シカによる獣害に対して、超音波を使った子どもにも安全性の高い実証実験を、中学校の敷地内で行いました
今回のレポートは、兵庫県新温泉町教育委員会 こども課の課題「子どもが安心できる鳥獣対策求む!シカ等の侵入から学校生活を守りたい!」に取り組んだ記録です。
新温泉町の学校はシカ被害に悩まされていた
新温泉町は、兵庫県の北西部に位置し、北は日本海、東と南は香美町、西は鳥取県に接する地域で、内陸部は1,000メートル級の山々に囲まれています。
シカの生息域である山林に隣接する学校では、シカによる被害に悩まされています。
グラウンドにフンをまき散らすフン害や、植栽木や学校農園の作物の食害、サッカーゴールのようなネットにシカが絡まって暴れるといった比較的稀なケースまで多岐に及びます。
一番大きな被害が出ている中学校からは、体育授業や部活動にあたり広大な運動場等のフンの掃除をする負担が大きくなっていました。子どもたちが過ごす場なので、電気柵とは異なる対処を求められていました。
対策に頭を悩ませていた新温泉町教育委員会こども教育課は、兵庫県や県内の自治体の地域・社会課題を官民連携で解決する「ひょうごTECHイノベーションプロジェクト」に応募。
学校敷地へのシカの侵入を防ぎ、フン被害、食害等を減少させ、子どもたちがグラウンドを安心して利用できる解決策を募集しました。
手を挙げたのは、鳥獣害対策に取り組む、イーマキーナ株式会社
イーマキーナ株式会社は、IoTを組み合わせた有害鳥獣忌避装置の開発・製造・販売を行う、兵庫県神戸市の地元企業。
すでに超音波を用いた害獣忌避装置『Evasi(エバジー)』や高輝度LEDを用いた害鳥忌避装置『Evasi CRO(エバジークロウ)』を製品化しており、その開発過程で得た知見やノウハウを基に、より効果的なシカ対策製品の開発をスタートしました。
実証内容
音圧の高い超音波と光の技術を組み合わせた忌避装置を設置し、シカが学校に近づくことを防ぐ忌避対策の有効性を実証しました。
<実証スケジュール>
2022年9月、実証現場となる新温泉町の中学校を訪れ、シカの出没状況を調査しました。
実証開始前は、1日平均1kgのフンがグラウンドにまき散らされ、毎朝子どもたちが登校する前に先生や職員が掃除する、という状況でした。
Evasiは防滴仕様のため、激しい雨の場合濡れると故障リスクがあり、改良なくしては検証にならないと判断。そのため、防水仕様のスピーカーを別途開発しました。
10月初旬にEvasi12台を設置し、実験がスタート。
グラウンドのシカのフン量をKPIとし、学校側には毎日のフンの量を測定してもらいました。
カメラで24時間シカの動向を観察。毎週オンラインでミーティングを行い、現場の状況を報告してもらいました。
フンの回収量は、機材設置前は一日平均946gでしたが、機材設置後はフンの量は日平均51gと半月で10分の1以下に大幅減少しました。
また、シカやイノシシなど侵入する動物の動向をキャッチする為、出没が見られる機材のない箇所に動体検知カメラを新たに設置。
出没するシカの動向に合わせて、状況に合わせて周波数やスピーカーの角度、カメラの配置を変えたり、台数を減らすなど実験を重ねていきました。
たとえば、機材を設置から1~2か月ほど経つと、シカも学習し、機材のない箇所から侵入する様子が見られる為、機材のない箇所にはロープなどで侵入口を閉鎖しました。
また、機材のオンオフやプリセットから周波数の切り替えなど、学校の職員さんができるようマニュアルを作成するなど、現場の声に合わせ随時細かい対応を行い、実験を進めました。
実証してみてわかったこと
設置後は、1日あたりのフンの回収量が平均28gまで減り、超音波や光は忌避効果があるということが検証されました。
日中にシカが出没している形跡はなく、衛生面の不安、学校生活に支障をきたす状況もほぼ解消され、職員の負担となっていたフン回収作業も大幅に減少しました。
学校側からシカに関する声もなくなり平穏に学校生活を送ることができていると喜びの声も挙がっています。
ただ、出没回数や頭数は大きく減少したものの、夜間に関しては、降雨時など気象条件によって出没している様子が見える為、今後も引き続き最適条件の追究・Evasi(エバジー)の効果の検証を実施していきたいとのことです。
本実証実験は注目度も高く、兵庫県知事が視察に訪れ、新聞やローカルテレビなどメディアに多く取り上げられました。(毎日新聞、読売新聞、神戸新聞、日本海新聞、兵庫県・県民だより、サンテレビ)
担当の教育委員会こども課の吉田さんと中井さん曰く、イーマキーナさんが現場の状況や声をしっかりと把握し、打ち合わせで出たお願いごともすぐに対処してくれたため、現場でもスムーズに進めることができたとのことでした。
そして、イーマキーナさんの「子どもたちの為にも何とかしたい」という強い想い、課題が出た時の対応の速さと柔軟さがあったからこそ、効果を実証することができました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?