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中井英夫『とらんぷ譚』異本(4)

1979年初版本の異本

2022年7月16日から7月30日までの期間、恵比寿のシス書店/Galerie LIBRAIRIE6で「「中井英夫 生誕100年」展 – 本多正一写真集「彗星との日々」と装画作家たち – 」が開催されました。

私は、中井英夫ファンの某氏と一緒に観に行ったのですが、落ち合ってから開場まで少し時間があったので、近所の喫茶店に入り、互いに持参してきた1979年初版本を比較してみることにしました。

さて、写真はそのときに撮影したもので、左が私の、右が彼の『とらんぷ譚』の奥付です。少し判りにくいかもしれませんが、右の方が印刷が濃くなっています。また、左の方には印刷されている定価が右の方には印刷されていません。

中井英夫『とらんぷ譚』(平凡社、1979)の奥付。右の方は印字が濃く定価表示がない。

奥付の定価以外には、誤字・脱字・脱落等の相違は認められませんでした。その他、彼の本には、献呈署名がないこと、校正の跡があること、函に帯がないことなどの幾つかの相違がありましたが、奥付の定価に繋がる手懸かりはありませんでした。

ツイッターでこの画像を呟いたところ(※)、1979年初版本を所有する2名の方から反応をいただき、ツイッターラインで書影を拝見することができました。2冊とも奥付に定価のない本でした。また、1冊には中井本人による校正が認められました。
※2022年12月(イーロン・マスク氏によるツイッター社買収後)、これらの呟きは削除しました。

ここに、とらんぷ館(@toranpukan)氏とKeen(@AgnaKeen)氏のツイッターを引用させていただきます。

とらんぷ館(@toranpukan)氏所蔵の中井英夫『とらんぷ館』(平凡社、1979)の奥付
Keen(@AgnaKeen)氏所蔵の中井英夫『とらんぷ館』(平凡社、1979)の奥付

1979年初版本に、奥付に定価のある本とそうでない本の2種類がある理由については、継続して調べたいと思います。
※補遺に書きました。

創元ライブラリ版『とらんぷ譚』の異本

この稿を閉じるにあたって、『創元ライブラリ 中井英夫全集第3巻 とらんぷ譚』(創元ライブラリ版『とらんぷ譚』)について、触れておきたいと思います。

『創元ライブラリ 中井英夫全集第3巻 とらんぷ譚』(東京創元社、1996) 再掲

『中井英夫全集』の第1回配本は第3巻でした。もともと中井の「作者としては何とか四冊まとめた形で見ていただきたく」(『創元ライブラリ 中井英夫全集第3巻 とらんぷ譚』「後記」)という意を汲んで、最初は『とらんぷ譚』のみの文庫化が企画されていたようです。東氏は次のように記しています。

当初は『とらんぷ譚』単独での文庫化というお話だったが、その後、本多正一、戸川安宣両氏の尽力により文庫版全集の企画が具体化し、本書もその一巻としてここに編入される次第となった。

『創元ライブラリ 中井英夫全集第3巻 とらんぷ譚』(東京創元社、1996)東雅夫「解説」より

さて、全集第3巻という形で誕生した創元ライブラリ版『とらんぷ譚』ですが、その1996年初版本は、カバーを外した表紙の著者名が「中夫英夫」になっていて、その後の版では「中井英夫」になっています。

私は本多正一氏から教えていただいて初めて知りましたが、創元ライブラリ版『とらんぷ譚』にも異本があります。

『創元ライブラリ 中井英夫全集第3巻 とらんぷ譚』の表紙
左の1996年初版は著者名が「中夫英夫」になっている。

おわりに

(1)に記したとおり、この稿は、平凡社刊の中井英夫『とらんぷ譚』に1980年1月10日付け初版第1刷発行のもの(1980年初版本)とは別に、1979年12月20日付け初版第1刷発行の異本(1979年初版本)が存在することを中心に、これまでに調べて判ったことをまとめたものです。

私の調査はまだ途半ばです。引き続き『とらんぷ譚』の異本については調べたいと思っています。もっと深いところまで調べている方もいらっしゃるかと思います。そのような方には、是非ご知見をご教示いただけたらと切に願います。

備忘録的なまとめですが、最後までお読みいただきありがとうございました。どこか一片でも興趣の赴くところがありましたら、幸いです。

なお、今回は書影が少なかったので、『水星の騎士』の写真を掲載して終わりにしたいと思います。

左から、中井英夫生誕100周年記念本『水星の騎士』(LIBRAIRIE6、2022)、
誕生会兼出版記念会「中井英夫の会」で配付された私家本『水星の騎士』(深夜叢書社、1971)、
中井の依頼で製作された須永朝彦抄書『水星の騎士抄』(須永朝彦、1973)