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【132】少子化問題についての提言 2023.4.13

1 練馬区が消失する! 

 今朝4月13日の朝刊に「日本人が75万人減少」という衝撃的ニュースが第1面に大きく載っていました。75万人というと練馬区や大田区、熊本市等に相当する人口です。これらの区や市が一年で消失していると考えると問題の深刻さが迫ってきます。
 人口、特に社会を支える若年層が減るということは言うまでもなく経済力の低下、社会の活力の低下、国を守る力の低下などすべてに影響します。
 今後増え続ける高齢者をどのように養っていくのか、日本の世界に誇る伝統的な文化の継承をどうするのか、エネルギー、食糧、温暖化などへの備えをどうするのか、社会インフラの維持・拡充をどうするのか、中・露・北朝鮮などへの備えをどうするのか、こうした問題山積の状況の中で、人口減が今や重大な危機的状況に至っていることを認識する必要があります。
 そして人口減の主因である少子化問題は、国を挙げて対策しなければならない喫緊の課題であることは明らかであると思います。

2 歴代政府の取り組み

 2.1 政府の対策の経緯

 調べてみると、過去この問題に政府も手をこまねいていたわけではなく、政府が少子化問題を国民生活白書で公式に認識したのが1992年(宮澤内閣)で、この時点で「少子化とは出生率が低下し、子どもの数が減少すること」と定義され、出生率の低下に伴う子供数の低下傾向が人口を維持するのに必要な水準を下回る状況が1970年代半ば以降続いていると分析しています。 そして2003年9月(第2次小泉内閣)で少子化社会対策基本法が施行され、「国民生活に深刻かつ多大な影響をもたらす急速な少子化進展への対策」を目的とし、日本の少子化を抑制するため「少子化社会対策基本法」が制定され、2003年9月から施行されました。
 さらに、政府はその後2004年(第2次小泉内閣)、2010年(菅直人内閣)、2015年(第3次安倍内閣)、2020年(菅義偉内閣)の時に「少子化対策大綱」を閣議決定
し、具体的な対策を実施してきているのです。

2.2 政府の対策内容

 政府の過去の少子化対策における重点課題と対策を見てみると以下の5項目を柱とするものでした。
 ①子育て支援施策を一層充実:財源を確保しつつ、保育の受け皿確保、待機児童解消など
 ②若い年齢での結婚・出産の希望の実現:結婚・出産を希望する人が減少しており、経済的な不安が背景にあるから経済的支援の促進、負担軽減を計るなど
 ③多子世帯へ一層の配慮:一世帯あたりの子ども人数が少ないことも少子化の要因であるので、多子世帯の子育て・保育・教育・住居などの負担軽減や優遇措置の促進など
 ④男女の働き方改革:男性の育休取得促進、女性の継続就労やキャリアアップ支援支援など
 ⑤地域の実情に即した取組強化:地域の強みを活かした取り組みや、地方創生と連携した取り組みなど、

 これらの対策を政府は、内閣総理大臣をトップとする「少子化社会対策会議」を中心に、「まち・ひと・しごと創生本部」と連携しつつ、政府一体で推進してきたのです。   
 しかしながら、2003年の少子化社会対策基本法の実施から数えても20年間、民主政権も含む歴代の内閣が継続して少子化対策に取り組んできたにも関わらず少子化は加速するばかりなのです。

3 過去の政府の対策は的外れ!

 つまり結果論からすれば「過去の政府の対策は自民・民主を問わずいずれも的外れであった」と言わざるを得ないのです。 
 となれば、政府は、
 ①過去の対策が的外れであったことを認め、
 ②何が間違っていたのか、何が抜けていたのかを検証し、
 ③不足していた部分を新たな発想で大胆に対策

していくことが必要不可欠だと思います。
 そうした意味で、現岸田内閣の「異次元の対策」も伝え聞く範囲では過去の対策の継承拡充に過ぎず、新しい発想が見られず、このままではとても流れを変えるには至らないのではないかと憂慮せざるを得ないのです。

4 過去の対策の何が間違っていたのか:経済的不安がすべてではない!

 前述した政府の対策内容ですが、要するに、子育ての負担を軽減し、経済的不安を無くすことのみに終始しているように思われます。
 しかし果たして経済的不安がすべてなのでしょうか?
 そんなわけがありません。図1で見るように1950年当時結婚率は98.5%でした。当時は皆裕福で経済的不安は皆無だったとでもいうのでしょうか?
 未婚率は1980年ころから急激に上昇していますが、逆に国民の生活水準が戦後の高度成長期を経て貧困から抜け出していった時期に重なるのではないでしょうか。

図1 結婚率(未婚率)の推移

 また年収と既婚率に関する図2を見ると、確かに年収が多い方が既婚率は多くなって(ただし、年収は年に従って増える傾向があり、高収入者の既婚率には年収が少ない若いころに結婚した人も含まれることは割り引く必要がある)いますが、では年収が500万、600万、800万を越えていて経済的には問題無いとみられる層が100%結婚しているかというと全然そうはなっていません。

図2 年収と既婚率の関係(ここで私が興味深いのは「恋人あり」の率がどの年収層もほぼ同じことで、この人たちが無事結婚にたどり着いたのかが知りたいところです。)

5 何が本当の問題なのか?

  少子化問題を解決し人口を維持するには、男女二人が生涯に二人以上の子供を設ける必要があります。
 このためには
  ①図1に示した結婚率を上げること
  ②完結出生児数一夫婦当りの子供数)を増やすこと
の2点が必要になります。
 図3の表は夫婦が生涯に何人子供を設けるのかの完結出生児数の推移です。

図3 完結出生児数(夫婦が生涯に何人子供を設けるかの推移

 表から、1952年には3.5人だったものが2015年には1.94人まで漸減していることがわかります。
 これは結婚した夫婦についてのことですから、人口が減らないためには、これに既婚率をかけた値が2人を超えなければならないということになります。(結婚せずに子を設ける家庭については統計に含まれていないので、もう少し少なくても良いのかもしれませんが。)
 図1と図3を合せて、この数値を計算すると、
 男女二人当たりの出生数は
  1952年には結婚率が98.5%くらいなので 3.5ⅹ0.985=2.98人 
  2015年には結婚率が75.2%くらいなので 1.94ⅹ0.752=1.46人
となっておりこれではとても人口が維持できなくなっていることは明らかです。

6 完結出生児数が少ない原因は? 

6.1 これも経済的理由がすべてではない

 図4の所帯所得別の子供数を見ると、年収が400万から500万以下の層では子供がいないか一人のみの割合が多くなっており、経済的負担が大きく影響しているであろうことが読み取れます。けれど、600万以上の世帯でも1000万以上の世帯でも3人以上子供がいるのは10%程度に留まっており、収入に比例して子供数が増えるということが見られず、経済的問題だけがすべてではないことを示しています。
*なお、この図では収入と年齢の関係は含まれておらず、年収が低い層で子供が少ないのは平均的にまだ若くこれから子を持つ可能性もあることは考慮しておくべきと思います。

図4 世帯所得別子供数 

6.2 子供数減少は晩婚化の影響が大!

 図5を見ると平均初婚年齢は1975年の男27歳女25歳が2019年には31歳と29歳と4歳上昇しており、1975年には第3子を出産した時の母の年齢が31歳であるのに対し、2019年では第1子時点で31歳であり、第3子では34歳になっています。

図5 平均初婚年齢と出産時の母親の年齢

 娘が結婚し独立するときの母親の年齢を計算してみると、1975年では第1子で51歳、第3子では56歳であるのに対し、2019年では第1子で60歳、第3子では63歳(いずれもその状態が続いた場合を仮定して出産時年齢と結婚時年齢を加算)ということになります。
 第3子の息子が結婚して独立する時の父親の年齢を計算すると、生まれたときの年齢が父が母より平均して約2歳年上であることから36歳とし、息子の結婚年齢31歳を足すと67歳とほぼ定年に達してしまうことになります。
 このように晩婚化の進行がライフプラン的に多くの子供を持つことを妨げているのではないかと思うのです。

7 結婚率の低下の原因は出会いの少なさにある!

 図2では年収が高いからと言って一概に結婚率が高いとは言えない実情が示されました。
 私は結婚率の低下は学校を卒業後の職場環境において出会いの機会があまりにも少ないことに主因があると考えています。
 職場に同年代の独身女性がいない、配属された職場には既婚のおじさんばかり、というようなケースがあまりにも多いのではないでしょうか。
 かといって仕事はとても忙しく、早く仕事を覚え、なんとかこなせるようになるためには年休もろくろく取れない状態が続き、婚活に費やす時間などない真面目で責任感のある人ほど仕事に打ち込んでしまい仕事が面白くもなり、結婚は一人前になってからなどという意識もあって、ようやく係長課長などと役職もついてさあ結婚しようと思った時にはもう30代も後半になっていて、あわてて婚活しても、男だって年を取れば不利なのは同じで、もう若い女性には振り向いてもらえないとかはありがちな悲劇だと思います。
 そして昔は親せきや近所のおばさんやらが年頃になるとよってたかって世話を焼いてくれた仲人という素晴らしい文化がなくなってしまったというのも結婚率の低下に非常に大きく影響していると思います。
 そこへもってきて、今は結婚しなくても困らないという状況があります。 
 1950年当時結婚率が98.5%だったのは、炊事、洗濯、掃除、繕い物などの家事が大変すぎて、専業で家事をしてくれる人がいないと男は仕事に専念することができなかったし、女性の側は金銭収入を得る手段がほとんどなく結婚しないと暮らしていけなかったという状況があったからだと思います。
 それが今ではなんでもやってくれる家電があり、コンビニがあり、結婚しなくても男女ともに困らずそこそこ暮らしていけてしまう。
 結婚願望がないわけではないのだが、触れ合いの無いまま時を過ごし、気が付くと婚期を逸しかけているという状況が多く起きていると思います。
 生物の2大本能は、個体保存と種の保存です。この中でも種の保存は時に個体保存を超えるもので、自分は犠牲になっても子供を救けようとするのは種の保存の優越の例でしょう。子孫を残すことがなければその種族は絶滅し消えてしまうのですから、自分の子供を残したいという本能は人間においてもすべてのモチベーションの根底にある大きなものであることは間違いありません。とはいっても人間の場合は頭で考えすぎてしまうので、身近に魅力的な異性がいて刺激されるということがないと種の保存の本能が眠ったままになってしまうというところがあります。
 人の場合は、特に恋愛下手な日本人の場合は仲人さんに代ってお尻を叩き、職場から出て出会いの場を積極的に作るよう本人の支援するという呑材が無いと結婚率は上がってこないと思います。

8 少子化対策の提言:出会いの場を徹底的に増やすには

 ここまでをまとめると、少子化対策のためには、結婚率を上げることが1に必要であり、そのためには男女の出会いの場を徹底的に増やすことが必要ということになります。
 若い時から出会いの機会を増やしていけば、結婚年齢が下がり晩婚化に歯止めがかかるので、必然的に所帯当たりの子供数も増えることにつながると考えられます。
 出会いの機会を増やすことは結婚率と所帯当たり子供数の両方に効果が出ると考えられるのです。
(もちろん子育て支援をおろそかにしてよいわけではなく、一律ではなく若年低所得層で多子の場合に手厚くするような支援方法が検討されるべきだと思います。) 
以下に、出会いの機会を増やすための私の提案を述べます。

8.1 出会いの機会を増やすには
1)国営のマッチングサービスの創設
 
今、思い立って結婚相手を探そうとする時にはマッチングアプリなどを利用するというケースが増えているようです。
 けれど、ネットで展開される民間のマッチングサービスはその会社自体がどこまで信用できるのかわからない紹介された相手の情報がほんとうに正しいのかわからないという問題がつきまといます。
 会社ぐるみのサクラではないか遊び目的ではないか金を巻き上げられて捨てられるのではないか、個人情報が漏れてストーカー被害にあったらどうしよう、そのような詐欺同然の被害にあったとき誰が責任を取って対処し補償してくれるのかなどセキュリティ上の不安を考えると、怖くて安易に利用に踏み切れないというケースは非常に多いのではないでしょうか。
 その点で、国営の、ないしは国が厳しく審査・認可し、違反があれば厳しく罰せられるセキュリティや責任のしっかりした安心して利用できるシステムが創設されれば結婚率を上げるうえで非常に大きな効果があると思います。例えば相手の身元保証の際にマイナンバーカードの情報と照らし合わせて嘘を見抜くといったことは国でなければできないことだと思います。

2)出会いの場の創設と地方の人手不足解消
 地方自治体なども含む公営、民営の各組織で婚活パーティなどがそれなりによく開催されているようです。
 しかし「写真には僕のよいとこ写らない」という川柳がありますが、そうした一発勝負の場ではどうしても男女ともに身長やスタイル、ルックス、話のうまさなどの外面的要素が重視され、異性との交際経験が少なくどんな話をしたらよいかわからないというような内気な人が一大決心をして出席してみても蚊帳の外で、優しくまじめで責任感が強いなどの内面的な部分は評価 もされないという悲しくも勿体ない結果に終わることが多々あります。
 私が思うのは、人手不足問題とからめたらどうかということです。
 現在非常に大きな問題となっているのは地方の人手不足です。
 農業、林業、漁業、牧畜業、医療、伝統工芸、食堂、中小企業や町工場などで、人材不足や後継者不足で困っているところが数多くあります。季節だけの短期労働者が欲しいところも多いでしょう、そういうところが手を挙げて人を募集し、年頃の未婚の男女は年に1-2週間くらいどこか希望するところを選んでそうした仕事の支援をするのです。会社は希望が出ればこれを認めなければならず、政府はもしこれの達成率が高ければ税を優遇する、低ければ罰金を課すなどして方向付けをします。会社の経営に支障をきたさないような方法を考えねばなりませんが、年に1-2週間というのは有給を完全消化するというレベルの話であり、また必ずしも有給休暇にして全額会社が負担する必要はなく、雇う側が働きに応じた可能な範囲の給料(バイト代)を払い会社は差額を負担するという形も可能だと思います。
 募集は男女同数を原則とします。そうして初めての職場で一緒に働く中で、外見だけでなくその人の内面的な良い部分というのが自然に見えてくると思うのです。そして仕事が2週間とすれば、男女は1週間ずつずらすのです。1週間の先輩が後輩に仕事の経験を伝えることで自然な触れ合いが生まれ、雇う側の負担も減らすことができます。

 こうした経験の結果、その仕事に転職したいというようなことも有ってよく、知らない職場を知り、人材を適所に流動させ活性化させることにもつながり得るとおもうのです。私が若いころにこんな制度があったらと思うとわくわくします。

 万が一こうした試みが実施されるとなったら多くの課題が出てくると思いますが、原則さえ理解されていれば、解決はいかようにもできると思うのです。

9 まとめ

 以上、述べてきたことをまとめると、

 1)現在の少子化問題は国難レベルの危機であることの認識。
 2)過去の政府の対策は不十分であったという事実の認識。
 3)少子化対策は、結婚率のUPと所帯当たり子供数の増加の両方が必要と
  いうことの認識。
 4)過去の政府の「子育て支援、経済的不安解消」という方向性自体は誤
  ってはいないが、それがすべてではない。
 5)子育て以前に、学生期を卒業後、男女の出会いの機会が劇的に減って 
  しまうことが問題の本質である。
 6)就職後の独身男女の出会いの機会を徹底的に増やすことが、結婚率の
  UP、晩婚化の防止による子供数の増加の両方に有効となる。
 7)出会い機会増加策-1:国営のマッチングシステムの設立。
  無償で信頼のおけるマッチングシステムを設立し出会いを推進。
  マイナンバーカードを利用した身元保証など国が関与する。
 8)出会い機会増加策-2:地方などの人材不足との連携
   農業、林業、漁業、牧畜業、医療、伝統工芸、食堂、中小企業や町工
  場などで、人材不足や後継者不足で困っているところに、独身男女が年
  1-2週間程度、好きな所を選んで働きに出る。
  自然な出会いの機会を作るとともに人材不足の解消につながる。
 9)出会い機会の増加を国策として奨励

10 長期展望について

 以上少子化問題の解決策について述べてきましたが、最後に言っておきたいことがあります。
 それは日本の適正な人口は何人なのかという問題です。
 輸入した化石燃料を湯水のごとくに消費し、食料もほとんど輸入すに頼って成り立つバブルの人口ではなく、日本だけで成立できる持続可能な人口は何人なのかという問題です。
 化石燃料というのは太古の時代の太陽エネルギーの缶詰であり先祖の遺産です。裏庭を掘ったら出てきた先祖の遺産に大喜びし自分の収入の限度を超えた贅沢三昧をして暮らしていたら、それが無くなったときにやっていけなくなるのは当然なのです。過去の何百年何千年の太陽ネネルギーを一気に燃やして放出するのですから温暖化が起きるのも当然なのでしょう。
 ヒントは江戸時代にあります。江戸時代の日本は化石燃料など使わず、リサイクルを徹底し、ほぼ国内の生産だけで自給自足していたのです。
 江戸時代の人口は約2400万人でそれは江戸時代の初期から末期まで240年間ほとんど変わらなかったそうです。これが当時の日本が自給できた人口だったということなのかと思います。
 私は日本が太陽光や水力などの持続可能なエネルギーの範囲で今の機械技術を有効利用すれば江戸時代の2倍は国内生産だけで自給できるのではないかと思っており、5000-6000万人というのが適正な人口の目安になるのではないかと思っています。
 現在の人口を半分に減らすということです。ただし人口構成が高齢者過多になるのは避けねばなりませんから時間をかけて軟着陸させる必要があるのでしょう。
 といっても日本だけがこれを行うことは意味がありません。
 世界が人類の存続という視点に立って、人口の調節という難問に取り組まねばならず、その時に江戸時代の日本というものが学ぶべき規範に成り得るのではないかと思っているのです。といっても今の世界情勢を見ても各国のエゴを取り払うことができるわけなどないことも確かなのですが。
 この10年20年で世界はどのような方向に進んでいくのか、日本はどいう役割を果たしていくのか知恵を振り絞らなければならない時代のなかに我々はいます。

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