第36話 「エクストリーム愛でる場へ行こう」
その日、僕たちは最悪な気分だった。
のび太「僕は昼寝が大好きなのに、昼寝をしたら怒られるんだ…。」
しずか「わたしはお風呂が大好きなのに、お風呂に入ってると誰かにジャマされちゃう…。」
ジャイ「俺の歌声は最高なのにダレも聴こうとしない。…全員ぶん殴ってやろうか。」
スネ夫「…ラジコンしたい」
誰にだって他人には理解されない世界は存在する。僕たちのことを理解しようとしない、受け入れない社会にとにかく絶望していたのだ。
そんな僕らの様子に何かを感じたのか、イミえもんが声をかけてきた。
イミえ「“エクストリーム愛でる場”って知ってるかい?」
のび太「…え?なんだって?」
しずか「…えくすと…めでる…?」
ジャイ「おい!いい加減なこと言ってるとぶん殴るぞ!」
僕らのとまどっている姿に満足したのか、イミえもんは満面の笑みをうかべていた。
イミえ「エクストリーム愛でる場っていうのは、そこにいる人それぞれが自分の愛でたいものを極端に愛でることが求められる場所さ。
何かを極端に愛でる場所。だから、エクストリーム愛でる場。
しかもエクストリーム愛でる場では『相手が愛でている姿をおもしろがりあう文化』というのがある。だから誰からも文句言われずに自分が感じたままの“愛でる”ができるんだ。愛でるに正解なんてないんだよ」
のび太「極端に愛でる…、、よくわかんないけど何かいいような気がするね。それはどこにあるの?」
イミえ「エクストリーム愛でる場には住所などはないんだ。あるときある空間に現れて、次の日には無くなっている、流動的な場所なんだよ。」
スネ夫「仮想空間…?」
イミえ「…そうとも言えるね。そして今日、たまたま僕らがいつも遊んでいる空き地がエクストリーム愛でる場になっているらしいよ」
のび太「…ええっ?」
しずか「そうなの?行ってみたい!」
ジャイ「ぶ…、ぶん殴るぞ!」
僕たちはエクストリーム愛でる場に行きたくてたまらなくなった。
どんな世界が待っているのか。
僕たちは空き地 ……いや、エクストリーム愛でる場に向かっていった。
エクストリーム愛でる場に到着した僕らは、早速それぞれの愛でたいことを話しはじめた。
のび太「僕は昼寝を愛でたい。」
しずか「わたしはお風呂という概念を愛でるわ!」
ジャイ「俺は自らの歌声を愛でながら吸収して、また歌声を発する永久機関になる…!」
スネ夫「…食べる」
イミえ「えっへっへ。みんないいね。じゃあ僕はどら焼きを愛できることでどら焼きの向こう側に広がるカオスと一体化して、自らの存在をエクストリーム化してみようかな」
…そうしてお互いがお互いの愛でる話を聞き、お互いの愛でる姿をおもしろがり、よりエクストリームな愛でるを表現していった。
のび太は土に埋まり、しずちゃんはシャンプーをぶちまけ、ジャイアンは自らの歌声と融合し、イミえもんはどら焼きを超えた存在になり、僕はラジコンを食べた。
いままで大事にしていたラジコン達を自分の歯で噛み砕き、飲み込む。
ラジコンを体内に取り込み身体性の拡張を楽しむ……という感覚はなく、ただただアゴと歯が痛かったのだが、そんな僕の奇行を眺めるみんなの笑顔が心地よかった。社会に認められたような気持ちになって、泣きそうになった。
エクストリーム愛でる場とは、日常ではなかなか受け入れられない自分独自の偏愛を祀りあげ祝祭化する祭りなのかもしれない。
そんなことを思いながら、僕はこの非日常的な熱狂に身をまかせ、狂いつづけた…
***
次の日には何事もなかったようにいつもの日常がはじまった。
しかし、僕らの世界は拡張されている。
日常は日常でなくなるのだ。
おわり
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