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第7話 「うえーーん」


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「うえーーん」

ジャイアンが泣いている。
ふだんは強気なジャイアンが泣いているのはめずらしい。
僕はとくに話しかけることもなく、ジャイアンの泣き声を聞いた。

彼の歌声はとても聴けたものではないが、彼の泣き声は不思議と心地よかった。
悲しいという感情はときに美しさを宿らせるのかもしれない。そんなことを考えていた。





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「うえーーん」

のび太としずちゃんも泣きはじめた。
さすがに3人が泣くと場の空気が変わる。

君たちは何が悲しくて泣いているのか?(それともうれし泣き?)
おなかが空いているのか?(そんなわけないか…)
どこかに体をぶつけた?(3人同時に…?)

涙の理由は分からないが、いま僕らがいるこの空間は泣き声であふれている。
そこには必要以上に言語化された感情もなく、認識の相違による いさかいもない。
分かりあわなくても一緒にいられる場は存在するのだ。





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「うえーーん」

なぜか僕も泣きはじめた。
共感覚というものなのか分からないが、別に悲しくもないし痛くもない。当然うれしくもない。
場に存在する空気のようなうごめきが僕の認識できる感情を超えて涙を流させている。

世界はいつまでたっても争いをやめないし、誰かは誰かの悪口を言って自分の存在を証明しようとする。
自分が何者なのか分からないのは恐ろしいことなのかな。
よく分からない感情に身をまかせたとき、僕は心から涙を流し、心地よい喜びを感じた。

僕らの泣き声が空間に意味を与えた。





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「いいね、それ」






おわり




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