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マイナス金利解除は時期尚早ーデフレからの完全脱却と安定的な賃上げのために積極財政を

日銀が「マイナス金利政策」解除で金利引き上げを決定しました。しかしこれは時期尚早です。


春闘で賃上げ率が33年ぶりに5%を超える見通しとは言え、定期昇給分を除けば3%台。実質賃金は21カ月連続マイナスで個人消費も低迷、GDPギャップもマイナス0.6%です。賃上げや政府支出が不十分ななか金利を引き上げると、消費や投資を冷え込ませ、再びデフレに逆戻りする可能性もあります。

お金を借りて設備投資や仕入れを行っている中小零細企業は、返済が苦しくなり、倒産や廃業に追い込まれ、失業者が増える懸念もあります。また、家を購入しようと思っていた人たちも、返済額が増えるため躊躇するでしょう。

帝国データバンクの調査では、2024年2月の企業倒産は734件で、2月としては過去10年で最多。『不況型倒産』は22カ月連続で前年同月を上回っています。中小零細企業にとっては、まだまだ厳しい状況が続いているということです。

■倒産主要因
『不況型倒産』は6797件、2000年以降で初めて前年から3割以上増える
主因別にみると、「販売不振」が6672件(前年4836件、38.0%増)で最も多く、全体の78.5%(対前年2.6ポイント増)を占めた。「売掛金回収難」(前年15件→44件、193.3%増)などを含めた『不況型倒産』の合計は6797件(同4923件、38.1%増)となった。前年からの増加率は、2000年以降で初めて30%を超えた。「その他の経営計画の失敗」(前年255件→295件、15.7%増)は3年ぶりに前年を上回った。「経営者の病気、死亡」(同279件→278件、0.4%減)は、2000年以降で最多であった前年と同水準となった。
※倒産主因のうち、販売不振、輸出不振、売掛金回収難、不良債権の累積、業界不振を「不況型倒産」として集計

全国企業倒産集計2023年報 | 倒産集計 | 株式会社 帝国データバンク[TDB]


また東京商工リサーチの調査では、金利が0.5%上昇すれば、企業の2割が借り入れを「断念する」と回答しており、金利の上昇が投資に与える影響が大きいことが分かります。

金利0.5%上昇で企業の2割が「借り入れ断念」-東京商工リサーチ調査

日本銀行によるマイナス金利解除の観測が市場に広がる中、企業の間で今後の借入金利の大幅な上昇に対する警戒感が強まりつつある。

東京商工リサーチが企業を対象に1~8日に実施したアンケート調査(有効回答4499社)によると、今後の借入金利が0.5%上昇した場合、21%の企業が借り入れを「断念する」と回答した。「受け入れる」としたのは19%。

金利0.5%上昇で企業の2割が「借り入れ断念」-東京商工リサーチ調査 - Bloomberg


デフレからの脱却はまだ途上であり、賃上げはここ数年の物価上昇に追いついていません。

植田総裁は、就任前の国会質疑で「安定的・継続的な賃上げが先、金利を引き上げるのはそのあと」だと明言しました。しかし、3月20日のマイナス金利解除という大きな方針転換を発表する会見では、「中小企業の賃金がある程度以上上がるという根拠はない」と発言しており、当初の方針はどこへ行ったのか、と残念に思いました。中小零細企業が安心して投資や賃上げできる状況になるまで、そしてデフレからの完全脱却と、物価上昇を超える安定的な賃上げが確認できるまでは、金融緩和を継続するべきでした。

金融政策は大きな転換点を迎えました。今後、デフレから完全脱却できるか、物価上昇以上の安定的な賃上げを実現できるかには、財政政策がさらに重要になります。金融引き締めに歩を合わせて、緊縮財政を行うと、デフレに逆戻りし、「失われた30年」が「失われた50年」になるでしょう。

今こそ、消費税廃止を含む積極財政が必要です。


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