なんたる星2018.9月号連作評

みんな元気かな。ってけっこう思いますが、みんなが誰なのかはわからないです。
評やっていきましょう。なんたる星9月号です。うし号読んでね。うしがいるので。

http://p.booklog.jp/book/123907

今回は一首を引いて連作を掴んでくんじゃなくて、最初から全体を掴む感じでいこう、という試みでいきます。どうやるんだろう。

『薄める』/加賀田優子

相手がある静かさ。関係があってひとりがあって、少しだけ世界に触っていく。「触られたかもしれない」と世界が少しだけ表情に出してくれる。それがきっと少し嬉しい。
アンケートとかお客様の声とかを元に、いろいろなところは怖いくらい最適化されていって、漏れなく自分にもそれは向けられて、それは結構やられて怖いぞということもある。ちょっとしたバグとかいい加減さとか、他人・世界が自分じゃないことの安心。

かなり抽象化しすぎてるね。。。という感じなのでこのへんから一首も見ていきましょう。

まむかいでわらう妊婦の脇腹が内側からの指に波打つ

人がいたら世界なら、妊婦の内側(言い方がやばい)は世界なんだという。こっちに触れてこようとする他人、と、あるいはこっちが触れられる側の世界として存在している、という実感。

平日の夜にいちじくひとパック買って玄関で食べている

ひとり感があって、「いまあんまり世界に触ってないのでは?」みたいな気持ちから出てくる行動と思う。ただ「食べているなあ」というのを思っているので、自分が世界じみてしまっているという。世界にならないのはむずいのかもしれない。

タイトルはつまり世界濃度とかそういうもののことかな。「める」なので、意図的にそうしているのかも。


『安藤さんの社宅のひかり』/スコヲプ

夏と安藤。安藤はちょっと不穏。かっちりした夏の描写の歌が挟まって、それは背景というか視点としては近い方で、安藤さんの歌が遠くの方に、でもくっきり見えるビルみたいな印象で、その遠くにいるのにはっきり見える感じ をさせたい一連なんだろうと思った。

ほかのひととは違うねと言われて安藤さんの複雑な笑み

「複雑」と捉えた主体の気持ちが安藤さんとの距離を縮めるまでいかなくても掴みたそうな気配を漂わせていて、9首めのジャケットの歌でもそうなんだけど、それでもたぶん掴めなかった、という遠さって気持ち。

どこかしらアジアの市場にいるらしくインスタグラムに映える安藤

インスタグラムってどっちかというと遠さを思わすSNSという印象で、つまり現実感が薄い感じの加工できれいよねってニュアンスだと思ってるんですが、海外からインスタって遠さの極みを見ていて安藤おまえは本当そうだよな。

遠いのは距離じゃなかったはぐれゆく安藤さんの社宅のひかり

本当にそうだよな感。


『秋の話をしよう』/ナイス害

想像と妄想の一連で、想像と妄想は何が違うかわかんないけど、とにかく何か見て何か考えてしまう人というふうに見える。何か考えなくてはならない、に見えてくるとけっこう良くないと思うのであれしていきましょう。
わりにかわいい、という印象を押し出してておいおまえこれはちょっとやりすぎじゃないのか、と思うんだけど、幼児の想像っぽさがあるからですかね。語彙として若干おっさんなので完全にそっちにいってはいないんだけど、逆におっさんかわいいみたいな文脈も根付いてきてるのでそっちのパッケージに見えてしまうのかもしれない。

おならをしてきみより少し前に出る おならをせずにきみが追いつく

これは大人っぽい妄想ですね。妄想好きが大人になった感じ。ふわっと関係性を漂わす感じでかっこいい。おならの話でふわっと漂わすとか言うな。しかしナイス害、おなら=かわいい を使いこなす稀有な人材というイメージ。

カラフルな糸で餃子の皮を閉じずっとかわいいままのフライパン

これは中でも狂気方向で、なにせ自分でかわいいって言っちゃってるし、「ずっと」らしいし餃子は別にかわいくないらしい。なんか食える糸とか使う事例があったらごめんなんだけど食べ物で無茶するのってわりに簡単に狂気に踏み込む気配が感じられてすごい。


『きっと』/はだし

確かにそうだな、そうだよ の歌たち。絶対に因果で無茶をしないぞという気持ちがある。あたりまえの因果で起きる現象にある詩情を掘って「これそうだろ」って提示する手つきと、ほんとに何もないのを眺めてるのが入り混じってる感じ。詩情が起こる理由考えればいくらでも言えるだろうけどそれを普段全く意識できないのだということを知る。

カーテンをあたらしくした部屋の窓から公園と車が見える
目薬の使用期限は西暦であと3ヶ月くらいだそうです

このあたりの若干の意図したねじれがポイントというか、完全に漠 にしちゃうとなかなかとっかかれないのでつくられた凹凸になってる。

自動販売機でふたつ飲みものを買うとひとつめは押し出されて

これがスッと自然に短歌に見えたらもう完全にはだしの手中ですね。

何もない白い部屋なんだけどいろんな仕掛けがある脱出ゲームみたいな感じのやつでした。しんぼるとか。寿司が出るボタンだけずっと覚えてる。


『感想』/迂回

自分のも同じ読み方で読もうとしたら全然読めなくてびっくりした。
とりあえず最近口語が強く出てるなって自覚があるんだけど何を口語で書いているんだこいつはという感じがあった。それでも何か引っ張ってみるなら、やっぱりみんなそれぞれいろいろ考えてるんですよということで、最適解じゃなくても誰にも理解されなくてもひねり出した答えを抱いてそれぞれの相手に勝たなければならない。それを口に出すと異様なんだけど。

全部よくなってしまった 見学がいるけどイカにミシンかけるよ

思う っていろいろあるよな

幼少のころからソーラーパネルは身近な存在でした

インタビューでありそう。肯定か否定かわかんない

ダメになったらむかし飼ってた柴犬がダイソー突っ切って助けにきてくれる

ダメになるときもあり、かっこいいことを思うと良い

総じて好きなこと思いましょうという感じだったんだと思います。最後のエビの歌あんまり作った記憶ないんだよな。

以上です!わりと自分が連作を連作~と思ってつくるのでこういう読み方はしたいんですが、抽象しすぎてそうだねってなってしまったりそう読みたいだけになったりでむずいです。まあでもまたやっていきましょう。

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