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百目鬼は走った!➖甘栗の苦難➖

百目鬼は走った…..
一点を見つめて、ただ走った。


ハッ…ハッ..ハッッ…ッ…

息が上がる….逃げ切れる気がしねぇ…..

真夜中の湾岸倉庫、恐ろしく静まりかえった建物に響く逃げる足音。背後から迫り来る黒い影に足がもつれそうになる。無我夢中で踏み出す足がスローモーションかの如く、背中に感じる殺気が早送りで迫ってくる。

後ろから足をタックルされもつれる様に倒れ込み、額が硬いコンクリートに叩きつけられる。羽交い締めにされ、のしっと全体重をかけてきたその大男は俺の左手首を掴むと、

「折るぞ」

と言いながら、躊躇なく折りやがった。

クソがっ!



ハァ…ハァ…ハァ…ッッ…

くっそぉ….またこれかよ!!

二度と会いたくないと思ってたその重戦車からの連絡。
どうやら元飼い主の情報が欲しいらしい。

そして今また俺は走る、アイツを背に…

ハァ..ハァ…ゥアッツーーー

またもや俺はいとも簡単に捕まり、無理矢理地面にキスさせられる。
そしてそいつは涼しい顔で言う、

「逃げるからこうなる」

なんなんだこのゴリラ!!!



二度あることは三度あるってよく言ったもんだぜ。

あの日は待ちに待ったマユちゃんのイベントで、俺は渋谷の小さなライブハウスに向かう。まぁいわゆる地下ドルってやつで、課金するとキスとかさせてくれる…ラップ越しだけどさ….
イヤ、ちげーって…...俺は純粋に応援してる…だけで…
マユちゃんはちっちぇーし、柔らけーし、すっげーいー匂いがしてよー。

浮き足立つ気持ちでそのビルの前に辿り着く。
ん?この辺って確かあのイカれ野郎の新しいハコの近くだっけ……
んん?ヌッと人混みから頭一つ飛び抜けるシルエットが…….振り向く。

ヤ、ヤベッ…

目があった瞬間走り出す。
週末の賑わいの中人混みをかき分けながら、走る。
振り返り、走る。

アイツも吸い込まれる様に走り出す。
不気味なほど無表情で、走る。
只々、走る。


二部輪唱のような足音が人混みに消えていったその夜、
捕えられた地底人のような呻き声が、どこからともなく聞こえていた…..







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