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自助、公助、共助V.S 生活保障の三層構造

さて、新型コロナ渦において、公的な支援の重要性が再認識されています。

その中で、私たちの生活保障システムを意識していく必要性がますます高まってきています。

このマガジンの中では、退職金の視点で考察を進めていきますが、生活保障をめぐる考え方、捉え方について整理していきたいと思います。

「自助、公助、共助」と「生活保障の三本柱」という考え方の違いです。

というのもこの二つの考え方、やや異なるコンセプトで形成されています。

そのコンセプトの違いは、

「生活保障システムという大枠から、公的、職場、個人保障の枠組みを捉える考え方」

「社会保障の視点から、自助、公助、共助を捉える考え方」

の違いにあります。

まず、生活保障論の考え方は水島先生の以下の著書で確認していきたいと思います。


1. 生活保障論の視点

(1)生活システムと生活保障システム

生活保障論の視点について、水島先生は以下のように書かれています。

「豊かな社会といわれている今日、生活の質的内容(quality of life)に対する関心が高まっている。すなわち、物質的に一応の充足を達成しえた人々が、生活の快適性(amenity)や心のふれあいを求める動きである。しかし、他方で、豊かさの裏にひそむ国民の不安意識の高まりを無視することはできない。将来に向けて現状の生活水準を失うことへのおそれを、多くの人びとがもっている。生活の質の改善に関するさまざまな努力も、適切な生活保障手段を欠く場合には、絵に画いた餅に終わりかねない。この意味で生活保障は、現代人の生活の基底を形作る重要不可欠な関心事だといわなければならない。」(生活保障システムと生命保険業、1頁)

つまり、現代人の生活においては、生活を保障する仕組みが機能しなければ瞬く間に飢えてしまう、生活に困窮していまう人が出てきてしまうわけです。

その事はもうすでに、新型コロナ渦における様々なトラブルにおいて私たちが実感、体感していることだと思います。

まさに、今ほど生活保障システムの重要性、ということを再認識する時はないでしょう。

水島先生の先ほどの著書においては、生活システムと生活保障システムを切り分ける形で整理されています。

生活保障システムの前に、生活システムを意識しておかなければならないかもしれません。

水島先生のいうところの生活システムとは、

「生活主体である個人が、意思的に選択するか、もしくは無意識的にその影響下にある生活価値観にしたがって、個人や組織・集合体などと社会的諸関係(生活諸関係)を形成し、これによって、物財、サービス、公共財等の生活諸資源を獲得・享受するという生活行為システムである。」

としています。つまり、スーパーマーケット、生活インフラ(電気、ガス、水道)、公共交通機関などについては、生活システムの範疇で整理されています。

そして、「生活保障システム」は生活システムを支えるためのサブシステムと捉えられいます。

つまり、「生活システム」を保障するのが「生活保障システム」という整理ですね。

こうした捉え方で整理すべきかどうかはまた別途議論する必要があるかもしれません。

というのも、ここで水島先生は、イメージしいるのは、いわゆる「保障」、具体的には、医療、福祉、年金などといったものを生活システムを支えるサブシステムとして意識されています。

ただ、生活システム自体を支える保障(政府による間接的な支援、仕組み)なども必要であり、本来であれば不可分なものかもしれません。

例えば、電力、ガスなどの基本的なインフラは民営化されているとはいえ、公共料金の値段については政府の意向も反映されます。

生活インフラを支えるための国を通じた保障(バックアップ)が行われている、ということを私たちは知っておくべきだと思います。

そしてその生活インフラシステムは意外に脆弱であることを3.11後の計画停電で知ったと思います。

ただ、議論を整理する上で、いわゆる何らかの給付等を伴う保障と、生活に直接関わるシステムとは切り分けることは必要でしょう。

ともあれ、「生活」というキーワードは実に多様なものを想起させ、議論の対象になります。と同時に私たちにとって身近なもの、でもある訳です。

もはや生活にコンビニが欠かせなくなったように、いつの間にか私たちの生活の中に溶け込んでいる、ものがあるわけです。

(2)生活保障の三層構造

さて、生活保障の三層構造は最下層に国の社会保障があり、国がナショナル・ミニマムの水準までを担い、それに企業の職場保障が付加され、そのうえで、個人の自助原則に立脚する個人保障が上乗せされる、という考え方です。

上乗せレイヤー:個人保障:自助原則・努力

中間レイヤー:職場保障:職場から提供される保障:労働を対価に。

最終レイヤー:社会保障:国民が加入する義務を負う。

生活保障三層構造

(出所)水島(2006,2010頁)

国による違いはあるにせよ、基本的にはこうしたフレームワークにならざるを得ないところがあります。なぜならば、絶対的な必要額というのが存在します。

一時期、話題に上った老後2000万円議論です。

結局、個々の健康状態、寿命によって必要額は異なってきますが、老後に必要な所得、医療サービスについて国が保障できない部分は何らかの形で補完せざるを得ない、ことがこの生活保障の三層構造から考えることが出来ます。

2. 自助、共助、公助の概念

さて、こうした生活保障システムを三層で考える考え方ですが、では最終レイヤーである、つまり基盤となる社会保障制度はどのような考え方に基づいて設計されているのでしょうか?

その手掛かりは、社会保障制度改革国民会議 報告書 『確かな社会保障を将来世代に伝えるための道筋』(平成25年8月6日)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kokuminkaigi/pdf/houkokusyo.pdf
にあるといってよいでしょう。

そもそもこの社会保障制度改革国民会議という集まりは?

と思われるかたは、

2014年には自民党への政権交代により、社会保障制度改革推進会議が設置され機能が受け継がれている。

とありますが、今の社会保障に関する考え方は基本的に平成25年の社会保障制度改革国民会議の報告書に基づいていると考えてよいでしょう(私はそう捉えています)。*識者によって異論はあるかもしれません。

この報告書では、基本的に自助、という事が強調されています。

以下の文章を見てみるとよいでしょう。

社会保障制度改革推進法の基本的な考え方(1)自助・共助・公助の最適な組合せにおいて以下の様な考え方が示されています。

日本の社会保障制度は、自助・共助・公助の最適な組合せに留意して形成すべきとされている。これは、国民の生活は、自らが働いて自らの生活を支え、自らの健康は自ら維持するという「自助」を基本としながら、高齢や疾病・介護を始めとする生活上のリスクに対しては、社会連帯の精神に基づき、共同してリスクに備える仕組みである「共助」が自助を支え、自助や共助では対応できない困窮などの状況については、受給要件を定めた上で必要な生活保障を行う公的扶助や社会福祉などの「公助」が補完する仕組みとするものである。この「共助」の仕組みは、国民の参加意識や権利意識を確保し、負担の見返りとしての受給権を保障する仕組みである社会保険方式を基本とするが、これは、いわば自助を共同化した仕組みであるといえる。

(2)社会保障の機能の充実と給付の重点化・効率化、負担の増大の抑制 

では以下の点が強調されています。

社会保障が、現在、巨額の後代負担を生みながら、財政運営を行ってい
ることは、制度の持続可能性や世代間の公平という観点からも大きな問題であり、現在の世代の給付に必要な財源は、後代につけ回しすることなく、現在の世代で確保できるようにすることが不可欠である。
このため、「自助努力を支えることにより、公的制度への依存を減らす」ことや、「負担可能な者は応分の負担を行う」ことによって社会保障の財源を積極的に生み出し、将来の社会を支える世代の負担が過大にならないようにすべきである。

として自助努力が基本だよ?ということが強調されています。

この報告書はいわばミニマム・カバーをすべき社会保障制度からみた視点に終始しています。

3. どこを起点に考えるかで議論が異なる

生活保障論、社会保障論のどちらが優位というわけではないです。どこを起点に考えるかで議論が全く異なるという事です。

社会保障論は、やはり社会保障システム、生活保障の三層構造でいう最後のボトムの部分からの視点で議論が展開されます。

「これからも持続可能な社会保障システム」の視点です。

一方で、生活保障論は、「個々の生活者の視点から保障を考える」視点で議論が展開されています。

ただ、生活者目線で物事を考えた場合、社会保障制度改革の一連の改革で行われている議論に違和感を感じることも少なからずあります。

視点が異なる、という事を意識しておくと議論の整理には役立ちますね。

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