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ROAの分子の問題と利益の表示に関する問題:学生からの質問に答える

Q:
ROAを出そうとしたところ、IFRS採用企業でしたので、いわゆる営業利益や経常利益がないため、統合報告書に乗っているROAを使おうとしました。しかしながら、「ROAは当期純利益を、期首及び期末の資産合計の平均で除して算出したもの」と書かれており、これは当期純利益/総資産をしているのだと理解しました。ROAは、事業利益で出すもので、当期純利益を使ってはいけないと学んだのですが、これはどういうことなのでしょうか。

A:
IFRS適用企業の場合、経常利益の表記がなく、実は営業利益も任意です。
*営業利益を表記しているケースが多いですが。

となると表記されているもので使えるのは税引前か、当期純利益になります

ROAは、事業活動と金融活動で得られた利益と、事業活動と金融活動で使われた資産で割ることで、事業で稼いだ利益と使われた資産を対比することが望ましいと考えられます。

となると用いる利益として望ましいのは経常利益になります。

リースで、使用されているはずの資産が計上されていないことが問題である、という話をしましたが、使われた資産と対応する利益で比較しないと、正確な指標とならないから、問題になるわけです。

税引前当期純利益(IFRS上では税引前当期利益)では、日本基準で特別損益に区分される非恒常的な損益が入ってしまうのがやや気になるところですが、有価証券報告書の冒頭にある5年間分のデータを使って分析する際には、税引前当期純利益を使うのもやむを得ないと言えます。

ただし、正確な指標として計算したい場合は、自分で対応する利益を計算した方が良いと言えるでしょう。


Q:
IFRSと日本基準とで利益の認識に違いがあることに違和感を覚えました。IFRSと日本基準で、例えば経常利益の有無に違いがありますが、これは経常、特別損益の認識の違いによるものだと理解しています。なぜこの認識の差が生まれるのでしょうか。というのも、本来財務会計は、ステークホルダーと企業との情報の格差、情報の非対称性を緩和することがディスクロージャー制度の大きな存在意義であると思います。その開示の一つである財務諸表は、投資者にとってその企業の能力を評価できるように開示できていないと意味が無いと思うのです。特別損益はその企業、経営者の責任外で発生する損益なので、ある種その企業の能力とは外れるものであると思います。しかし、IFRSでは、特別を認識しないわけなので、運も実力の内であるというような考え方のような気がしてなりません。運も実力に入れる開示情報というのは、本当にステークホルダーにとって、その企業の実力(今回は収益性)を可能な限り正確に測れる情報になっているのか疑問なのです。なぜIFRSでは経常はないものとされているのでしょうか。

A:
表示上の問題をどう考えるかは、後期の経営分析でも取り扱おうと思います。 今は、企業独自で経営指標を示す、いわゆるNon-GAAP指標が問題となっています。

さて、質問にお答えします。 経常利益にせよ、営業利益にせよ、表示上の問題で、P/Lで開示されているので、 内訳を見ていけば、求めることは出来ます。 経常利益は、確かに事業上の利益を見るのには役立つ指標ではありますが、その後の特別損益 が少々問題です。というのも企業によっては、一部の損益を特別損益の方に区分 することで、経常利益を増加させよう とする行為をすることがあるからです。 営業利益は、製品・サービスに直接的に関わる損益で取りまとめられているので、 こうした操作の余地は比較的少ないのですが、 営業外の損益を含む経常利益においてはこうした操作はしばしば起こり得ます。

関連する研究としては、 木村(2019)『損益の区分シフト:経常利益の調整実態と株価への影響 』中央経済社。 があります。 私も退職給付関連研究をしたときには、この企業の操作には悩まされました(経 常利益を使うことが出来ず、 税引前当期純利益と営業利益を使いました)。 こうした表示上での操作の余地があるとすれば、経常利益の表示を行うのではな く、当期純利益に一本化する という方が有用である、という見方もできるでしょう。

つまり、IFRSにおいては、こうした表示上での操作の余地を与えていない、とも 言えます。 なお、当期純利益については、IFRSでは当期利益と表示され、親会社の所有者に帰属する当期利益(非支配持分相当分の利益を除いた額) と、非支配持分を含めた当期利益で表示されています。 IFRSは経済的単一体説をとっているのですが、その一方で、親会社帰属分と総額 の部分を分けて表示することは、 親会社説の考え方も重要であると考えているとも言えるでしょう。


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