2018・7・9

地球にちりばめられて』多和田葉子 講談社

ちりばめられたものは語る

軍艦に乗るのかと思っていたのですがチラシの桶にちりばめられていました。匂いと温度と肌触りにまだなれません。ウニとマグロは俺が俺がと張り合いタコやイカは何だが冷たい、玉子や海苔は出生地が想像出来ないし何故か固く殻を閉ざした貝もいました。そんな皆が僕をトビコトビコと呼ぶのです。解せません。

ここに君とトビコの秘密を解く鍵があるかもしれない。と1冊の本をくれたのは、なんとクジラです。なんで桶にいるのだろう、でもイルカみたいな彼の笑顔が素敵だなと思いました。

鮨の国は消えてなくなってしまった、それがこの小説の世界。地球と言う大きな桶にちりばめられしものどもが次々に語り始める。

「クヌート」。人好きのするデンマークの青年。金髪碧眼。言語学科の院生であり、地球中を旅したいという希望を持つ。母親はエスキモーを偏愛している。ある日TVを通じてHirukoと出会い旅が始まる。同じ名前の有名なシロクマがいる。

「Hiruko」。アニメに登場しそうな容姿の、鮨の国は北越出身の女性。留学中に鮨の国が消滅。帰る場所をなくす。手作り言語〈パンスカ〉を巧みに操る。母国語を話すというテンゾを捜す旅に出る。名前の由来は古事記か。

「アカッシュ」。〈性の引っ越し〉中のインドの青年。赤系統のサリーを身に纏う。自分の心は赤い絹で金の刺繍が施されていると言う気がしている。一目でクヌートを好きになってしまい共に旅することに。アカッシュ・ガンガは銀河・天の川の意味。

「ノラ」。看護助手の女性。ローマ遺跡の浴場跡で怪我をしたテンゾを助けしばらく一緒に暮らす。鮨の国から来たらしいテンゾのために出汁の秘密を探る〈ウマミ・フェスティバル〉を企画する。イプセンの「人形の家」の主人公と同じ名を持つ。

「テンゾ/ナヌーク」。グリーンランドから語学留学にやって来た青年。鮨の国の人に見られることから、それを第2のアイデンティティーとする。実はエスキモー。テンゾと名乗り出汁の旨味を追求する者。髪をアニメ風にカットし鮨の国の電車〈スシヅメ〉に憧れる。笑った顔がイルカに似ている。テンゾとは禅宗の料理人、ナヌークは氷海の王・シロクマを意味する。

「susanoo」。鮨の国、発電所が再稼働し安全をPR中の福井で育つ。母親は家出。父親はロボット職人。福井弁にはどこか遠い北の響きが混じる。造船を学ぶ為留学。見よう見まねで作った鮨が好評で友人とレストランを開業し成功するも、アルルの女カルメンの後を追い行方不明に。生きていればかなりの老人。機織りに思い入れがある。年も取らず言葉を失ったとの噂も。旅の終着点。スサノオは子供の時のあだ名。

言語に導かれて彼らが語り始める時。民族が国家が割れて歴史と伝統が文化と芸術に膨らみ、砕けて建築が絵画が昔話が環境問題が、散ってそれぞれの過去と哀しみと愛とにちりばめられた地球がまた輝きはじめた。

僕もこの桶に乗って行こう。大きさは関係ない。ちりばめられたものと

して何かを捜しに行こう。それが何かは問題じゃない。ここにちりばめられたからには。

イクラは語る。

(エンタメ系の何か)

「」

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