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乗り遅れないために、 今こそ考える「巡回作業」のDX化の現状と具体例

「巡回作業」においてDX化の恩恵は受けられるか?

デジタルトランスフォーメーション(以下、DXと表記)の話題が花盛りだ。経済産業省は下記の様にDXの定義を示している。

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること

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『「DX推進指標」とそのガイダンス』経済産業省 令和元年7月より抜粋https://www.meti.go.jp/press/2019/07/20190731003/20190731003.html

一般的な企業に落とし込むと、「手書きなどのアナログなものをデジタルデータにして、他のシステムで対応可能にする」ことなどが思い浮かぶのでは無いだろうか。また、昨今のコロナ禍により対面での打ち合わせではなく、Web会議システムを用いて距離と時間を超えた打ち合わせの回数が増えたことなどもDXの恩恵の一つである。

現状の流れなどを見ると、「DX」はデスクワークの効率改善を主眼としてしまうことが多い傾向が見受けられるが、実際にはオフィス以外のフィールドでこそ多大なる恩恵を受けることが可能である。

今回はフィールドのDX活用という観点から建築物や施設で必ず必要となってくる業務である「巡回」について、DXの恩恵をどの様に受けることが出来るかを見ていきたい。

「巡回作業」の内容によって求めるものも異なる

大まかに「巡回」と言っても時間軸で見ていくと、ある一定のタイミングのみ巡回が必要な「単発的な巡回」と、毎日決まって巡回が必要な「定常的な巡回」の2つに分けること事が出来る。

「単発的巡回」については、1年〜数年に1度など『比較的長めのスパン』での巡回を指す。分かりやすい例としては建築物などの経年変化の確認・検証などが例として挙げられる。具体的に挙げると、建築基準法では10年に1度の外壁前面打診、3年に1度外壁点検が義務化されている。ある程度の期間は空くが規模に関しては大規模に実施する必要がある。また、プラントなどの配管内や、建築物の床下など巡回する場所に関しても屋外を中心にを問わないという想定だ。

一方の「定常的巡回」は、『毎日決められた時間』などスパンが短い巡回を指す。例を挙げるならば施設内の警備や、建物内の保守管理などが「定常的巡回」に入れることが出来るだろう。巡回する規模としては比較的小規模〜中規模、巡回場所は基本的には屋内というケースが多い。

コスト面でも「単発的巡回」は一度の巡回で大きなコストがかかるが、「定常的巡回」に関しては「単発的巡回」と比較すると1回のコストは大きくないがほぼ毎日発生することになる。

簡単に表に落とし込むと以下のようになる。

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「単発的巡回」のDXの現状

現状、上記において「単発的巡回」に関しては現場に関しては飛躍的にDXが進んできている。

具体的にはドローンやロボットの活用だ。

大規模なフィールドや建築物などにはドローンやロボットに高性能カメラやセンサーを付けて対象物などを撮影。その撮影した画像やセンサー情報を元に専門の担当者がリアルタイムや、以前との比較を改めて分析するという手法が主流となりつつ有る。

ドローンを使用し、技術的に高性能のカメラや高精度のセンサーを取り付けることにより、人の目では見落とす可能性がある細かい点まで把握することが可能となった。

ドローンで撮影した画像や動画などデータなどを機械学習をさせてAIなどを用いたソフトウェアで分析することで、従来よりも短時間かつ高精度で補修が必要な箇所を発見することが出来るようになった。
短期間でかつ高精度の巡回が出来るようになりコストが従来より圧縮されるのならば企業としては活用をしない手は無くなってきており、一気に普及が進んだ大きな要因の一つだろう。

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ドローン運用統合管理サービス
日立システムズ
日立システムズWebサイトより抜粋
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株式会社ジャパン・インフラ・ウェイマーク
ジャパン インフラ ウェイマーク Webサイトより抜粋

一方で、昨今の社会的趨勢から高所や暗所、拓かれていないエリアや人体に影響のあるエリアなど、立ち入ることそのものが人命リスクになるの回避する点からもドローン、ロボットを用いた巡回の普及が早まった。

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Soryu-C ハイボット
ハイボットWebサイトより抜粋
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インフラ点検ロボットシステム(設備・配管・床下)
トピー工業
トピー工業Webサイトより抜粋

「定常的巡回」の問題点と取り組み


一方の「定常的巡回」について目下の一番の問題は人材の確保と言われている。

コロナ禍と言われてある程度経つが、巡回作業を含む業務に対する人手不足が深刻な状況は続いており一部の事業者からは「このままでは人がいなくて仕事があっても請けられない」という声も聞こえるほどだ。従って単なる「業務を効率化する」追いつかず、効率化をしないと業務自体が行えないという危機感さえ持っている。
このような状況を見据えて、大手の不動産デベロッパーがロボット開発のベンチャー企業に投資を行うという状況も起こっている。

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自律移動型ロボットを開発する SEQSENSE 株式会社に出資
三菱地所 Webサイトより抜粋
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公共空間と調和した新しいセキュリティロボット「cocobo」を開発
セコム株式会社 Webサイトより抜粋

単発的巡回」のDX化の現状

まずは「単発的巡回」の具体的な特長を見て見たいと思う。

「単発的巡回」に大きな特徴として挙げられるのは、『巡回中に人と遭遇する可能性が少ない』ということがある。

その理由として

・大規模な建築物を短期間で点検するケースが多く、そのため夜間であったり、建築物内や周辺を無人もしくは立ち入りを制限するなどして「人と遭遇しない」というシチュエーションをあえて選ぶ・作り出す必要がある。

・人が入り込むにはリスクが高いエリアなどで実施するため、必然的に人と接する機会が非常に低い

となる。

そのため点検するための機材に関しても「人と接触した際の安全性を考慮する」というよりは、如何に機能的に優れているかという点に主眼を置かれているケースがほとんどである。

ドローンに関して言えば、民生用に比べて大型である。これは一度に長時間飛行を行うためであり、当然ながら大型ならば搭載できるバッテリーも大きく出来、より長時間の飛行が可能となる。また、ペイロード(可搬重量)も大きくなるため、多くのセンサーを搭載することも可能となる。

「単発的巡回」に用いるロボットもドローン同様に、巡回をする際には基本的に点検をする人員以外と遭遇する想定はしていないケースが殆どである。そのためPepperなどのコミュニケーションロボットのように、見た相手に対して不快感を持たれないフレンドリーなデザインなどを考慮する必要性がない為、機能性を最優先としたデザインとなる傾向が多い。

言わば、「単発的巡回」に関して言えば、ドローンやロボットを活用した効率化が非常に分かりやすいため、DXに直結しているという状況が既に生まれつつある。

具体的な市場規模を見ると、インプレス総合研究所が発行している『ドローンビジネス調査報告書2021』によれば、2020年度のドローンによる「点検」の市場規模は279億円となっており、2019年度比で約2.4倍、2018年度と比較すると14.3倍と大幅に伸びている。今後に関しても順調に市場は拡大すると見られており、2025年度の市場規模は1,715億円まで広がると見ており、ビジネス面においても順調に軌道に乗りつつあるのが分かる。

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サービス市場の分野別市場規模(出所:インプレス総合研究所作成)


「定常的巡回」のDX化こそ適切な対応が必要


「定常的巡回」の具体的な特長については、前述した「単発的巡回」とは真逆の『巡回中に人と遭遇する可能性多い』ということだ。

一方、「定常的巡回」の特徴の一つとして前述した「単発的巡回」とは真逆の『巡回中に人と遭遇する可能性多い』ということが挙げられる。

その場合使用するハードウェアとして想定されるのは、『カメラや各種センサー』や『ロボット』などの活用が想定される。

施設などを巡回する場合はどうしても人との遭遇が避けられない。そのため「ロボットなど使用せずに、センサーやカメラを活用した方が良いのではないか?」という意見を見ることがある、当然ながら現在はセンサー技術も発展しておりIoT(Internet of Things:モノのインターネット。全てのものがインターネットと接続する)により、インターネットと接続し随時情報の蓄積は出来る。が、この意見には消極的な見方をしている。

その理由として

・既存の建物施設に導入するには、ある程度大掛かりな工事が必要である点。

・カメラなどを使用しても死角は必ず発生する。

・複数のセンサー類を設置することによりメンテナンスが煩雑になる

・テナントなどに使用方法などにより当初の想定とは異なる状況が発生した際に、組み換えなどの柔軟な対応が出来ない。

などが挙げられる。

それでは単に巡回ができるロボットを導入すれば良いのかというと、それも大いに疑問が残る。ロボットを巡回に導入する際最もギャップとして起きるのは、「人向けに作っているモノはロボットがそのまま操作するのは難しいという点」だ。

例えば、施設内の同一フロアを移動することは現在多くの巡回可能なロボットであれば問題なく行えるが、これが上下フロアの移動になると一気に難易度が上がる。

システムに的にエレベータとロボットを連携する規格は「ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会」​​が主要エレベーターメーカー、不動産デベロッパーなどを巻き込み『ロボット・エレベーター連携インタフェイス定義 RRI B0001』を策定し標準化が進んでいる。

ロボット・エレベーター連携インタフェイス定義 RRI B0001 :2021 (Draft Rev.2.0) 公開

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ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会

ロボット革命・産業IoT イニシアティブ協議会 Webサイトより抜粋
しかし、導入するためにはエレベーターの改良が必要となり、少なからず費用が発生する。そのかかった費用の回収であったり、改良が出来ないようなエレベーターを使用ししているようならば、エレベーターそのものの改修も必要となってくるため、その改修費用を回収するまでどの位の期間がかかるかも含めて検討する必要が出てくる。

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スマートシティ・ビルソリューション ロボット移動サービス
三菱電機 Webサイトより抜粋

「定常的巡回」最適解なロボット『ugo(ユーゴー)』


巡回を行うロボットにおいても、現状の施設を大幅に回収しなくても使えるものが出てきた。その筆頭がugo株式会社のロボット『ugo(ユーゴー)』だ。

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ugoシリーズ
ugo株式会社

ugoの大きな特長は見た目で分かる両腕だ。今までコミュニケーションロボットや巡回を行うロボットにも腕が付いているものもあったが、その殆どがあくまでも人に与える印象を主眼として付いていたというケースが殆どで、毎回正確な位置にコントロールをすることは困難であった。

ugoは腕を正確にコントロールすることが可能となっている。これにより、上述したエレベーはボタンを直接することが可能であり、別途システムの連携や改修などの必要もない。

当然ながら昨今のオフィスビルなどで用いられるICカードを接触するセキュリティゲートであってもICカードを自らリーダーにタッチすることで、ugo自信がゲートを開き移動することが出来る。

ugoによるエレベーター連携フロア移動 UEOSU

腕の先の部分は変更も可能なため、紫外線ランプを照射するオプションを設置することで、巡回をしながら施設内の手すりなどの消毒を行うということも考えられる(詳細は応相談)。

日常的にロボットを活用する場合、「故障やトラブルなどが発生した時のサポート体制が不安」という声も挙がるが、ugoは日本国内で製造されているため何らかのトラブルが発生しても迅速に対応する事が可能な体制を敷いている。

また、腕だけではなく360度カメラが設置されているため死角の無い映像を送ることも出来る、また各種センサーもオプションで取り付けられるようになっている。

例えば、商業施設内で商品にRFIDタグを設置していれば、RFリーダーをugoに取り付けることで巡回を行いながら棚卸し作業を行うというソリューションの提供も可能だ。

ugoはクラウドプラットフォームの「ugo Platform」も用意されている。ugoの操作・運用を行うのみならず、ugoからのデータ取得、ugo以外の稼働している異なる種類のロボットの管理、施設内に設置されているセンサーなどの情報取得など複合情報をワンストップで管理ができるようになるため、ロボットごと・センサーごとに管理をし統合するという煩雑な作業からも解放される。

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ugo Platform
ugo株式会社

日常的にロボットを活用する場合、「故障やトラブルなどが発生した時のサポート体制が不安」という声も挙がるが、ugoは日本国内で製造されているため何らかのトラブルが発生しても迅速に対応する事が可能な体制を敷いている。

「定常的巡回」のDXというと、施設の建物に対してある程度の設備投資を行う必要があると考えることが多いかもしれないが、ロボットをうまく活用することで設備投資額を大幅に抑えつつ、月額のランニングコストも圧縮できることが可能となる。これが本来目指しているDXなのではないだろうか。