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吠える犬と笑うイヌ

 犬が苦手です。
 ずっと苦手です。「犬を苦手」と言うと説法をしてくる人も苦手です。
 私は人間以外の生き物が基本苦手です。コミュニケーションが取れないじゃないですか。同じ人類ですらコミュニケーションが取れない人や苦手な人がいるのに、その他の生命体と相対した場合、無理じゃないですか。
 動物番組でコミュニケーションの方法がやってたりします。「ここを触ると喜ぶよ」とか「こういう動きの時はこういう気持ちだよ」とか。
 で、これ自分に置き換えてみた場合なんですけど、例えば私は、頭をポンポンされるが嫌いです。というか頭をポンポンすることを喜ぶと思ってる浅はかな根性が嫌いなのかもです。
 だから動物側も「そこ触られたって全員が嬉しいわけじゃねぇからな!」とムカついてるかもじゃないですか。


 特に犬は、苦手というより怖いです。
 実家の隣に住んでいるピアノ教室の先生が犬を飼っていました。奴、私を見つけると親の仇のように吠えまくるのです。
 その先生にピアノを習いに行っていたのですが、先生は気を遣ってくれて、私がレッスンの日は奴を2階に居させてました。
 でも、先生も忘れる時もあります。いつものようにチャイムを鳴らし、ドアを開け、用意されていたスリッパに履き替えると、リビングから一目散に向かってくる奴。逃げようとする私、けれど履いてしまった人様のスリッパ。玄関に目をやると脱いだばかりの自分のスニーカー、スリッパでスニーカーを踏みつけ忍者が葉っぱで水面を渡るかの如くジージーと移動し、玄関に手をかける私。真っ直ぐ私を見ながら飛びかかろうとする奴、リードを一生懸命握って綱引きのような態勢で奴を攻撃を阻止する先生。これが半年に一回くらいありました。
 奴は基本、玄関の前の犬小屋にいました。朝、私が自宅を出ると毎日吠えてきやがります。私が中1の時の奴が来てからずっとです。
 けれど奴の方も塩梅がわかってきたのか、私が中3になる頃には吠え続けた叫びを私が見えるか見えなくなるかぐらいですぐやめるようになり、高校生になってからはもう4吠えくらいしたら「はいっ、一仕事終わり」と言わんばかりに前足に頭を乗せるのでした。容量を覚えてきてんじゃねぇ、じゃあ吠えんな! と深夜ラジオで睡眠不足の目を擦りながら舌打ちをしました。
 もうこれ、ヤンキーとか、その彼女のギャルじゃないですか。電車の中でわざと騒いで、目線をやると因縁をつけられ、大声で悪口を言われる。こっちに対処のしようがないじゃないですか。災害じゃないですか。


 私が好きな人も犬が苦手でした。高校生の時は特に重度のガチ恋をしていたので、ディスティニーを感じてキュンキュンしました。
 でも、彼は犬が好きになってしまいました。散歩だけする専門のお店で犬と出かけたり、動物番組を始めたりしました。同じ悩みをわかってくれていた彼が自分から遠くに行ってしまったみたいでCM中にワンワン泣きました。
 私は彼みたいに保健所の職員の役をキャスティングされないし、胸ポケットにひまわりをさして大俳優たちの前でスピーチすることもないので、犬が苦手なままかもです。


 先日、街を歩いていたら、散歩されているイヌを見つけ、いつものようにゆっくりと遠ざかりました。何気なくそのイヌを見ると、めっちゃ足が短かったのです。その短い足をピョコピョコ動かしながら、身体をクネクネし、尻尾を振りながら進むイヌ。ピンクの舌をだらしなく出し、上がっている口角は笑っているようでした。こいつ絶対バカだなぁーと思いました。一点を見ながら歩みを進めるそいつを、ずっと目で追っていました。
 「あれ……、可愛い」
 自分に芽生えた感情に驚きました。あんなに犬が苦手なはずなのに、今、私、可愛いって思ってる?


 なるほど、怖いが可愛いに勝ったら、動物を可愛いと思えるのか。
 私は、めっちゃ怖いと思ってたクラスメイトのギャルと文化祭の飾り付けをしていた時、その子が「笑点マジ最高、昇太パネェ」と言われ、可愛いなと感じたことを思い出しました。

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