レナウンの倒産分析:負債比率が低い=倒産しない、ではない、運転資金のショート(枯渇)はB/Sに表れない
1.初めに
民事再生法を提出したレナウン。こちらの倒産分析を行ってみたいと思います。
*これは速報の分析で、数値の誤りなどがあれば書き直す可能性もあるので、現時点での引用は控えてもらえると助かります。
に今後の手続きの流れが書いてます。
民事再生手続の流れ
5月15日:民事再生手続開始決定
6月19日まで:再生債権の届出
7月17日まで:報告書等の提出
7月17日まで:認否書の提出
8月17日まで:再生計画案の提出
10月中旬頃:書面投票・債権者集会
10月中旬頃:認可決定
再生計画案が可決された場合、その再生計画が遂行される見込みがないと認められるような場合を除いて、裁判所は再生計画を認可します。
この認可決定の確定により、債権者各位の権利が再生計画記載のとおりに変更(債務の一部免除等)されます。
以降:再生計画に定められた債務の弁済
再生計画に基づき債務を弁済します。お支払いできる金額や条件等は、再生計画案において定めることになりますが、現時点ではまだその見通し等をご提示できる状態にございません。今後、再生計画案を提出しましたら、具体的なご説明をさせていただきます。
当たり前ですが、レナウンに貸したお金が戻って来るかどうかは不透明ですね。
お店はひとまず続けるようですが・・。
レナウンは前身となる佐々木商会が1902年に創業。主力ブランドとして「アクアスキュータム(Aquascutum)」や、メンズブランド「ダーバン(D'URBAN)」などの事業を手掛けている。2010年には経営再建のため、中国の紡績大手の一つである山東如意科技集団(以下、山東如意)と資本業務提携し、グループの傘下に入った。2013年に山東如意に対して更なる第三者割当増資を行い、グループの出資比率が50%を超えたことで連結子会社となった。
同社では、今年3月に元取締役上席執⾏役員の⽑利憲司氏が新代表取締役社⻑執⾏役員に就任。また、2023年度を最終年度とする中期経営計画を見直し、不採算店舗の整理、仕入れ代などの経費削減に取り組むと発表していた。しかし、2019年12月期の連結業績(2019年3月1日~12月31日)においては山東如意のグループ企業から売掛金53億円を回収できなかったことなども要因となって最終損失67億4,200万円を計上。2期連続で最終赤字に沈むなど業績不振が続いた。
山東如意のグループ企業から売掛金53億円を回収できなかった
救済してもらったはずの親企業からの売掛金を回収できずに倒産は・・・・ちょっとどうかと思います。
しかも、出資を受けた会社からの役員も受け入れてますからね。
さて、決算を確認してみましょう。
2.決算の分析
決算において注目すべきは、当期純損失を2019年2月、2019年12月(決算期変更されてます)と連続して計上されているところでしょう。
売上高については、決算期の変更があるので、2019年2月期→2019年12月期は比較はできません。
売上高は2016年2月期71,215百万円→2019年2月期63,664百万円
と一割以上減少しています(約11%減)。
それに対して資産額は2016年2月期41,744百万円→2019年2月期39,713百万円5%減です。
資産と売り上げの減少を比較すると、売上の減少の方が大きいことが分かります。いわゆる効率性が落ちている、ということもいえますが、このことは売り上げの縮小(減少)に対して、事業の縮小が追い付いていない状況ともいえます。
そしてこちらをみるとなかなか興味深いです。
自己資本比率(自己資本/総資産)、いわゆる企業の安全性を測定するしひょですが、2016年12月期59.2%→2019年12月期47.4%と下がっているものの、負債比率が大きいわけではないことに気が付きます。
負債比率をチェックしてみると、長期借入金は大きくないことに気が付きます。
むしろ、気になるのは長期の負債よりも短期の負債かもしれません。
流動負債10,761百万円と固定負債と6,247百万円と比べてかなり大きい印象があります。
ただ、業種柄、短期の貸付(売掛金)、負債(買掛金)は多いのかもしれません。*倒産の理由も売掛金の回収でした。
ともあれ、長期の借入金が倒産の理由ではない、という点に注目すべきでしょう?
ではなぜ倒産したのでしょうか?
それは現金の枯渇です。
こちら営業活動キャッシュフローをみると、大幅にマイナスになっています。2016年2月期マイナス 2017年2月期マイナス、2019年12月期マイナスと5期中3期マイナスです。
期末の現金保有高(現金及び現金同等分の期末残高)も2016年12月期8,960百万円→2019年12月期3,316百万円と急激に減少していることが分かります。
そして、営業活動と投資活動のバランスをみてみると(いわゆる営業活動の範囲で投資活動を行っているか)、
2018年2月期 営業活動1,547百万円<投資活動4,195百万円
と営業活動で得たキャッシュを上回る投資をしていることが分かります。投資活動はいわゆる企業の将来の投資部分な訳ですが、レナウンは積極的に投資をしていたということが伺えます(何に投資をしていたのか?ということまでは今回は分析していません)。
お金はどこから調達?となるわけですが、2018年2月期3,406百万円と財務活動がプラスになっているので、どこからか調達していることが分かります。
どこからか?
上図は2018年2月期のキャッシュフロー計算書から抜き出したものです。財務活動3,406百万円のお金の原資は短期借入金3,500百万円であることが分かります。
短期借入金で投資活動(事業投資)を行っていたという状況です。
短期借入金で借りたのはなぜか?
理由は分かりません。ただ、こちらの情報をみると・・・
2018年12月期に続き、2019年2月期にも短期借入金で調達しています。
2019年12月期は△93万円な訳ですが、このことから短期で借りた借金で、また借金で返すというサイクルなことが分かります。
長期で借り入れが出来なかった理由はまだわかりませんが、信用力が低くて長期の借入金が出来なかったことが推察できます。
ちなみに短期借入金と合わせて2019年12月期には長期借入金1,500百万を調達しています。
この資金調達目的については、
と有価証券報告書(2019年12月期)には記載されていて、運転資金目的で資金調達をしていたことが分かります。
つまり、日ごろの運転資金に困っていたことが伺えます。
どういった手段で長期借入金を借りたのかは分かりませんが(まだ調べていませんが)、通常、私たちの家のローンでも長期間使用するための資産のためにそれに相当する長期の借入金を行います。
つまり、資産と負債をバランスさせるわけです。
ですが、短期の運転資金を長期の借入金で賄う、ということは普通の経営感覚ではありえないことをしています。
この辺りからかなり経営状況が悪化が深刻化していたのではないか、と伺えます。
つまり、短期の資金調達だけでは運転資金を賄えなくなり、長期の借入金を調達したという構図になっていることがうかがえます。
3.現時点での簡単な結論
もう少し詳細に分析しなければなりませんが、レナウンが短期的な運転資金の確保に四苦八苦していたことは過去の財務状態からうかがえます。
そして、長期の借入金の調達するに至り、最終的には親会社からの売掛金が回収できなくなり、その資金がショートして倒産に至ったわけです。
こうなる前に大幅な事業の見直しもあってしかるべきだったのですが、希望退職者の募集で労使が折り合えなかったようです。
こちらのIRのニュースソースでも書いていますが、
2019/08/23付で希望退職者の募集を行い、2019/10/15付で募集を停止(募集が殺到したわけではなく、従業員の声や事業環境の変化を理由にしています)するなど、事業の再編もうまく進んでいなかったことが分かります。
このタイプの倒産は、近々の事例ではスカイマークと比較的類似しています。いわゆる運転資金の枯渇による倒産です(スカイマークも民事再生法適用でしたね)。
このタイプの倒産では、短期的な資金ショートで倒産しているので、バランスシート上の動きでは把握することは難しい。なんせ、短期の借金をして、また借金をして返すというサイクルだと、負債の項目に上がってきませんので。
しかしながら、これが経営として危ない行為(私たちでもそうですよね?いわゆる短期の借入をして、それで日常的な生活を回しているということは)であることは説明するまでもないでしょう。
よくある誤解は、負債比率が低ければ企業は倒産しないんですか?ということです。
このことはよく質問されますし、また今の内部留保(利益剰余金)の話しともつながりますが、「資金が潤沢にある≠負債比率が低い」ということを理解しておかなければなりません。
つまり、キャッシュの動きをバランスシート上で把握することは出来ない。キャッシュ・フロー計算書と現金保有高、さらにP/L(経営成績)の状況(赤字か黒字か)を総合的に見て判断しなければならない、ということです。
レナウンの倒産は、そうしたことを教えてくれる一つの事例ですね。
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