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メランコリー、のようなもの #1

 大学に入って好きな人が出来た。

 とりあえず東京に出てみよう。そんな気持ちで、地方から一念発起して、周囲の反対を押し切って受けた大学にまぐれで合格した。僕らがイメージする東京は、どこでも都会で、洗練されていて、何でも手にはいるもんだって、そう思っていた。

 でも、実際にはそんなことなくて、田舎はちゃんと田舎だった。僕が合格した大学は23区ではなくて、西東京で、周りには田んぼがあって、だらだらと日常が過ぎていくところだった。もちろん、電車に乗ればすぐに新宿にも渋谷にも行けたけど、やっぱりめんどくさくなって駅近くの学生向けの安い居酒屋で朝まで飲んで、二日酔いで授業に出る。週三で誰かの家に集まって飲みながら朝まで麻雀かスマブラをする。友達の友達は友達。矛盾している?いや、そんなことない。厚いか薄いかでいったらそりゃ薄いよ。だけど、そんな人間関係が出来ることを望んでわざわざ出てきたんだ。愛すべき故郷にいるだけじゃ出来なかった。

 時々、サークルの友達の友達で飲み会の二次会から来た女の子を家に持ち帰ったりするけど、その人もまた地方出身だったり。全然何にも変わっていない。

 そんなある意味で自堕落で、且つ健全な毎日を過ごしていた時、僕の目の前に現れたのが彼女だった。

 彼女は東京出身で、小さくて、ショートカットでよく笑う子だった。一浪していたけど、全然年上の感じもない。新歓が終わり、一通り騒いで夏が過ぎた頃、一人でサークルに入ってきた彼女を皆が好きになった。本当にそれはもう、急に起きた山火事みたいなものだった。

 いつもにこにこしている彼女は、誰にでも分け隔てなく接し、どんなつまらない話にも相槌を打っていた。最初はカシオレをちびちび飲んで、酒に弱い同期を介抱しつつ先輩の相手をする。十二時を回って僕らが酔っ払った頃に一人で焼酎のロックを飲みだす。締めのラーメンか牛丼を食べ終えた後、始発前の解散する駅前にも彼女はいた。そして、ぺこりと礼をして電車に乗っていく。そんな立ち振る舞いとか飾らない(様に見えた)姿がどうしようもなく僕たちにとっては眩しく見えたんだ。

 男って馬鹿みたいに素直で、とにかく皆が彼女の気を引こうと必死になった。小さい頃から何も変わらない。自分がどれだけすごいやつかアピールする、レポートを手伝う、デートに誘う、それぞれの手段で、あるとあらゆる手段を使って彼女と付き合おうとしていた。

 僕はというと、そんな皆の熱気に気圧されてただの傍観者になっていた。特に何の取柄もない凡人であることを自覚していた。そうして周りを見てみると、まあ必死なこと。でも、その素直さが羨ましい。自分には出来ないことを出来るって尊敬に値する。情熱が1ミリくらいあったらな、って思っても行動には移さない。手に入るわけなんてない。飲み会の端っこから眺めるのが精いっぱいだ。親指咥えて彼氏・彼女持ちの先輩たちと飲んで、でも結局最後まで残って、持ち帰られそうで持ち帰れない彼女を少し遠くから見ていた。

 

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