事業モデル、業界全体の状況を意識しながら数値をみる:会計数値、指標の活用術
なかなか難しいと感じるのは事業モデル、業界全体を意識して、そして会計数値、指標をみる、ということかもしれません。
ここではヒントとなる考え方を示してみましょう。
1.事業モデルを意識してみる
まず、前提条件とすると事業モデルを大まかでよいので思い浮かべて整理しておきましょう。
企業が企業に対する取引がメインなB to Bか、それとも直接、消費者、利用者に届ける B to Cか、を考えてみるとよいでしょう。
最近ではサブスクリプション方式の企業もありますので、注意が必要ですね。
ソフトウェアをサブスクリプションで提供する企業では、広告利用を使うケースがありますね。よくある無料アプリというのはこの方式ですね。
完璧な事業モデルというのはありません。
そもそもの事業モデルとして、設備投資に依拠するタイプであるかどうかは、稼ぎ方をみていく上で非常に重要なポイントになります。
事業を行う上では必ず資金を投下しなければなりません。そして、製品・サービス提供は資金の回収がまず重要です。
投下した資金が大きければ大きいほど、回収のリスクが増します。
しかし、巨額な資金を投下する必要のある事業が悪く、小さな資金で始められる事業が良いとは限りません。
なぜならば、巨額な資金が必要である、ということはその分だけ、他社が参入する余地が小さくなります
たとえば、交通系の会社がそうでしょう。今から鉄道会社を他社が運営することはほぼ不可能なはずです(買収すれば別ですが)。
交通系の会社は、投下した資金を回収するまでの期間を10年以上で見ているはずです。というのも、車両や機体への設備投資を行ったら、ある程度長く使うことが想定されるからです。
2020年に引退する700系は20年以上使用していました。新車両との入れ替えもあり、徐々に使用回数を減らしていたと思いますので、メインで使うのは10年強ぐらいとみてもよいかもしれません。開発期間も含めれば、もっと長い期間、700系には資金を投下していたはずです。
それに対して、小さな資金で始められる、IoT系のソフトウェア会社は過当競争になり易く、よほど差別化した製品を出すことが出来なければ生き残ることが出来ません。
つまり起業がしやすい業種ほど競争が激しいということです。
GAFAとよく言われますが、4社も明らかにタイプが異なります。このうちFacebookとGoogleは、インターネット上でのサービス提供から始まった会社で、小さな元手で始めた企業です。対してアマゾンは自社での配送網にかなりの資金を投じています。Appleも、製品の製造は他社に今でこそ依存しており、工場を保有していないものの、それでも製品を製造するということが基本にありますから、開発費に多くの資金を投じる必要があります。もちろん、より良いサービス・製品提供のために常に投資を行っていくという点においてGAFAは共通しています。
なお、Facebookは黎明期、まだGAFAの一角に挙げられる前は、ソーシャルメディアサービスのその他大勢の企業だったわけです。他社(Instagramなど)を買収することで自社の事業モデルをより頑健なものにしていったわけです。Googleも同様です。何度か触れていますが、Youtubeなどを買収することを通じて、自社のサービスの利用者を増やしていきました。
事業モデルとしてFacebook、Googleともに広告収入に依存していますので、広告収入を増やすためには自社のサービスの利用者を増やすことが必須の条件になります。
GAFAのうち、事業モデルとして脆弱といえるのはFacebookとGoogleかもしれません。ですが、投下している資金を別に移せば新事業も展開しやすいのも両者かもしれません。
一方でAmazonは、自社のサービスをECのみ絞るのは危険と考えているようで、AWSという新サービスも提供し始めています。
Amazonプライムなども新しい収益源の一貫として行っていると言えますが、どうやらこちらのAWSのサービスはかなり好調のようです。
AppleはiPhone一本足打法でどこまで行けるのか?ということが焦点になってきそうです。
こちらの記事でも取り上げられているようにクラウド系サービス(音楽、動画の配信)をどこまで収益源と出来るか、ですね。
ただ、もうお分かりのように、音楽ではSptify、動画ではNetflix、Amazonプライムサービスなど、競争が激しい領域です。
つまり、新しい稼ぎ柱をみつけるためには、新領域の開拓が欠かせないわけですが、そう簡単でないことも分かると思います。
分かり易くGAFAをたとえに出しましたが、この構造は基本的にどの企業の事業モデルでも同じです。
分析対象の事業モデルが、どのように稼いでいるのか?
具体的には、
どのような事業モデルで稼ぎを生み出しているのか。
B to Bなのか、B to Cなのか。
多額の投資(設備投資)を必要とする事業かどうか。
事業、競争環境はどうか(他社の参入障壁は高いか否か)
の4点は少なくとも意識するとよいでしょう。
もちろん、これは一つの指針に過ぎませんので、事業モデルで特異な点、特徴的なところがあれば書き足していくことが必要です。
2.会計数値、指標をみることの意味
会計数値やそれに基づいて算出される指標は、一定の限界もあるものの、客観的な数値、状況についての情報を私たちに提供してくれます。
たとえば、売上高が増えているか、増えていないか。
今期は当期純利益か、当期純損失のいずれであったのか。
会計数値を通じて知ることが出来ます。
さらに指標化することで規模の影響を考慮した数値を出すことが出来ます。
つまり、分子に分析対象となる数値、分母に資産、売上高などを入れることで、分析対象の数値がどれぐらいの割合か、を知ることが出来ます。
たとえば、当期純利益を売上高で割ることで、
全体の売上高に対する当期純利益の割合、を知ることが出来ます。
売上高で割らなくても、もちろん、
総資産で割れば、
総資産に対する当期純利益の割合、を知ることが出来ます。
分母に何を置くかで指標の意味は変わってきます。
売上高であれば、全体の売上、総収益に対する利益、つまり儲けの割合になりますし、総資産であれば、企業の全ての総資産に対する儲けの割合になります。
いわゆるROA(Return on Assetes)というのは利益に対する総資産の割合です。
売上高利益率は、売上高に対する利益の割合です。
良くある質問は、どの数値を分子に置くべきですか?という質問です。
質問に質問で返すると、「分析の目的は何ですか?」
が答えになります。
つまり、サービス・製品当たりの儲けを知りたいのであれば、売上総利益もしくは販管費を除いた営業利益を用いるべきでしょう。
税金の影響を除いて考えるのであれば、税引前当期純利益
株主への分配対象となる利益を考えるのであれば、当期純利益
というように分子、分母共に分析の目的、つまり何を測定したいのか?
ということによって変わってきます。
3.指標からみるべきか、会計数値からみるべきか?
指標からみるべきか?会計数値から見るべきか?
という順序ですが、当然ですが、会計数値からみてみるべきでしょう。
まずは全体の各種数値、売上高、総資産、純資産(資本)、負債の5年間ぐらいの推移をみつつ、さらに慣れていれば、貸借対照表、損益計算書の各種数値の内訳をみてみるとよいでしょう(当然、見るべきなのは連結のデータです)。
貸借対照表あれば、流動資産の現金預金、売掛金、固定資産の有形固定資産、負債の借入金、社債、純資産の資本金、資本剰余金、利益剰余金
損益計算書であれば、売上高(売上収益)の内訳、売上原価の内訳、販管費、支払利息
などになるでしょうか。
ざっとみてみてもピンとこないという人もいると思いますが、それでもざっとみてみるとよいでしょう。
会計数値をみて違和感を感じるにはある程度慣れや勘も必要ですが、何パターンもみていれば、徐々に、あれ、この企業、こんな特徴あるな、というのが掴めてきます。
たとえば、製造業と非製造業では資産の構成が違い、さらに資金調達の方法も異なっていることやモノづくりを行う製造業では、費用全体に売上原価が占める割合が大きく、非製造業においては、販管費が占める割合が多いことなど、指標にしなくてもつかめてくるはずです。
次にも触れるようにモノづくりを行う製造業系=売上原価が高い、非製造業=販管費高い、というのは一概には言えません。
つまり個々の企業の事業モデルに依拠して、貸借対照表、損益計算書の形は決まってくるため、そこには個別性が強く表れます。
もろろん、ある程度の傾向はあります。なぜならば、同業種であれば、類似の事業モデルで稼ぎを出している傾向があるからです。
ただし、矛盾することをいうようですが、全く同じ事業モデルというのは存在しません。なので、個別の企業分析を行う場合には、共通点と相違点を意識しながら、比較していくということが必要になります。
この段階において事業モデルを頭の中に意識しながら貸借対照表、損益計算書をみていくことが必要になってきます。
事業モデル×貸借対照表・損益計算書の構造、を頭に入れてから、
指標を使って分析をして、解釈してみるということがおススメです。
4.会計数値、指標による分析上の注意点
学んだ会計数値や各種の分析指標を活用することで、その企業の財務状況、経営成績を知ることが出来ます。
ただし、こうした会計数値や指標の活用が難しいところは、単純に、
当期純損失だったら事業が上手くいっていない。
または、売上高当期純利益率が他社よりも高かったから、この企業は優れている
などと単純に結論づけてはならない、ということです。
企業の価値を生むのは事業モデルとすれば、その事業モデルから生み出された結果が会計数値に表れてきます。
となれば、その会計数値が生み出されるプロセスに注目して分析していく必要があるということです。
当期純損失が出ている理由について探ってみる必要があります。
たとえば、有名な事例かもしれませんが、米国のテスラは10年連続で赤字、すなわち当期純損失を出しています。
これは多額の投資を毎年行っていることに起因しています。
たとえば、Appleの売上高当期純利益率が高ければ、高い理由を考えてみる必要があります。
そして怖いのは単純思考です。
Appleの売上高当期純利益率が高い⇒Appleの製品は高くで販売されているから⇒ブランド価値が高い
ブランド価値が高いAppleは優れている。
こうした結論多くないでしょうか?
これは単純すぎるといえるでしょう。
たとえば、ブランド価値が高いとはどういった状況のことを言うのでしょうか?
またどのようなブランド戦略で価値を高くすることに成功しているのでしょうか?
こうしたことを最初の段階で考えておく必要があります。
また高く売るだけではなく、原価、つまりコスト低減も行っていると考えられます。
高付加価値企業で多いのは、『売上―売上原価=売上総利益』でみれば、収益率が高いのですが、『販管費』に多くのコストを掛けているので、収益率の水準で他社と同水準というパターンが多くあります。
これは化粧品メーカーではよくあるパターンです。
では、販管費をどのように減らしているのか?また売上原価を減らす仕組みもあるのではないか、なども見てみる必要があります。
ここまで整理してきて分かってきたとおり、高付加価値企業=ブランド価値が高い企業、と定義づけて分析するのはやや乱暴、というか大雑把すぎる分析です。
必要なのは、数値から事業のモデルの構造を立体的に推察できる思考方法でしょう。
5.数値、指標の解釈を事業モデルから行う
ここまで述べてみたことをまとめてみると、
事業モデルを大まかに書き出してみる
貸借対照表、損益計算書をみてみる(会計数値からみてみる)
指標をつかって分析してみる(分析意図を明確に)
数値、指標の解釈を、事業モデルから行う
という順番になるでしょう。
もちろん、順番が変わっても構わないと思います。一番大事なのは、単純思考に物事を考えるのではなく、数値、指標の解釈を事業モデルから行う、ということにあります。
そして、分析を進める上では、仮説⇔検証の往復は欠かせません。
今回は割愛しましたが、会社の沿革、役員構成、従業員数などの会社に関する情報や、キャッシュフロー計算書の推移なども合わせてみることで、分析は進めやすくなります。
また、その他の様々な指標を使うことで、事業の構造の詳細を明らかにすることが出来ます。
数値や指標は、事業体の解像度を上げるための手段です。ただし、解像度を上げた結果から何が考えられるかを解析するのは、分析者です。
多数の企業を分析することを通じて、分析の勘所を掴んでいきましょう。
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