2023.01.25 ロイヤルブレッド5枚切り

わたしが作ったフレンチトーストがたべたい。

まずボウルに卵を割り入れたら、お砂糖を小さじ2杯いれる。それから卵をよく溶いて同時に砂糖もよく溶かす。牛乳は目分量でつーっと卵よりやや少ない位の量をいれたら、バニラエッセンスを力一杯5滴いれてよく混ぜる。決して低脂肪牛乳とか豆乳で代用してはいけない。食パンはロイヤルブレッドの5枚切りを十字に4等分に切って卵液に沈めたら、ゆっくり丁寧にフォークでめった刺しにする。耳の部分はしぶとく何度も、裏面も忘れずに、卵液をパンがぜんぶ吸ってくれるまで。コンロの火をつけたら有塩バターをナイフですっと切ってフライパンに落とす。「今日は土曜日の朝だから」なんつってさらにもうちょっと切ってフライパンに落とす。四角い固体がまるみを帯びて透明になって液体になる様を眺めているときは、時間がゆっくり進むように感じる。バターがふつふつしてきたらすかさずパンを焼き始める合図だ。4つのパン平等にバターが行き渡るようにこまめにフライパンを傾ける。みんなに纏わせてあげたい。火を少し弱めて焦がさぬように、でも濃いめの焦げ目がつくように、待つ。裏返したら完成まであとちょっとだと嬉しくなるけど、裏面の方が焼けるスピードは速いからうっかり焦がさないように気をつける。お皿に盛り付けたら用意周到、同じタイミングで出来上がるように淹れたコーヒーもお盆に乗せて完成。さっきめった刺しに使ったフォークとナイフでたべるよ。


「食べる」を「たべる」とひらがな表記にすると可愛いから
何をたべても許されそうな気がする。
だから食べるときはいつもひらがなでたべるようにしている。


わたしの前世は飢餓で死んだのではなかろうか。
おなかがすくとひどく悲しい気持ちになるし、
いつも次のご飯の献立を考えているし、
つい食べ物を買い込んでしまう。

食べることが好きなんだが、「好き」という明るい性質の言葉より「執着」という重めの言葉の方が正しくニュアンスを伝えられる気がする。
食べることに執着している。これは糖尿病患者である父親の遺伝から由来すると思う。


以前より父親のことが嫌では無くなった。というより、無関心になった。わたし自身が解放したといってもいい。最近は自分の過去について悲観することがなくなった。彼が新しい種類の悲しいつらい出来事を授けてくれるのでそれに対応するので精一杯になったからだ。

彼が最近「かわいいね」って言ってくれなくなった。さみしいけどそれはいい兆候だ。だって彼が「かわいい」とわたしを褒めるときはいつも自分に後ろめたいことがあるときだから。浮気の代償としてやむを得なく「かわいい」って言ってくれているのだ。そしてつまり、彼は本心としては「かわいい」だなんて全く思っていないこともわかった。だって1年経ったけどわたしはちっとも痩せていないし顔はブスのままだ。少し筋肉がついたり身体の形は変わったけれど本人が感じる程度で体重はだいたいいつも同じ。だってまず、食事制限ができない。気ままに食べ過ぎるのをやめる程度しかできない。今だって、自由にポテチや菓子パンを食べることなんて決して無いし、ご飯はきちんと110g~130gを計って食べている。毎食、野菜とタンパク質の栄養バランスを考えているし、ジュースだって飲まない。それなのに痩せていかないなんて納得できない。
痩せようと思ったら、インスタグラムに投稿されてるみたいな鶏胸肉とブロッコリーとオートミールの食事に、おやつはご褒美のプロテイン、こんな献立にしないといけないみたいだ。食パンにクリームチーズを塗ったり、夜食にはちみつバナナヨーグルトをたべたり、新しい味のグミを試してみたりしてはいけない。成城石井で半額シールがついていないかうろうろするのもよくないし、外出先で時間ができるとすぐGoogleマップで「パン屋」「ブーランジェリー」「ベーグル」などと検索するのもよくない。

毎日仕事して疲れているのに好物もたべられないなんて世知辛すぎる。そんな世の中で生きるわたしは、わたしにとっておきのフレンチトーストを作ってあげたい。彼はあんまり好きではなさそうだったのでひとりでこっそりたべるよ。

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