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チョコレートを作って感じた壁

壁AdventCalender 2021, 12月12日の記事です。

神の食べ物という名称を冠するTheobromaことカカオ、それを卑しくも人の手で加工し嗜好品として人類が愛して止まないチョコレート、皆さんは好きですか?私は嫌いです。

人類がこんなに好きなのだからせめて人としてチョコレートを嗜もうと色々なお店に赴き食べましたが好きになれません。しかし、もしかしたら1つぐらいは好きになれるチョコレートがあるかもしれないと思い、自分に最適化されたチョコレートを目指すべくチョコレート作りを試みて感じた壁を壁Advent Calendar 2021として書いていきます。ウィゴッウィゴッ ウィゴッウィゴッゴッゴ

指針

カカオ豆を仕入れてからチョコレートを作る工程までは全部で6つの工程があるようです。

1. 焙煎(Roasting)
2. 外皮取り(Winnowing):カカオニブを取り出す
3. 磨砕・精錬(Melanging):カカオマスを作る
4. 調温(Tempering)
5. 型入れ(Molding)
6. 熟成(Age)

神の食べ物であるカカオを使ったチョコレートに対して、人間のさもしい発想でチョコレートにあれこれ付け加えることは神への冒涜です。なので純粋にカカオの香りを堪能できるようにカカオと砂糖のみのシンプルなチョコレートという制約下で自分にとっての最適解を見つけるべくスタートします。

カカオ豆からチョコレートを一貫して製造することをBean to Barといい、数年前から注目されていました。東京では代々木上原のMinimalや蔵前のDANDELION(発祥はサンフランシスコ)が有名です。これらのお店はBean to Barの世界を一般の人たちにも体験してもらおうとキットの販売やワークショップの開催をしています。チョコレートの製造に関してカカオの原産国、生産者、製造業者の果たす役割やサステナビリティといったストーリーが求められる時代になりました。

一連のストーリーそれ自体がカカオの風味に直接影響を及ぼすことはないので、チョコレートの味に影響を及ぼすカカオとその産地による違いを自分の中で明確にするために、今回はそれぞれカカオ豆の産地が異なるMinimalのワークショップ、DANDELIONのキット、Dari Kのキットを使ってチョコレートを作っていきます。

Minimalワークショップ

興味はあるけど、どこから手をつけたらいいかわからないとき概観を理解するためにもWorkshopやTutorialは有用ですよね。学会でもよく開かれていますし。Minimalではカカオについての知識からチョコレート作りの工程までを説明してくれた後で、実際にカカオ豆からカカオニブを取り出し(外皮とり)チョコレートのメランジング(磨砕・精錬)、型入れまでを体験できます。

これを、

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こいつで

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こうして

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こうなって、

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こう

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ね、簡単でしょう?

今回カカオ豆の違いによる味の変化を検証するためのワークショップで行った施策は以下です。

・参加者(6人)を均等に2つのグループに分ける
・2グループは各々産地の異なるカカオ豆を使ってチョコレートを2回作る
・カカオ豆はそれぞれニカラグアとアルワコ(コロンビア)産を使用
・カカオニブ100gに対し砂糖は40g (カカオ70%)
・1度目はカカオニブ100gをある程度メランジングした後で砂糖を追加し更に滑らかになるようにメランジングする
・2度目はカカオニブ80gと砂糖40gを同時にメランジングしある程度滑らかにした後、カカオニブ20gを追加しカカオニブの食感が残るようににメランジングする
・メランジングしたら型に入れて冷やし、固まったら取り出す

型から取り出した後で参加者は4種類の味と食感の異なるチョコレートを食べ、違いを体験しました。

参加者による食べた後の定性的評価は以下です。

・ニカラグアがナッツのような香りがする一方でアルワコは果実のような酸味が強いといったカカオ豆の違いによる味の違いをはっきりと感じられた
・1度目に作成したチョコレートでも市販のものに加えてざらつきがある

また、4種類のチョコレートの中で一番好きなものを選ぶという評価では、1度目のニカラグア、2度目のニカラグア、1度目のアルワコ、2度目のアルワコに対してそれぞれ、1票、2票、2票、1票という評価でした。

私個人の感想としては果実のような酸味がするものではなくナッツのような香りのするニカラグアを好み、食感も滑らかなものよりもザクザクする2度目のカカオニブの粗さを残したものを好むことがわかりました。

これを確かめるため自宅で更にカカオ豆の異なるチョコレートを作ります。

自宅でのチョコレート作り

カカオ豆による好みを検証し、自分に最適化したチョコレートを作るために更に別の産地のカカオ豆を使ってチョコレートを作成します。

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※ 非常に見にくいですが、左がDari K、右がDANDELIONのものです。
カカオ豆の産地はDari Kがインドネシア産、DANDELIONがベリーズ産です。

自宅での作業の差分としてはMinimalのワークショップで実施しなかった焙煎とテンパリングを行いました。

これらの豆を(多分)コンベクションオーブンを使って130℃で40分焙煎して

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中のカカオニブを取り出します(この工程が一番時間がかかりました)。一番右はきび砂糖でDANDELIONのキットについてきたものです。自宅でのチョコレート作りはカカオ豆の違い以外の条件を揃えるため、焙煎温度と時間、用いる砂糖(きび砂糖)とカカオ濃度(70%)を同条件にして作成します。

次にカカオニブをMinimalでも使用したNewよめっこさんを使ってメランジングします。

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これで、

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こうします。時間は大体6分程度で滑らかになります。

次にテンパリング

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テンパリングは50℃->27℃->32℃という変化で湯煎しました。そして型にはめて冷やして完成です。

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Left:DANDELION
Center:Dari-K
Right: Minimal

評価

4種類のチョコレートに対する主観評価は以下です。

DANDELION(ベリーズ):果実のような酸味が強く口の中に残るので食べるのがつらい(口に合わない)。
Dari-K(インドネシア):最初はナッツ感が強いが溶けてくると果実のような酸味を感じる
Minimal(ニカラグア):ナッツのような味わいを感じる。酸味はそれほど
Minimal(アルワコ):果実のような風味を感じるがインドネシア産のDANDELIONほど酸味を感じない。爽やかな味わい。

今回の検証でわかった自分の好みは

香りの好み
フルーツのような香りはどうしても酸味を多少なりとも感じるため、自分にとってはどちらかと言えばナッツのような香りを好むことがわかりました。ただ、今回の比較検証があくまでナッツのような香りと果実のような香りという条件だったため、それ以外については考慮されていません。そのため、他にもよりよい香りの好みがある可能性が残されているので引き続き検証していきたいです。

食感の好み
なめらかでとろけるような食感よりもザクザクとザクザクと噛みごたえのあるような食感を好んでいることが過去の経験からもわかってきたので今後は更に快を生み出す食感を検証していきたいです。

今後

今回一通りチョコレート作りについて作業を進めたが今後は以下の壁をなんとかしていきたいです。

カカオ豆の壁
検証するカカオ豆の種類を増やしていきたいと考えています。Minimalに聞いたところ立花商店というところで仕入れられるとのことでした。10種類以上のカカオ豆が販売されているのですが、10kgごと。

テンパリングの壁
テンパリングをやってみたものの正直できているかどうかが不明です。早急に解決したい。テンパリングを行うことによってチョコレートにとって最も望ましい特性をもたらすV型結晶を形成することができます。ただ、これには多大な労力と人の手によることで一貫性を保持できず、チョコレートの低下につながっています。しかし、今年の9月少量のリン脂肪分子をチョコレートと混合させることで、テンパリングを行わずにV型結晶を形成されることを明らかにしたnature communicationsの論文[1]が発表されました。これによりテンパリングの工程による結晶化への依存を減らせる可能性があります。

コンチングの壁
今回、カカオニブからメランジングを行いカカオマスを作りチョコレートにしていく過程を踏みましたが、製品化されているチョコレートではメランジングに加えてコンチングという作業を行い、チョコレートをなめらかにしていきます。これにより口あたりのよいきめ細かいチョコレートになる(らしい)。コンチングに当てる時間はそれぞれあるらしいですが半日以上〜70時間と書いてあったりします。コンチングするにはそれ用の機材が必要なので導入を検討しようと思っています。この機材がクラフトチョコと製品チョコの大きな違いだと感じています。ザクザクした食感は好きですが、今回作成したチョコレートはどちらかというザラついた食感のためコンチングを実施して制御したいと考えています。

評価軸の壁
今回はカカオの風味(香り)と食感だけを評価として検証していましたが、本来チョコレートの評価はもっと多面的なものです。そのため、今後は評価軸を増やして自分に最適なチョコレートを探求していきたいと考えています。Minimalの担当者さんに聞いたところ、チョコレートにはワインのような業界で認知されている評価指標はまだ定まっていないということでした(Minimalは独自に評価指標を立てて製品や実験の検証を行なっている)。これに関して検討したいと考えていて、最近よく聞くMixed Methodみたいな方法が使えたらいいのになと思案しています。Mixed Methodは質的データと量的データの両方を収集し、統合させることによってデータに対する解釈を導き出す方法です。Mixed Methodはユーザ実験の分野のみならず今年開催されたKDD[2]でもTutorialが実施されSpotifyなどの事例が紹介されました。

謝辞

今回壁 Advent Calendar 2021で既に抑えていた枠を私に譲っていただいた醸燻酒類研究所keihiguさんに感謝いたします。ビガッ


今回検証に活用させていただいたお店
Minimal
DANDELION
Dari K

[1] Tempering of cocoa butter and chocolate using minor lipidic components, Jay Chen, Saeed M. Ghazani, Jarvis A. Stobbs & Alejandro G. Marangoni, Nature Communications

[2] Mixed Method Development of Evaluation Metrics, KDD 2021 Tutorial

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