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喫煙所をさがす

 先日、女子バスケの日本代表の親善試合を有明アリーナに観に行った。
 7月初頭、まだ梅雨、快晴。熱中症注意とニュースで流れるくらい暑く、太陽がたいめいけんの社長を焼き殺さんばかりに照っていた。

 前日に会社でガムを噛んでいて、噛み違えて下唇を噛んでしまい、口の中に血の味が広がっている。有明アリーナに行く途中、もうすぐ都知事選という事で街宣車や掲示板を見かけた。街宣車がうるさくて、口の中は血の味がして、気温が熱くて、気分は世紀末。

 有明駅の手前の有明テニスの森駅に着くと、とにかくただっ広くて、無味乾燥とした都会だった。道路も広く、公園のような広場が多く、ポツポツと大きな建物やタワーマンションがあり、まさにCITY。上流階級しか住めない都。有明アリーナまで若干遠く、徒歩で12分くらいだったかな。有明アリーナは開場しているものの、試合開始まで1時間くらいあり、タバコを吸いたくなって、喫煙所を探すも一向に見つかる気配がない。この町に喫煙者はいないのだろうか。道路を都知事選の街宣車が走っていて、都知事のせいか。とノンポリのくせに思う。喫煙者に厳しい街づくり。あたしゃ千葉県民だから選挙権がない。

 掲示板を見ると、グラビアのポスターみたいのや、「かわいい私をみて」みたいなコピーのポスターがたくさん貼ってあって、まさに世紀末。冗談にしてもセンスのかけらもなく全く面白くない。スマホで喫煙所を探すと、有明ガーデンというショッピングモールみたいのがあり、その中に喫煙所がありそうだ。しかし、道が無駄に広くて、熱波がアスファルトを焼き、有明ガーデンが蜃気楼にまどろみ、そこらの雑草を踏むと一瞬で砂になり、たどり着ける気がしない。だけども、タバコを吸いたい気持ちに火がついて、タバコだけに。センスどころかダジャレで全く面白くない。タバコを吸いたい心に火がついて、タバコだけに。脳も熱で溶けてきているようだ。ほうほうの体で有明ガーデンにたどり着くと、冷房がキンキンに冷えていて、まさにガーデン。上流階級たちが汗だくのバスケ日本代表Tシャツを着たおじさんを横目に見ながら、通り過ぎていく。エレベーターで喫煙所のある階へ行き、喫煙所を探す。もう吸いたい。そして喫煙所を見つけたが、膝から崩れ落ちてしまった。

 「閉鎖中」という掲示を伴い閉鎖テープが貼られている喫煙所を見て、どうしようもない怒りがわいてきた。「くそぉ都知事め」。砂漠でオアシスを発見したと思ったら、ただの蜃気楼の幻だった。この世に神はいない。有明は喫煙者を追い出すことにとうとう成功したのだ。それに気づかなかった、私が馬鹿だったのだ。「愚かなる喫煙者よ」と、有明ガーデンそのものの声が聞こえた気がした。

 途方に暮れて、ベンチにへたり込み、もう道で隠れて吸ってしまおうかと思ったものの、この有明で路上喫煙など自殺行為に等しいだろう。吸ったが最後、喫煙自警団に捕まり、魔女狩りのごとく、タバコの火に焼かれて殺される。

 水を飲み、一息ついて、スマホを検索すると、もう少し行った所に国際展示場と言う駅があり、その駅の目の前に喫煙所があるようだ。
 また、あのアスファルトに焼かれて歩かねばならぬ。口の中は血の味がする。意を決して、有明八甲田山を行軍する。じりじりと肌を焼き、タバコを取り出したら、この熱波でタバコに火がつけられそうだ。とか考えるタバコゾンビと化しつつ歩道橋を渡り、国際展示場駅に意識もうろうとしたままたどりつき、タバコの煙のにおいがした。たばこだ!とさっきの閉鎖されている記憶もどこへやらでタバコのにおいがする方へ行くと、喫煙所があった!やった!

 タバコに火をつける。ようやく心の底から煙を吸い込むと、頭がクラクラとした。タバコを吸っていない時間は1時間半なのに、体感では半日経ったくらいの時間間隔でヤニクラしていた。よく考えたら、ここは国際展示場で有明は隣だ。有明領をいつのまにか抜けていたようだ。やはり、有明にはタバコを吸う所がない。無慈悲な非喫煙者しかいない町、有明。都知事め。

 ようやく、タバコが吸えた喜びで二本目に火をつける。いやぁ今日は暑い。もう汗だくだけど、喫煙所は日差しが良すぎるくらい日差しが強く、汗が噴き出してくる。周りの喫煙者たちも汗だくだ。サウナのように熱い。いや、熱すぎる。気づいた時には遅かった。国際展示場の喫煙所ごと、燃えているようだ、上を見ると、大きな顕微鏡が喫煙所を焼いていた。「江東区からのお知らせです。東京都知事選挙の投票に〇月〇日までに行きましょう。なお、期日前投票は・・・・」と、薄れゆく意識の中で聴こえた。周りの喫煙者たちはすでに灰になり、日陰にいたものは、日陰部分だけの体を残し、息絶えていた。都知事選の放送と共に、有明横の国際展示場の喫煙所は静かな炎に包まれた。


 

事実、有明アリーナ内に喫煙所があり、誘蛾灯に集まる虫の如く、喫煙者達がぎゅうぎゅうに押し込まれていた。

女子バスケ、日本対ニュージーランドは日本の圧勝でしたな。女子バスケのグッズは売り切れで、男子バスケのユニフォームレプリカを購入した。富永の。

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