair(メイフェア)や大規模な再開発が進むKing’s Cross(キングス・クロス)でのオフィス開発に関わっています。ロンドンに限らず欧州の主要都市では不動産開発の規制が厳しく、時に経済性よりも街並みの保存のほうが優先されます。ひとめ見て「ロンドンだ」とわかる街並みを、何百年というロングスパンで残すために、みんなが知恵を出し合い、現地のディベロッパーや行政とも協議をしながら進めていく仕事は、面白くやりがいがあり、日本に持ち帰れる学びもたくさんあります。

しかし、ロンドン駐在ももうすぐ5年になるので、遠くない将来にまた社内異動になるかもしれません。どこに行くかは分かりませんが、私は毎年異動先の希望を聞かれるたびに「リゾート開発をしたい」と言ってきました。

本業につながる海外旅行の趣味

もともと私は、少なくとも月に1回はどこかに出かけるほどの海外旅行好きです。日本にいる時はアジア、アメリカにいる時は中南米、そして今は欧州のいろいろな国の街歩きを楽しんできました。不動産業界に来てからは、いつか仕事に生かすつもりで、それぞれの街で良いところを見るようになりました。将来、今までの経験や知見を日本でのリゾート開発に生かす仕事を手がけたいと思っています。最終的には、日本の美しい自然や街並みの魅力を引き出すリゾート開発を手がけたいです。

そこにいるだけでリラックスしてゆったりとした気持ちですごせるリゾートとして思い浮かぶのは、例えばイタリアのコモ湖です。急峻な山の間に湖がある地形が日本に似ていますが、日本において、あのようにセンスの良い感じを出せているところは、なかなかありません。インバウンドで外国人に来てもらうのもよいですが、日本人が自分たちで休暇を楽しむために行く魅力的なリゾートが、国内にもっとあってもいいと思うのです。

不動産開発の究極のエンドユーザーは個人です。オフィスでも、街づくりでも、そこに来る人たちがまた訪れたいと思う場を作るには、まず自分がユーザー視点を持ち充実していなければなりません。そうでないと良いアウトプットはできません。三井不動産には、社員に対して「一生懸命働いて、一生懸命遊んで」と、様々な経験を推奨するカルチャーがあります。ビジネスとしての経済性も大事ですが、究極的には、ディベロッパーはみんなにいいなと思ってもらえるような街をつくっていくことが大事だと思います。

自分の生涯の仕事を決めるうえで、若い頃から「これをやりたい」と思えることがあることは、ないよりもいいことかもしれません。が、一方で、経験が少なく視野が狭い中で思い付く「やりたいこと」で自分の未来を早々に決めつける必要はありません。そもそも何が向いているのか、いろんなことを比較してみてみようという考えで最初の一歩を踏み出し、想定外の出会いや経験を通じてハマるものを見つけるという、私のようなキャリアも一つの形かもしれません。

若いうちは自ら進んでいろいろな経験をし、選り好みをせずに、偶然の出会いをいったん受け入れてやってみる積極的な姿勢がポイントだと思います。感じたり、出会ったりが道を開きます。

ニューヨーク駐在の直前に、どなたに言われたのかは忘れたのですが「駐在中、お声がけをいただいたら、億劫がらずに全てに出向くこと」という言葉に出会いました。

それを大事にして、当時、縁を得た方々とは、今でも、業界や世代を超えた交友関係が続いています。英国でもできるだけ色々なところに顔を出すようにしています。様々なところに行ってネタを仕入れたり人脈をつくったりすることが、結果的に仕事や人生を充実させることにつながっていくのではないかと感じています。

ゴルフ会へのお誘い

旅行以外にも、スキューバダイビング、ワインなど、いろいろなものにハマってきた私ですが、目下いちばんの趣味と言えるのは「ゴルフ」です。

始めたのは社会人になってからですが、特に英国にきてから、英国ゴルフ場ランキングのトップクラスのコースでプレーする楽しさに目覚め、なんと半年で70ラウンドもプレーした時期もありました。2022年に結婚してからはさすがにそんなに行けなくなっていましたが…。

圧倒的なおすすめは、ゴルフ発祥の地でもあるスコットランドのコース。

不動産業界には「センス・オブ・アライバル(Sence of Arrival)」という言葉があります。そこに到着した瞬間に強く印象づけられる、理屈ではない何か。「ワオ(WOW)感」とも言うようですが、スコットランドのゴルフ場には、しっかり作り込まれた名門コースから、200〜300年の歴史を誇る地元密着の小さなクラブまで、どこへいってもそれがあって、ジーンと心が満たされます。北の気候はタフなので、18ホールをプレーすると心身ともに疲れ果てますが、プレーの後にクラブで、夕日に染まったコースを眺めながら飲むエールも格別です。一生の思い出になるような、こんな素晴らしい経験ができる施設の開発を自分が手掛けてみたいとも思います。

英国赤門学友会のなかでは、ゴルフ会の4代目キャプテンをつとめています。公式戦は年に6回。「赤門杯」「ブルー・カップ(vs. 京都大学 洛友会)」「東商戦(vs. 一橋大学 如水会)」をそれぞれ春秋に2回づつ開催しています。カジュアルでフレンドリーな会なので、ゴルフ好きな方は、パブ会で私をみつけてぜひお声がけください。

ゴルフは、たとえ自分が会心のナイス・ショットを打っても、突風に煽られたり、石ころに当たったりで思わぬところにボールが行ってしまうというような理不尽と向かいあうスポーツです。もちろん逆もありますが、結果が全てであり、受け入れるしかありません。

自分としての最善を尽くしたら、後は運任せ。「人事を尽くして天命を待つ」という、ある意味、仕事や人生にも通じる、奥深いスポーツだと思います。

公式戦以外にも、会員同士で誘いあって週末にインバネスやセント・アンドリューズに遠征するような機会もあるので、ロンドン以外に住んでいる方も、ゴルフ好きなら是非。事務局宛にメールで問い合わせたらゴルフ会につないでもらえます。一緒にセンス・オブ・アライバルを探しに行きましょう!