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サンフレッチェ広島のジレンマ


リーグ戦、天皇杯、そしてルヴァンカップという3つのコンペンティションを最後まで争そい、そのうちの1つを掴み取ったサンフレッチェ広島の2022年はあらゆる点において広島サポーターの記憶に残るシーズンだった。


コロナ禍での序盤戦の監督不在。劇的な試合の数々。悲哀と歓喜の2つの決勝。


加えてサンフレッチェ広島における偉大な背番号の正統後継者が出現した年としても記憶されるだろう。それも2人同時に、である。

川村拓夢は森崎和幸、川辺駿が背負った背番号8を、満田誠は佐藤寿人の11番を、それぞれ継承するに否やはない活躍と出自で勝ち取った。とりわけ長らく不在だった11番の系譜の出現は否応なく、新シーズンのピッチ上で縦横無尽に跳ね回りゴールを量産する満田誠の姿を広島サポーターに想像させたものだった。こうして満田誠が新たな背番号を背負って出発したシーズンが数試合を経た今、その想像とは少し違った現実を満田は歩み始めている。

サンフレッチェ広島が抱えるジレンマ


現在、広島の先発を予想することの難易度は高くない。GKは日本代表大迫敬介。CBの3枠は、佐々木翔、荒木隼人、塩谷司からなる三銃士の聖域だ。中盤の1枚は野津田岳人が務める。川村拓夢はボランチでもシャドウストライカーでもプレーできる。最前線はナッシム・ベン・カリファが身体を張って、その周りを森島司が衛星のように動き回る。この8名に加えて満田誠が先発する。(もちろんこれらのポジションは不可侵を意味しないので、新たにポジションを奪いとる選手が出てくることにも期待したい)

昨シーズン当初はウイングバックとして出番を得た満田だったが、スキッベ監督がそのシュート技術と常にゴールへ向かう姿勢、試合終盤にも相手に向かってスプリントできるスタミナを最も活かすために中央のポジションで起用するまでそれ程時間を要したわけではなかった。
昨シーズンの大半をシャドウストライカーとして中央でプレーした結果、チーム内得点王となり広島のユニフォームに新たなステラを刻むことに貢献したのは広島サポーターの周知の事実である。

迎えた今シーズンにおいて、昨シーズンのチーム得点王が、結果を残した中央のポジションではなくウイングバックで起用されることが多いのはいささか奇妙な話だ。お世辞にもゴール数が多いとは言えないチームにあって誰しもが新背番号11のゴールに期待するのは当然の帰結であって、本来であれば満田自身が、そしてスキッベ監督でさえも、ゴールにより近づける中央のポジションでの起用を望むはずである。実際にビハインドや同点で試合が推移した場合、必ず満田を右ウイングバックから中央のポジションに移す選手交代が行われる。(シャドウストライカーに移る場合が多いが、時にはボランチに入る事もある。)
この事実こそが広島が抱えるジレンマを端的に表現している。


右ウイングバックの不在


昨シーズン、広島の右ウイングバックを主に担ってきたのは藤井智也であり、シーズン後半は野上結貴や茶島雄介が務めることが多くなっていた。藤井と野上という主に右ウイングバックをこなしていた2人が同時に移籍してしまったことで、誰が右ウイングバックを務めるのかという問題に開幕戦から直面することになった。(開幕戦は中野就斗が起用された。)
攻撃ではサイドを抉ってアシストやゴールに絡む働きを求められるのはもちろん、相手が低い位置で攻撃を組み立てようとすれば前に出てそれを阻害しなければならない。守備では自陣深く帰陣して5バック形成に参加する。(この多忙さがウイングバックを難しくしている1つの要因でもある)
求められるタスクの多さ、そしてそのタスクのクオリティを担保するだけの長所を持ち合わせていた満田が右ウイングバックに起用されるのは無理からぬことだった。
しかし、結果としてゴール前で相手に与える脅威が半減してしまうというジレンマに陥ることになる。リーグ戦の横浜Fマリノスとの試合やルヴァン杯名古屋戦のアシストなどに象徴されるように満田が攻撃に絡めばゴールの可能性を感じさせるものの、守備では自陣ゴールラインぎわまで帰陣して相手ウイングと対峙する満田の姿に多くのサポーターがもどかしさを感じていただろう。特に第3節横浜Fマリノス戦の得点シーンと失点シーンは満田の右ウイングバック起用の表裏の象徴のようなシーンだった。

答えを見つける


このジレンマの解決には、既存戦力で補填する、フォーメーション自体の変更に着手する、外部から選手を獲得するという3つの道が開かれている。

満田の次に右ウイングバックで出番を得ているのは中野就斗である。本来CBの選手であり守備の面では全く問題にならないが攻撃において幅を取り縦に仕掛けてクロスを折り返すといったウイング的なプレーはレパートリーに持ち合わせていない。そしてより攻守のバランスに優れた茶島はコンディションが整えば右ウイングバックの争いに参戦してくるはずではあるが、茶島にしても本来は中盤的な資質を持つ選手であり、右ウイングバックが本職というわけではない。現在の陣容の中で最もウイングバックの適正に優れているのは今期アビスパ福岡から加入した志知孝明であるが、惜しむらくは彼が左利きであるということだ。右ウイングバックに逆足の選手をおくメリットはほとんどない。

そんな中で迎えたルヴァン杯グループステージ第3節の神戸戦はこのジレンマに対する1つの回答だった。
神戸戦で右ウイングバックで出場したのはこの試合がプロ初先発だった19歳の越道草太。神戸がターンオーバーにより主力組を温存していたとはいえ5-0の大勝には確かにこの若きウイングの貢献があった。特に攻撃面においてそのドリブルやシュートが相手の脅威になっており、良いクロスからチームの3点目をアシストしてもいる。しかしこの活躍が右ウイングバックの論争に完全に終止符を打つわけではない。確かに越道草太の活躍は素晴らしいものだったが、神戸戦が初先発のルーキーに過度に期待しすぎるわけにはいかない。昨年の満田のように覚醒すれば広島サポーターにとっては2年連続の嬉しい驚きにはなるものの、あくまで満田は例外であると考えるのが自然だ。また本来であればウイングやサイドハーフに配置して攻撃に専念するタイプの選手であるように映る。いずれにせよ右ウイングバックを誰が務めるかという問題は今後も流動的であると予想できる。

そうであればフォーメーションの変更によって右ウイングバックというポジション自体をなくすという選択肢も存在する。
フォーメーション自体を3バックから4バックへと変更する可能性はシーズン前から示唆される場面はあったものの、結果が伴っている限り現状の広島の最強の武器である3CB、そして森島司と満田を前線中央で起用できる現在のフォーメーションを解体する必要性が高いとはいえない。シーズンが進むにつれて違うフォーメーションの選択肢が検討される瞬間がくるとしても直近でそれが起こるとは考えにくい。

そして、3つ目の選択肢である外部から選手を獲得することを選ぶ可能性ももちろんある。

当面、広島が抱えるジレンマに対する解答は出そうにないが、どの様な道を選択するにせよそのジレンマを乗り越えた先に強くなったチームの姿があるだろう。2年連続でタイトルを獲得したとしても全く驚きが無いほどの潜在能力を、現在の広島は備えているように映る。

最後に先の神戸戦で確定した解答が1つある。

満田誠はゴールに近い中央でこそ最も相手に脅威を与えることができ、それこそが広島に勝利をもたらす最良の選択肢であり、右ウイングバックの問題を満田誠で解決するのではなく別の方法で解決した方が遥かに賢明だということである。それが答えだ。

#サンフレッチェ広島 #Jリーグ

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