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一年越し北の地、回転する日々

11月22日
  眼科で緑内障の検査を受ける。その気配はあるものの、現状問題なしの診断。祖母も母も緑内障と診断されているから、いずれは発症するのだろう。母方の遺伝子に仕組まれた緑内障を発症するコードは、私の遺伝子にも組み込まれている。視力を失うのは何よりも怖い。毎年検査をするように医者に言われる。余計な心配事が増えた。
  中学三年生の弟の受験勉強を見る。7歳離れた弟はいくつになっても赤ん坊に見えるが、いつの間にか身長がほぼ同じになっている。その大きさには現実感がない。一年毎に大きくなりすぎる。人間の成長は気持ち悪いエネルギーに満ちている。

11月23日
イオン柏の映画館で父親と『ドライブ・マイ・カー』を観る。こっちでは最近になって公開されたらしい。午前中の回だが、客入りは良かった。8月以来、2度目の鑑賞だったが、今回は石橋英子さんの劇中音楽に聴き入っていた。エンジンが等速で回転する音とジャズがグルーヴを生み出す。
「彼女の運転は乗っていることを忘れ、ドライバーの存在すら忘れさせてしまう。車は無重力状態でどこまでも進んでいくように感じる」的なことを西島秀俊が台詞の中で言うのだが、正にこの映画の観客が味わう感覚を言い当てている。3時間の長いドライブ、その果てまで等速回転は続いていく。視界の先まで伸びた真っ直ぐな道を赤いサーブが走っていく、せめて自分の心だけはそう在りたいと思った。NHKの「おげんさん」に件の石橋英子さんが出てきて驚いた。
夜はしゃぶしゃぶ。飽食時代がピッタリだ。良いものしか食べてない。
水道橋博士『藝人春秋Diary』読了。三又又三、吉岡里帆、内田裕也―樹木希林が特に良かった。記録への情熱と言葉遊びの美学。博士の文章はあらゆる媒体でお手本になると思う。 

11月24日
そろそろ大学での発表資料を作らないといけない。テーマは多和田葉子『聖女伝説』、文書が難しくてまだ読み終わっていないが、見切り発車で書き始めるしかない。エリック・ロメール『緑の光線』がAmazonプライムに追加されたので、それを見ながら資料を読む。当然進まない。映画が面白いのが悪い。今日は多分何も起こらない一日になるだろう。

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