AMATERAS『ニュー』レコード紹介(再録)

 ミカ・バンドが再結成するたびに、元妻の名を冠せたグループ名の扱いについて見事な頓知を捻り出すトノバン。3度目の先日は、カエラなのでミカエラとはビゼーも真っ青だ。いやはや夫婦バンドは難しい。だが時として愛のピークの共同作業は、単なるセッションを超えた名作を生む。本盤は元ズー・ニー・ヴーのギタリスト高橋英介と、元じゅんとネネの梢ネネ(田熊早苗)元夫妻が結成したバンドの唯一の作品。一言で言えば「ミカ・バンドになり損なった存在」というところか。

 2人は遊学中のロンドンで出会って結婚。その辺の経緯が星加ルミ子女史から語られ、和製ロックによる英国への返答と紹介されている。76年はミカ・バンドが夫婦の危機によって空中分解した年。ハードブギとスペイシーな電子音によるエッジィな録音は、ミカ・バンドの後継としての意気込みを十分に感じる。なにしろ「影絵の国」なんていうモロなタイトルの曲もある。

 グループ名は“天照”からの命名だが、実際ここで聞けるサウンドは英国人の好む日本流そのもので、2人の担当楽器も主にシンセサイザー類。ツトムヤマシタあたりの路線を狙ったのは明白で、この先取りテクノ感覚が、後身のESアイランドに発展していく。モーグ担当はなんと松武秀樹。同じ事務所のりりィ&バイバイセッション時代に坂本龍一と知り合ったのが、YMO参加の遠因となったオマケ話もある。

(『HOTWAX』より再録)

 

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