漫才「ハーフ」

A「実はお前に内緒にしていることがあって。」

B「何?」

A「俺、ハーフなんだよ。」

B「お前が?」

A「俺が。」

B「純日本人顔なのに?」

A「それは両親ともに日本人だからね。」

B「じゃあハーフじゃないじゃん。」

A「いや聞いて。」

B「え?」

A「俺は父親が人魚で、母親がケンタウロスのハーフなんだよね。」

B「まあ気になることは山ほどあるんだけどさ。」

A「わかる。逆だろってことね。」

B「思ったけど。」

A「オスの人魚はまだしも、メスのケンタウロスなんてね。」

B「いるんだなって思ったけど。もうちょっと詳しく聞かせて。」

A「父親はブリの人魚。」

B「ブリ。」

A「出世魚なのに万年平社員。」

B「親戚の集まりで一生いじられるやつじゃん。」

A「母親、めちゃくちゃ足速い。」

B「そりゃそうだよな。馬なんだから。」

A「俺の親最高なのよ。」

B「聞いてみたものの、面白いだけだったな。そんな親からお前はどうやって産まれたの?」

A「いや俺だって知らないよ。」

B「何で知らないんだよ。」

A「子どものころ、一回母親に聞いたことあるのよ。そしたら、『コウノトリさんが運んでくるのよ』って言われたんだよ。でも嘘くさいじゃん。」

B「嘘そのものだよ。子どもを守る優しい嘘。『くさい』とかじゃないから。」

A「だって4分の3哺乳類、4分の1魚類の子どもを鳥類が運んでくるわけないもんね。」

B「そういうことじゃないよ。お前ならではの事情乗っかってきちゃってるから。保健の授業で習ったでしょうよ。」

A「いや俺だってちゃんと保健の授業は聞いてたよ?でも、俺父方に卵で産まれる血が流れてるからさ、聞いても実感湧かなかったんだよね。」

B「そうか。お前の産まれ方って理科の方が近いのか。」

A「そうなのよ。しかも、父方は卵で産まれるからさ、家系図とか大変なんだよ。」

B「父方だけやたら膨大になるもんな。」

A「じいちゃん150万つ子だからね。」

B「神戸市の人口とほぼ同じだ。」

A「そうなんだ。とにかく俺の出生にはまだ謎が多いってわけ。」

B「そうなの?気になるなあ。」

A「あ、軽車両だよ。」

B「いやお前の母親が道路交通法でどんな区分なのか気になったわけじゃないよ。馬は軽車両に分類されるから、ケンタウロスもそうなんだね、じゃなくて。」

A「お酒飲んだら走って帰れなくなっちゃうんですよね。」

B「知らないよ。そもそもお前の親ってどうやって出会ったの?」

A「おいおい。人の親の馴れ初めなんて聞くもんじゃないだろ。」

B「何を言ってんだ。」

A「相方の親のラブストーリーなんか興味もつなよ。」

B「お前のところはファンタジーなんだよ。」

A「俺の母親もともとコンカフェで働いてたんだけど、」

B「天職じゃん。お前の母親、コンセプト女だもんな。」

A「人の母親妖怪みたいに言うなよ。」

B「似たようなもんだろ。」

A「で、父親はもともと客だったんだけど、働いてた母親に一目惚れ。くの一と殿の関係から恋仲になったんだよね。」

B「忍者カフェで働いてんなよ。全部のコンセプトが相殺されてるから。」

A「別にいいじゃん。」

B「まあそこからお前が産まれたのな。」

A「そういうこと。」

B「でも、お前よく人間の身体になれたよな。」

A「計算したらわかると思うけど、4分の1で人間になれるんだよ。でもこれ実は問題があって。」

B「問題?」

A「俺『龍太郎』って弟がいるんだけど、」

B「これ以上架空の生き物増やすな。」

A「上半身が魚で下半身が馬なんだよね。」

B「弟が全部背負ってんだ。かわいそうに。」

A「4分の1だから人間と同じ確率で産まれる。」

B「期待値は一緒なんだ。」

A「生物学的には“魚馬(ぎょば)”って呼ばれてる。」

B「このAV女優をセクシー女優と呼び替える時代に?」

A「真っ直ぐ魚馬。」

B「ひどすぎるだろ。」

A「せめて俺がケンタウロスで弟が人魚だったらね。」

B「それもどうかとは思うけど。」

A「そしたら母親直伝の『フェラーリ』ってギャグできるのに。」

B「前脚上げてフェラーリ?お母さんご機嫌じゃん。」

A「最高でしょ。」

B「母親ギャガーなのまあまあ嫌だろ。」

A「まあざっとこんな感じなんだけど。」

B「そうなんだ。まだ疑問だらけだけどね。」

A「あ、知らない大学教授から毎年お歳暮届く。」

B「いや一家まるごと研究対象として狙われてるじゃん。もういいよ。」

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