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【220】本の話:増田俊也さん「七帝柔道記」面白すぎて一気読みしてしまった格闘技好きなら絶対に嵌まるほぼノンフィクションの小説 2024.6.20

1 七帝柔道記

 図書館というのは本当に有難い。
 図書館で何か面白い本がないかと探している時というのは本好きにとってはまことに幸せな時間です。
 ところで、そうして同じような感じで見て回っていても当たりの時と外れの時があります。
 外れの時はこれという本が中々見つからないのに、当たりの時は不思議に次々にこれはという本が飛び込んでくるのです。

 先日の図書館は当たりでした。

「七帝柔道記」に出合ってしまったのです。

 この本は北大柔道部に所属した作者の増田俊也さんが実体験を語った出場する選手もほとんどが実名で登場するほぼノンフィクションの小説です。

2 七帝柔道とは

 七帝柔道とは、七つの旧帝大、九大、東大、名大、阪大、東北大、京大、北大の7校が、戦前の高専柔道を継承して行っている寝技中心の柔道なのです。
 試合のルールは、今主流の講道館柔道が、立ち技で投げた後しか寝技に入れず、寝技に入っても十秒くらい膠着すると審判が分けて立たせたり、場外に出ればストップがかかり中央で立って再開するといったように寝技を制限した立ち技重視のルールにしているのに対し、
 七帝柔道では最初から寝て寝技に引き込んでよく、寝技10秒でストップがかかることはなく、場外に出てもそのままの体勢で中央に引き戻されて継続されるというように、審判が試合を止めるために介入することがないため、自力で立ち上がる以外は延々と寝技が続くのです。
 そして、勝つのは1本勝ちのみで有効や効果などはありません。
 1本勝ちの内容は、投げ技の1本、抑え込み30秒、技あり2本の合わせ技の他、締め技、関節技などで参ったをした時、落ちたとき、関節技で折れた時などとなっているようです。

 このようなルールで7大学が優勝を目指して激突する年に一度の七帝戦では、各チーム15人の選手が先鋒から大将まで順に闘い、勝ったものは残って次と戦う勝ち抜き方式の団体戦で行われます。

 体重は無差別で、試合時間は6分、副将、大将は8分となっていて、その間に1本を取られなければ引き分けとなり両者引っ込むことになります。

 もしもチームに真に絶対的なエースがいれば一人で15人抜きで勝つということも有り得るのです。

 このような団体戦で勝つためには、チームを抜き役と分け役に分け、抜き役は1本を取りに行き、分け役は守りに徹して引き分けを狙うという形を取ります。

 強力な抜き役に対し分け役は一人で駄目なら二人でなるべく少ない人数で止めなければなりません。
 このため七帝戦では腕が決まっても締めが決まっても選手は絶対に参ったをせず、チームのために少しでも相手の体力を奪おうとするのだそうです。

3 どん底の北大柔道部

 実名で登場する筆者の増田さんは、高校時代に七帝柔道を見ることが有り、それに憧れて柔道をやるために北大に入学し、過酷な練習に耐えて七帝戦を目指すのですが、当時の北大は超強力な大型選手を擁し七帝戦連覇を遂げたという栄光の過去から一転して、選手も小型化し、部員数も減る中で七帝戦連続最下位中というどん底に落ちていました。

 絶対的な他校とのレベル差の中で、北大柔道部は必死の猛練習で打開を図とうともがき苦しむのですが、結果が出ません。

 これが架空のフィクションであれば、努力の甲斐あってジャイアントキリングを成し遂げるというサクセスストーリーに簡単にできるのですが、事実を元にしたノンフィクションでは起きてしまった結果は変えることはできないというのが切ないです。 

4 青春群像

 この本を読んでいて、結果はどうあれ、そのために努力する過程というのは貴いことだなと思いました。
 主人公の増田さんと、彼を取り巻く同期、先輩、後輩などとの青春群像が素晴らしく、彼らがそうした今時流行らない過酷な練習を愚直に繰り返すことによって、人間として男として成長を遂げていく過程が事実の積み重ねの中で描かれていくところが凄いと思います。

 私は、中で一番印象に残ったのは筆者の一年先輩でありながら小柄で非力で後輩にも簡単に抜かれてしまう後藤選手の生き方です。

5 絶対に面白いスポーツ小説

 ストーリーについては触れませんが、「七帝柔道記」は私にとって久々の大ヒットで、ページをめくる手が止まらず2巻まで一気読みしてしまいました。
 格闘技好きはもちろん一般の方でもこれは面白いと思います。
 お勧めです。

補足 七帝柔道の前身、高専柔道について

 私は、戦前に高専柔道という寝技中心の柔道があって、非常に高度な技術を有していたということ、そしてそれが今見直されていて、講道館柔道の中にもどんどん取り入れられているという話をなんとなく聞いたことが有って、高専柔道に興味は持っていました。
 けれどその実態は具体的には知らず、それを引き継ぐ形で七帝戦というものが今も行われていることも知りませんでした。

 今回この本でそうしたことを初めて知ることができたのは収穫でした。

 調べると高専柔道については、下のサイトに詳しい説明がありました。
 高専柔道 - Wikipedia

 また下のサイトは増田さんが高専柔道と七帝柔道について語っているもので、すごく面白く興味深いです。
 この小説は面白いと思った方は必見です。
 増田俊也「小田常胤と高専柔道そして七帝柔道」 | 北海道大学柔道部

 

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