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救いのない話 人間には覆せなくない?(3/3)

前回発した問い

・ユーラシア大陸で「食糧生産が早く始まったこと」が、征服の直接の要因に、どのようにつながるのか?

食糧生産が始まると、人間社会にどんな変化が生じたのでしょうか。


定住生活による人口の増加

食料生産は大きく2つの営み、栽培と家畜に分けられます。
栽培により、野生植物と比べて、食べることのできる絶対量が増えます。
また、家畜からは乳や肉といった食料が得られるうえに、肥料の提供や鋤(すき)を引くといった栽培への貢献も得られます。

また、食糧生産にともない、定住生活が定着します。

食料が増えたことに加え、定期的な移動が不要になったことで、出産間隔が約4年から2年に狭まり、人口が増えていったと言われています。


分業化
食料の貯蔵、蓄積により、みながみな食糧生産をせずとも、生きていけるようになったことで、分業化が進みました。
軍人、知識層、製造技術、書記など、さまざまな役割の人間が集団内に現れます。
また、王族や官僚も登場し、階層構造ができていきました。
彼らが、社会の発展を牽引していったのです。

また、家畜からは病原菌がもたらされ、集団に多大な被害がでた一方で、人間は次第に免疫力をつけていきました。


長い時間をかけた社会の発展

以上のように、栽培できる植物や、飼育できる動物を手に入れたことで、食糧生産を実現し、人口の増加と分業化をもたらし、社会を発展させていきました。
その結果、銃・鉄、病原菌への免疫、航海技術や造船技術、集権的な政治機構、文字、といった、支配する側に必要な要素を獲得したのです。

発展には長い時間を要するため、食糧生産が早く始まったユーラシア大陸は支配する側の様相を帯びた一方、同時期の南北アメリカやアフリカ大陸では、そのような要素は現ませんでした。


次なる問い

ではなぜユーラシア大陸で、食糧生産が他より早く始まったのでしょうか?

食糧生産が独自に始まった地域は世界中で数か所しかなく、その時期もバラバラでした。

なぜ早い場所、遅い場所があったのでしょうか?


野生動植物の存在が、食糧生産をもたらした

それは、土地の住民の問題ではなく、栽培化や家畜化ができる動植物の存在の違いによるものでした。
ユーラシア大陸は、作物化できる野生種、家畜化可能な動物に恵まれており、これが食糧生産の始まりに有利な条件となりました。

ではなぜ、野生動植物の分布に、ユーラシア大陸と他の大陸で地域差があったのでしょうか?


大陸が横長だと、野生動植物の伝播が速い

それは、大陸が伸びる向きによって、野生動植物の伝播速度に違いが生じたためです。

一般的に、野生動植物に伝播は、東西方向は速く、南北方向は遅いとされます。
東西方向、つまり緯度が同じ地域では、日照時間や季節の変化、風土病、気温や降水量の違い、生態系などが似ているため伝播しやすいのです。

ユーラシア大陸は東西に伸びていたため、南北に伸びる南北アメリカやアフリカ大陸に比べ、野生動植物が早く伝播しました。

ゆえに、ユーラシア大陸の横長の地理的条件が食料生産の速い伝播を可能にし、ヨーロッパで社会や技術の発展が進んだ結果、ピサロがアタワルパを捕えることに至ったのです。


大陸の伸びる向きで、支配する側/される側が決まっていた
これまでの話をまとめると

ユーラシア大陸は東西に長い

野生動植物の伝播が速い

多くの栽培植物と家畜化できる動物が存在する

食糧生産により、食料貯蔵が増える

人口が増え、定住し、階層化された大規模な社会ができる

技術の発展により、銃・鉄、航海技術や造船技術、集権的な政治機構、文字などができる
また、家畜を通じて病原菌への免疫を獲得する
このように、支配する側に必要な要素が揃う

ピサロがアタワルパを捕える
つまり、ヨーロッパの国々が、南北アメリカやアフリカ大陸の人々を支配する

このようにして、大陸の伸びる方向によって、支配する側/される側が決まっていきました。


救いのなさの中にある救い

この結論から、個人の思想や行動が、いかに結論を覆すにあたり寄与できないほど小さいものといえます。

南北アメリカやアフリカ大陸の人々が支配された歴史を持ったことが、人種や遺伝の優劣が原因でもなければ、誰かが何かを失敗した結果ではありませんでした。
反対に、ヨーロッパの人々が、特段優秀だったわけでも、誰かが大きな成功をおさめたからでもありません。
(もちろん、個人の行動が流れを速める/遅らせることに寄与しているとは思うものの)

なにか失敗したとき、時折僕たちは「自分があのときこうしていれば。。」と思ってしまいますが、実際は自分の行動と失敗に、何の因果関係もないこともあるといえそうです。

適度に「大陸が横長だったせい」、
とまでは言わないものの、「抗えない流れだった」と割り切ることも、必要かもしれません


参照

銃・病原菌・鉄


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