【六枚落ちマニュアル】第3部第1章第5節 飛車を成る場所
◆本節では、飛車を成る場所について考えます。
中盤戦における一つの目標は「上手陣を破って駒を成りこむ」ことです。駒を成ることでパワーアップしますから、戦いを有利に進めやすくなります。その際、成るマスが複数ある時に「どのマスに成るのが良いか」を整理します。
成るマスが複数になるのは特に「飛車と香」です。よって本節で飛車をどのマスになればよいかを解説し、香については次項で解説します。
飛車を成る際に考えるポイントは以下の3つです。
1,相手玉と同じ段
2,相手の要の守り駒を狙いやすい
3,他の駒と連携して攻めやすい
この3つのポイントについては、各ケースで解説します。
◆ケース1 9筋攻めステップ2
まずは9筋攻めステップ2からです。42図は上手が△6二銀と上がった局面です。下手は飛車を成りこめるマスが「9一」「9二」「9三」の3つあります。ここでは▲9二飛成(43図)がベストです。
まず銀取りですし、銀の奥に玉がいるため、上手は銀を逃げることができません。これは「金縛り」という状態です。
43図では、上手は△5二金で銀を助ける手が自然です。これでまた下手の手番になりますから、下手が自由に手を決めることができます。
次に▲9一飛成(A図)はどうか。
この手のメリットは△4一金に狙いをつけているところです。A図で上手が△3三玉と上がれば▲4一竜と金を取ってしまうので、上手の手に制約を課すことができるのです。しかしこの局面で上手は割と自由に指し手を決められるので、▲9二飛成には劣ります。
そして▲9三飛成(B図)はどうか。
この手のメリットは、成香と連携して次の下手の手番で▲7三成香と攻めることができる点です。しかしやはりこの局面で上手は自由に指し手を決められるので、▲9二飛成には劣ります。
以上、42図では▲9二飛成がベストでした。
◆ケース2 スズメ刺しステップ2
続いてスズメ刺し定跡ステップ2からです。
76図は上手が△5三玉と上がった局面です。この局面も下手は「1一」「1二」「1三」の3か所に飛車を成ることができます。今回もやはり▲1二飛成(77図)がベストです。
金取りなので上手の指し手を限定していますし、その後も▲2一成香と連携して攻めることができそうです。では▲1三飛成(C図)はどうか。
飛車を成れたこと自体はプラスです。メリットとしては上手玉と同じ段になったことですが、この場合は△2三歩△3三銀△4三歩と遮る駒が多く、玉と同じ段になったメリットがほぼありません。また▲1三竜は成香とも離れているマイナスもあり、ベストの手ではありません。
次に▲1一飛成(D図)はどうか。
指導対局ではこう指されることも多いです。これで次の下手の手番で▲3一成香の攻めを狙います。この▲1一飛成、▲1三飛成と比べれば成香との連携が良いのですが、一つ覚えて欲しい上手の受けがあります。D図で上手が△4四歩(E図)と突いてみます。
では、下手は狙いの▲3一成香(F図)を指します。
この▲3一成香は数の攻めです。上手が△同金と取ってくれれば▲同竜で成功です。またF図で△4二金と逃げるならまずは成香が一歩前進です。
しかし、ここで上手は△2二銀!(G図)と引くのが受けの好手です。
G図の△2二銀は竜と成香の両取りです。受けというより下手の攻め駒を積極的に狙う手ですね。下手は竜を取られるとまずいので竜を逃げますが、どこに逃げても△3一金と成香を取られて失敗です。
この△2二銀はかなり強い人でもうっかりしやすいので、初めて見た方はぜひ覚えてもらえたら幸いです。
以上、▲1一飛成も良い手とは言えず、76図では二段目に成る▲1二飛成がベストでした。
◆ケース3 棒銀定跡ステップ2
最後に棒銀定跡からです。
53図は上手が△5二金と逃げた局面です。
下手は「2一」「2二」「2三」の3か所に飛車を成ることができます。本マニュアルでは▲2三飛成(54図)をベストとしました。
これは「玉と同じ段」に成るので玉を狙いやすいこと、そしてここからの三手一組の高度な攻め方があるからです。第2部でも解説した手順をここでもおさらいします。上手は△7六歩(55図)と歩を取り込みます。
さて、ここです。正解はと金を取られても攻める▲4三と(56図)です。
上手はもちろん△同金(57図)と取ります。
そして。ここで▲4四銀!(58図)が好手です。
この▲4四銀は「金縛り」の応用技です。下手の竜と角の利きが強く、上手は△同金、△同玉のいずれも指せないことを確認してください。上手は玉を逃げるしかありませんが、そこで▲4三銀成と金をただで取れるので下手成功です。
この▲4三とから▲4四銀の攻めはややレベルが高いので、まずはこうした攻め方があると知ってもらえたら十分です。
では次に▲2二飛成(H図)を考えます。
この▲2二飛成も良い手です。と金を協力して4二のマスを狙っています。ただし、ここからの攻めは少し工夫が必要です。
ここでも上手は△7六歩(I図)と取りこみます。
下手は▲4二銀(J図)と攻めます。
この▲4二銀は数の攻めです。△同金なら▲同竜でなんと詰みです。よって上手は△6二玉(K図)と逃げます。
下手は4二のマスの戦いには勝ちましたが、竜の利きを味方の銀で止めてしまう形になりました。しかしここで▲4一銀不成(L図)が継続のうまい攻めです。
これで上手の△5二金を狙います。ここまでの手順が指せれば、▲2二飛成も良い手です。最後に▲2一飛成(M図)を考えます。
この▲2一飛成は、次の目標とする駒が一段目にありませんし、と金との連携も難しそうです。
よってこのケースでは▲2三飛成がベストです。
本節は以上です。飛車を成る時の参考にしてもらえたら幸いです。
次回は「第6節 香を成る場所」です。