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実証革命?経済学が会計学に影響を与えるもの

2020年10・11月の経済セミナーは、変貌する経済学:実証革命が導く未来、でした。

面白い記事としては、

【鼎談】
実証革命が切り拓く、経済学の新地平
 ……奥井亮×伊藤公一朗×依田高典

●因果性・異質性・ターゲティングの経済学……依田高典

●限界介入効果分析入門
 ーー観測されない異質性に迫る因果推論アプローチ
  ……柳貴英

●経済理論によるデータ分析……黒田敏史

●実証環境経済学のフロンティア……有村俊秀

●ランキング構築のための統計的推論
 ーー社会選択理論と計量経済学の架け橋……奥井亮

●経済学の理論と実証に基づいた電力市場のデザイン
  ……伊藤公一朗

などかなり面白い論考がありました。

経済セミナーに掲載されている論考は、論文の形式はとっていますが、どちらかといえば、一般向けを意識して(といっても経済学の素養がないと難しい)書かれています。

経済学の専門ではない私にも30%ぐらいは何とか分かるかな、という感じです。

経済学に着目する理由は、経済学のアプローチが少なからず会計学の研究アプローチにも影響を与えることが多いから、です。扱うデータは、経済学と会計学では異なりますが、大きく捉えれば同じ経済のことに関心がある、といえます。

経済学の関心はあくまでも経済であり、会計学の関心は会計およびそれに関連する企業(非営利組織含む)、規制(ガバナンス)にあります。

会計、企業、規制も、経済制度の範囲に入ってきますので、経済学の話はとても参考になります。

奥井亮×伊藤公一朗×依田高典の新進気鋭の若手と依田先生との鼎談が特に面白かったです。

そこでいくつか重要な指摘があったのは、実証経済学の進展の背景です。2つ挙げられています。

一つは、ソフトウェアとデータの進展です。使えるデータが多くなり、学部から大学院初級で学ぶ計量分析がStataなどで使えばだれでも実行できるようになったこと、などがあげられています。

もう一つは、信頼性革命と構造推定、です。信頼性革命については、インベストとアングリスが1994年にEconometricaに発表した論文「局所平均処理効果」に基づく政策評価の考え方が影響している、ことに言及されていますす。

この論文は操作変数法に関するもので、最小二乗法を含め頻繁に利用してきた計量経済学の手法で何を推定していたのかが明確になってきました。分析結果の解釈方法も確立され、説得力のある実証分析を行えるようになった、ようです。

構造推定の発展にも触れられています。奥井氏の理解によれば、構造推定は「ルーカス批判」への応答として出てきたもので、対象の背後にある経済理論的なメカニズムをふまえてモデルを設定することで、はじめて有用な分析が可能になります。

米シカゴ大学のロバート・ルーカス教授の1976年の論文、いわゆる「ルーカス批判」は、期待(または経済法則)が自己言及性を持つことを指摘した。例えば「インフレは家計に『賃金が増えて豊かになった』と錯覚を起こさせ、消費を増やす」という期待(法則)があったとする。政府が景気をよくしようとインフレを起こすと、国民はこの法則を理解しているうえ、「国民に錯覚を起こさせたい」という政府の意図を読んで、物価高に備え消費を減らす。すると「インフレになっても消費は増えない」という別の法則が生まれる。
このルーカス批判が示す期待の自己言及性とは、「経済システムの中にいる国民と政府が、経済システムの法則(期待)を知っており、それに基づいて行動すると、結果的に法則が変わり得る」という事実である。経済法則は、図のような期待形成のループによって生成される。このためマクロ経済政策は効果を失う、とルーカスは述べた。このループは永久に続くので、一般的には経済法則はいつまでたっても定まらない。

コンピューター(ソフトウェア)の発展と、信頼性革命と構造推定の発展が実証経済学の隆盛を支える主要要因だと語られています。一方で、経済テーマが小さなものになっているという批判もあるそうです。

確かに私が知っている頃(学部で学んでいたころ)と比べて、経済学がより身近なテーマに入ってきた印象はあります。私が学んでいたのは佐和隆光先生の本でしたが、計量経済学といっても、もう少し大雑把なデータ(マクロデータ)だった印象があり、現在の計量経済学はより細かい、身近なデータを取り扱っている気がします。

つまり、経済学、特に計量経済学分野においてはより身近なデータを取り扱うことが主になりつつあり、社会的な実装も意識した上での研究が行われている、とみるべきでしょう。

これが何をもたらすのか?もたらしているのか?といえば、経済学の取り扱っているフィールドが、会計学が取り扱うところに接近している、と感じます。

私たち、会計学者にとっては経済学者の経済的な理論モデル、手法はかなり魅力的に映ります。今後は共同で研究する、という場面も増えてくるのではないでしょうか?その一方で、意識しなければ、会計学者が単なる知識提供、制度解説のみを行っているようでは貢献点がない、ということです。

会計学者が貢献しなければならないことは、社会インフラとしての会計システムの機能に着目し、そこに貢献しうる成果にしていくことでしょう。自分のスタンスをより明確にしていなければならない。改めてそう感じました。






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