主流な意見に対して、あえてマイナーな意見を考えてみる。:IFRS任意適用で失ったもの

昨日は某所で研究報告でした。

今回の研究発表では、多数派の意見が占めるところにあえて、そうでない可能性もある、という主張も入れてみました。専門的な内容は省いて説明しますと、

「IFRS任意適用によって失われたものがあるのではないか?」ということです。

「日本が国際財務報告基準(IFRS)について、任意適用(好きな企業が適用すればよいよ)という方向性を選択した」

という事について、国内の中では、それを支持する意見が多数な状況です。

その理由は、

・自国の会計基準開発のノウハウを維持する。

・IFRSを適用したくない企業の負担を軽減する。

といったところでしょうか。

良かった面も確かにありますが、その選択によって失われたもの、も考えていく必要があると感じています。

特に、個々の企業にとっては大変よい状況になったと思いますが、全体をみると失われたものもあるということも認識しなければならないでしょう。

では任意適用の問題点は何でしょうか?

2. 任意適用の問題点

いくつか挙げてみましょう。

・企業間の比較可能性が低くなる(IFRSと日本基準の比較が単純にできない)

・他国と全く異なる特異な状況であるため、国際比較研究が難しい(他国においては、形はどうあれ、IFRSベースの基準(基準の設定手続きが国よって異なりますが)なので、多国間比較はある程度出来る)。日本のデータもできますが、任意適用をしている日本企業が対象で、データとして特異な位置づけにあります。

・基準が乱立している(IFRS、日本基準、U.S.GAAP、J-MIS(修正国際基準)。適用可能な会計基準が複数あるという状況(U.S.GAAP適用企業は早晩なくなると思いますが))が会計基準に対する一般の人の理解度を低下させている懸念。*他の人(一般の人、他の専門分野の方)からみて、この状況は理解しがたいようです。*会計=ややこしい、というイメージが定着している気もします。

・基準が複数あるということで人的リソースも分散化する。たとえば、IFRSを強制適用していれば、IFRSをベースにした教育制度、監査、内部統制、監督体制が可能になります。複数の基準があるがこうしたところでのリソースを分散化させているのではないか?という問題点もあります。

特に気になっているのは人的リソースの問題です。これはあまり誰も指摘していないので、あえて強調しておきます。現時点では何とか回してるでしょうから、認識されてないでしょう。少子高齢化の中で「会計人口も減っていく中で、これだけの基準を維持することが可能か?」ということです。ある程度任意適用が拡大した段階で強制適用に切り替える、ような話もあるかもしれませんが、現段階では聞こえてきません。特に、修正国際基準(J-MIS)の開発を継続していけるのか?という点は気になっています。なんせ、「どの企業も使っていない基準」に対して、IFRSの基準を場合によっては修正して織り込んでいく基準ですから、今後もコストを掛けていくのか?という事が話題になるでしょう。

識者によっては、J-MISを開発することがIFRSの適用を拡大することに繋がるとおっしゃっていた方もいましたが、現段階ではそうなっていません。


3.すべてはコインの裏と表

今言ったは全て裏返しにして考えることも出来ます。

・他国と全く異なる特異な状況であるため、国際比較研究が難しい。

⇒日本は複数の基準が乱立している面白い(ユニーク)な状況であるとして、ユニークな国際比較研究が出来る。前向きに考えれば可能でしょう。

・基準が乱立している

⇒いろんな基準の違いから、様々な問題点を浮き彫りして話し合うことが出来る環境にある。

・基準が複数あるということで人的リソースも分散化する。

⇒複数の基準に対応できるエキスパートの人材育成可能。基準開発能力も維持することに繋がっている。

という感じですね。ただ、研究者として一番残念なことは、

「日本が特異な状況である」ということを強調してもおそらく国際的にはあまり理解されない。理解されたとしても相当程度努力をして説明しないと分からない。

⇒つまり、日本データを用いて国際雑誌に掲載するという事について、そこである種の障壁になる。

という点でしょうか。もちろん、国際雑誌に掲載している研究者も多くいるので、強制適用だったら・・・ということは言えません。ただ、強制適用されて、全ての企業がIFRS強制適用という事になれば、国際比較研究が多様な視点で可能になります。海外との比較研究がもっと出来たのではないか、と思います。それを通じて、新しい知見が得られたのではないか、感じています。研究者は常にデータが欲しい人種ですが、その点は残念に思っています。



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