マイナー分野 VS メジャー分野
会計学研究に関する閑話休題的な話をします。
私はマイナー分野の研究者を自任しています。マイナー分野とは、「人が研究しそうにないけど、私が重要な分野と認識している分野」を研究する人です(競争率が低い)。メジャー分野は「みんなが研究していて、かつ重要な分野と認識されている分野」を研究する人(競争率が高い)、と私は捉えています。
私の業績は主に年金、保険、リスク関連にあります。これらの分野は会計学研究においては王道ではないです。会計学の王道的な分野は、財務会計においては実証研究では、会計情報の有用性の追求であり、規範研究を行うのであれば会計基準論、利益観に関するテーマでしょう。*管理会計は戦略管理会計(企業経営における戦略と管理会計との結びつき)のテーマでしょうか(この辺り自信ないので、深くは触れないで置きます)?監査論は、監査人と会計情報の有用性(監査と会計情報の質)あたりが王道のテーマといえるでしょうか。
こちらを見ると管理会計学のアクセルランキングもありますね。
2019年8月8日時点では、
鈴木 研一, 松岡 孝介「従業員満足度,顧客満足度,財務業績の関係―ホスピタリティ産業における検証―」『管理会計学』 22 巻 1 号 、2014 年、pp. 3-25.
が一番のようです。
マイナー分野の多くは、研究者のテーマに対する参入障壁が高いです。私が研究している企業年金、保険会計も該当します。つまり、仕組みが難しすぎて、他の研究者がそのテーマに対して関心を持つ動機づけが起きにくい、ということです。企業年金の会計であれば、退職給付制度の仕組みにも熟知しておく必要がありますし、保険会計も同様です。
1. メジャー分野のアドバンテージ:最新の研究に多く触れることができる
「メジャーな分野」の何がよいかといえば、先行研究、すでに多くの研究が行われているので、研究の糸口が探しやすい、ということにつきます。また論文の冒頭で、研究の意義というところも容易に書くことが出来ます。一方で、保険、年金、リスクの研究では、「なぜその分野の研究をするのか」という事や問題点について長々と書く必要があります。
多くの人が研究しているメジャー分野は、マイナー分野と比べて10倍、いや、下手したら100倍ぐらい論文数に差があります。もちろん、全てチェックは出来ないとはいえ、Aジャーナルのチェックで最新のものからザッピングしていけば、実にいろいろな事が分かります。またメジャー分野の研究は、研究手法についても様々な角度から行われていますので、方法論を学ぶのに適しています。一方で、マイナー分野は絶対的な数が少ないので、適していません。
2. マイナー分野はパイオニア精神で
では、マイナー分野を研究する価値はないといえるでしょか?そうとは言い切れません。マイナー=重要でない、とは言い切れないからです。
この本の中では
「退職給付会計基準導入を期に、多額の負債(従業員の退職給付(退職一時金・企業年金が負債化されて)が財務諸表上に計上される。
→企業経営に著しい影響をもたらす。
→経営者は何とか負債を減らそうと努力する。
→退職給付(退職一時金・企業年金)の給付額を削減する。
結果として・・・『従業員の老後の資金が削減される』という現象が起きていることを主張しました。
手前味噌になりますが、「重要そうだけど」触れられていなかった課題について切り込むことが出来るのがマイナー分野の醍醐味です。
3.研究テーマはどれがベストか?
学生の指導でいつも迷うのがこれです。正解はありません。基本的に学生がやりたいテーマをやるという事が重要です(でないと続かない)。ただ、お勧めとしては、最初はメジャー分野から入ることがよいと思います。
その後に、マイナー分野に入ることを探ってみるとよいでしょう。もちろん、メジャー分野で競争していくのもありですし、研究者としての就職を考えるとその方が有利だと思います。ただ、もし自分の研究したいテーマがマイナー分野にあるのならば、それを探求していくのが何より大事だと思います。環境会計のように最初はマイナーでも徐々にメジャー分野化するものもあります。
いちばん重要なのは研究してどのような貢献があるのか?ということを意識して行うことです。研究は長い道のりです。すぐに大きな結果(貢献)はできません。辛抱強く積み重ねていくことが必要ですね。
私もマイナー分野研究者とはいえ、サブテーマとしてメジャー分野に近い「のれん」(M&A会計)の研究も行っていて、先行研究や自分の分析を行ったりしています(この秋に報告もします)。2016年のものは公開されていないようですが、2010年のものはダウンロードできるようです。
1. 上野 雄史 , 内野 三四朗「のれんの減損実態に関する日米欧のデータに基づく比較」経営分析研究 (32), 85-92, 2016-03
2. 上野 雄史「企業結合によるのれんの減損と評価 : 三菱UFJフィナンシャル・グループを事例として」年報経営分析研究 26(0), 91-97, 2010
「のれん」に関する研究は会計学のホットイシューです。多方面から研究されていて、論文や各種資料も豊富で実に勉強になることが多いです。ただ、自分の勉強をするために研究をしている訳ではありません(それも大事だと思いますが)。自分のメインでない分野でどういった貢献を発表、論文を通じて出来るのか。メインで研究していないからこそ出せる持ち味(視点)もあると考えています。マイナー分野のパイオニア的精神をメジャー分野に持ち込む、こうした気概でやっていきます。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?