なんたる星2019.2月号連作号評

 れいりゃ!書くのひさびさ~ですね。なんたる星がどばどば出たので評を書きます。この号は5周年記念号なのでちょっと大盛りです、やったな。

http://p.booklog.jp/book/125966

評の書き方あいかわらず定まらないんですが、ゆっくりいきます。

ふりかけ(加賀田優子)

 5周年記念ラジオ(そういうのがありました)でちょっと喋った加賀田優子の抱える刃物感というのが直接的にはあんまりなく、でもあえて見出すなら「ここに透明な触れない刃物があるんですけどね」と前のひとに言いながらそれをどんどん飲んでってるみたいな印象。例えば一首目「なんにでも」六首目「みじかい」あたりにその気配を感じている。

お説教みたいなのやだやだのんでのんで芋虫のはなしをして

 これが一番好きで、無垢さ、ちょっと変な急所を掴もうとしてくる無垢さ、の鈍い重たさがこのへんをピークに溜まりきる。

外国のことばの意味もわからない映画のピアノのみじかい響き

あんなにも大事にしていたシーラカンスの目がなくなって 意外とへいき

 ピーク後どうなるかというとその質量を振り回してぶつけてくるイメージなんですよね。そういう喩えにすると刃物じゃなく鈍器になってしまうが。
六首目「言葉の意味」を見たとき、ことば以外も意味がわかっていないのでは、という疑いのあと出てくる「ピアノのみじかい響き」は意味なのかどうか。五首目までの無垢・無邪気っぽさって可愛さとか人としてきれいな感性みたいなニュアンスがあったんだけど、これで一気にマジの異人である可能性が見えてくるというか。
 一応「シーラカンスの目がなくなって 意外とへいき」なのはすごく人っぽいところに着地してるので安堵はする。

ツーショット遺影(ナイス害)

 あーあんまり連作っぽくない雰囲気だな。無理に読もうとするとだめになりそうなので素直にふんふんと読みましょう。
 ラジオの中で僕がナイス害に「言葉マン」と評されましたけど、この連作見てるとよっぽどナイス害が言葉マンですね。雰囲気としてはふわきら薄靄レイヤー一枚かけた感じで統一されてますけれど、レイヤー突き抜けたそうな顔で置いてある語彙が楽しい。七首目「遺影」、八首目全体あたりがそれになるんだけれど、逆にナイス害的語彙の三首目「コンドーム」、十一首目「被告人」、十五首目「横顔を縦から見たい」とかがレイヤー内にある雰囲気なのも面白いですね。
 総評としてはそんな感じで個別に読みましょう。

顔に空を描いて真ん中におそろいのシリウス描いて ツーショット遺影

 顔を空に描くのはいいんだけどシリウスはもう空にあるので、でもそれを描くという。2個描くという。そのくらいの規模の無茶、じゃないとツーショット遺影はできねえぞという感じで、上記の通りのふわっとした綺麗なレイヤーを、壊すんじゃなく対比として突き抜けた歌になってるとおもう。

素敵だ どんなに髭が似合うだろう背の高い高いアルビノの月

 四句の2/3/3の字余りがなんかやたら好きですね。初句字足らずからちょこちょこ転ばされるんですけど、物語るっぽさのよく出てる四句が呼吸まで聞こえそうでよいです。結句で収まるんだけど、するっと飲まされる感じでインパクトていう方向じゃないけど音を楽しむのにちょうどいいなという内容。

栄養関係(迂回)

 なんか食べ物の連作をどっかに出して結果よくなかったのでリベンジみたいな気持ちで出したけど、そんなに食べ物でもないですね。普段ぐらいの割り合いに見える。普段から食べ物が好きだ。

単一の黄桃点の腐り落ち中身にセケン染み込んでいく

 何のとかじゃなくイメージの歌のつもりで、わりとよいなーと思うんですが、セケンの表記だけちょっと良くなかったかなぁ。よそよそしさがわざとらしいのと、せがれいじりをどうしても思い出す。
 あと最近の自分の口語っぽさをちょっと消しにかかった形跡が見られる。がんばれ。

ごどうがぎごえる 立たないでまだ穴でしょう耳になってはいないのでしょう

 初句の「ぜんぶ濁音です」って嘘ついても一瞬それっぽく聞こえるのがお気に入り。なんか巨神兵みたいなイメージですね。なんだろうこれ。

 そんな感じであんまりやりたいこと試せてない感じがあり、もうちょい待ってくれもうちょいというところです。

柚子(はだし)

 なんか音数の心地よさがまず来るのは僕の今の体調なのかなんなのかわかんないけど、定型ちょいずらしくらいの感じが全体に心地いい。
 内容でいえば日常(とありえるくらいの非日常)をまじで驚かせるように切り取る技を前面に出してる感じ。前の評のときは日常未満の「凪」な事象を短歌に見せる、というようなことをやってたけど、今回でいうと展開はあるんだけど超普通で、でも切り取り方見せ方がテクくてはだし、というところですね。

完全にふたりの息が合ってない獅子舞がこっちへ 来てますね

 結句の音の切り方が不穏。子供なら泣くと思うんですけどたぶん大人なんですよね。でも不穏なのは感じてて、笑ったりはするかもしれないんだけど、なんかちょっとぞっとしたとこを実は持ってるんじゃないかなーと思うんですけどどこにも書いてないのでこれはおれだ。「 来てますね」の空白に何が書いてあるのか。

柚子ぶつけんなって このやろう それならこっちも柚子だ 柚子戦争だ
許しあってる人たちのなかで今いちばん柚子のにおいをさせて

 明確につながってる二首で、後半は独立はしてないんだけど今回一番ほんわかだなーと思ってすごい好き。微妙なニュアンスばかり読んでいるとまぶたとれるぞ。
 ほんわかってなんやねーんというとまず許しあってる。よかった。柚子戦争、いくら熟してても痛いと思うし。そしてその瞬間でいちばんになっている。いちばん柚子のにおいをさせてるのは間違いない、戦争だったから。許しあったふたりがいちばんになるのはとてもいいことだ。お風呂入って、まだ残ってる匂いを笑いながら寝てほしい。寝てほしい。

メロウ・ホワイト(スコヲプ)

 これは生活だなー生活だと思う。かなり短歌の顔を着込んでますけども。つらさとか歩く道とかそこであったこととか、生の感触を写したり重ねたりできれいにして置いてあり、とても詩なんだけどやっぱり生活の質感なんだよな。一首目と最終首で風景と自分の呼吸を重ねてるあたりがハイライト的に「そう」だと思う。

信じれば咲く王冠の花なんだ額を軽く撫でながら言う

 めっちゃかわいく笑ってそうな無邪気感。日常だとともすれば狂気扱いされるやつなんだけど、信じるのも咲くのも花なのもめちゃくちゃ尊さのシンボルで、でも現実に写し取るとだいたいしぬやつ。という気配は感じずにいられないんだけどやっぱでもほっぺた赤らめてがんばってる感じもある。

吐く息でさくら通りを染めようか一月もまた二度とは来ない

 働いて歩いて思ってからのここ。で、ちょっと振り返って噛み締めて踏みしめる少しの力強さ。ぐっと踏んでる。一月はまさに今の一月、は二度とこない、ということだと思うけど、今の一秒も二度とこないと思うとけっこう怖くなってうわーとなってる間に終わってしまう。そういう怖さもまとめて踏んで蹴ってる。

以上2月号でしたね。連作いっぱいあるとやっぱちょっとアガるというか、うわーいと読み進めていけるのでよいなぁと思います。ならいっぱい評も書けばよかったけどすまん。
企画は「やりたいこと」です。今後の展望でも話すかと思いきやみんなてんでんにやりたいことを書いていて、まあでもやっぱみんな生きてるしなという感じです。生きよう。生きます。よろしくお願いします。

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