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野村HDの2,200億円の損害とその影響を考える:儲かっている時こそ用心、問われる海外子会社のガバナンス体制

野村ホールディングス(以下、野村HD)が大きな損失を発生させました。

こちらの記事をご覧ください。

野村ホールディングスは29日、米子会社で顧客との取引に起因し、多額の損害が生じる可能性のある事象が発生したと発表した。当該顧客に対する請求額は26日時点での市場価格に基づく試算で約20億ドル(約2200億円)という。業績に与える影響が判明次第、速やかに公表するとしている。

詳細は不明ですが、2,200億円規模の損害を発生させたようです。

米子会社との顧客取引でこれほど多額の損失を発生させてしまうとは、前代未聞の事態と言わざるを得ません。

さて、この詳細は分かりませんが、ともあれ2,200億円の損失がどの程度インパクトを与えうるかを試算してみましょう。

野村HDは証券会社というイメージが強いかもしれませんが、現在では、 
証券業を中核としながらも投資・金融サービス業を提供しており、実際に収益構造は多様化していることがこちらから分かります。


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そして事業系統図からみても分かるように多様な子会社・関連会社を抱えていることも分かります。今回の損害発生は、事業構造の複雑化、多様化が招いたものではないか、ということがその理由として真っ先に思い浮かびました。

かつての大和銀行の事件もそうですが、海外で目が行き届かない状況で大規模な損害をもたらす事案は起こるものです。現段階において、大和銀行の時のようにFRB、SECによる処分が下される事案になるかどうかは分かりませんが、対応を誤れば、厳しい処分が下される可能性があります。そうなれば、最悪、米国での同社での活動が一時的にせよ大幅に制約されるということになりかねません(まだ詳細が分からないのでどうなるか分かりませんが)。

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さて、今回の損失が与える影響をみるために、まず、2021年3月期1-3四半期の累計の決算ハイライトを見てみましょう。

税前利益3,968億円(45%増)、当期純利益 3,085億円(同23%増)と2002年3月期以降で最高の利益水準、となっていました。2,200億円の損失が発生したとしても、他で利益が出ていることもありますので、赤字に転落、とういことは避けられそうです。

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ただ、今回の件で恐ろしいのは野村HDという国内大手の証券会社が起こした大規模損失ということで、顧客が資金を引き揚げてしまうということです。

手数料が発生してしまいますし、急いでそうした動きに発展するとは言い切れませんが、新規の顧客獲得という点においてはかなりのマイナス材料です。

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そもそも野村HDは海外で大きく儲けていたことがこの図から分かります。

前年同期比2.8倍、海外比率42%上昇ですから、かなりの伸びです。

かつ、海外の中でも米州(アメリカ)が318億円⇒1,268億円と大幅に伸びていることも同時に分かります。

つまり、今回の損害はアメリカでの子会社から発生したとされていますが、この第3四半期までの累計で稼ぎ頭であったはずのアメリカで発生したということは見逃せないことでしょう。

それにしても問われるのは野村HDのガバナンス体制です。

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こうやってガバナンス体制の図を見ると、理想的に見えます。現在においても社外取締役の活用を積極的に進めており、2021年度には外国人4名、女性3名を取締役候補者に入れています。

女性や社外取締役の活用というのは今後求められていくことでしょうし、それ自体は望ましいこと、です。ただし、こうしたガバナンス体制を構築していることが、必ずしも機能しているかどうかは別問題なのかもしれません。

今回の件は米国の子会社で起きた件である、と伝えられています。

ここ最近、海外子会社の不祥事は相次いでいます。

シャープは、2021年3月期第3四半期(2020年4~12月)連結業績を発表した。売上高は前年同期比3.8%増の1兆8168億円、営業利益は0.4%増の620億円、経常利益は26.6%減の438億円、当期純利益は10.8%減の414億円となった。また、第3四半期(2020年10~12月)の売上高は前年同期比6.3%増の6734億円、営業利益は21.3%増の323億円、経常利益は54.0%減の139億円、当期純利益は28.3%減の173億円となった。同社では、連結子会社であるカンタツにおいて、不適切な会計処理の疑義が生じ、それに伴う調査を行ってきたことで決算発表の時期を遅らせていた。これに伴い、2018~2020年度までの通期連結業績を修正した。3カ年合計での売上高への影響はマイナス75億円、当期純利益ではマイナス76億円の影響があるとした。

こちらはシャープの海外子会社カンタツにおける不正会計事案です。

そもそも2019年時点で子会社の不祥事が多いことは指摘されていました。

日本の上場企業で会計や経理の不祥事が増えている。2019年は11月末までに64社が開示し、これまで最多だった16年(57社)を上回った。日本企業の国際化が進み、中国など海外子会社や合弁会社などで不正が起きやすくなっている。

海外の子会社を含めた包括的なガバナンス体制の構築が求められているのでしょう。

コロナ禍において海外子会社とのコミュニケーションが不足して、不祥事が起こりやすい状況になっている可能性があります。

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よく言われる不正のトライアングル、プレッシャー、機会、正当化ですが、トリガーとなるのは、機会が圧倒的に多いことがPWC(2018)の調査から分かっています。

コロナ禍において物理的に距離がある海外子会社におけるガバナンスが効きにくい状況になり、不正が起こりやすい状況になっていると考えられます。野村HDの件は不正であるとは公表されていませんが、これだけ多額の損失を発生させてしまう事案は、同社のガバナンス体制に不備があったと批判されても仕方ないでしょう。

コロナ禍において、管理体制に不備が生じやすく、こうした損失を発生させる可能性、リスクが高い状況にあったことは同情すべき点もあるともいえます(同情できる額ではないですが・・・)。

そもそも野村HDが米国で大きく儲け始めていた、ということも関係しているのかもしれません。証券会社の性質上、大きく儲けているということは、何らかのリスクの発現により。損失が発生しやすい状況にあったと推測されます。

ハイリスク、ハイリターン志向で米国で活動していた可能性もあります。どの程度のリスクを米国で取っていたかは現時点では分析していないのでわかりませんが、今回の件は、大きく儲けていたはずの米国市場で、同社が何らかの判断ミスにより生じた、ということは言えそうです。

今回の件はまだ全容が明らかにされていませんが、二つのことは言えそうです。

儲かっているときほど反動で損失が発生しやすい

コロナ禍において海外子会社のガバナンス(管理)体制をどのようにチェックするのか

この2つを課題は野村HDに限らず海外子会社を抱えている全ての企業に問いかけられているといえるのではないでしょうか。





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