【六枚落ちマニュアル】第2部第1章第13節 スズメ刺し定跡 ステップ4-4

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◆本節ではスズメ刺し定跡 4-4を解説します。今回は「受け」がテーマです。

前回はこの△5五銀の局面における下手のさまざまな攻め方を解説しました。本節では本手順である▲1二歩(134図)を解説します。

この▲1二歩は、次に▲1一歩成と成る手を狙っています。通常、1一にと金を作っても隅っこなので使いにくく、あまり良い狙いとは言えません。しかし、上手の守備力が高く、そうも言っていられないのです。
▲1二歩に対して、上手は△1三歩(135図)と受けるのが本手順です。

ただしこの本手順を解説する前に、▲1二歩の狙いを確認するため、△1三歩に代えて△4四歩(参考112図)と突いたらどうなるかを解説します。

上手が1筋を受けなければ、下手はもちろん▲1一歩成(参考113図)と成ります。

上手は△同銀(参考114図)と取ります。

下手は▲同香成(参考115図)と取ります。

これなら、1一のマスは攻め駒2枚対守り駒1枚で数の攻めが成功しますし、そもそも参考115図の時点で銀と歩の交換ができて駒得ですから下手成功です。
 
135図に戻ります。

△1三歩と打たれたら、下手はもちろん▲同香成(136図)と取ります。

上手は△同銀(137図)と取ります。

下手は▲同角成(138図)と取ります。

これで下手は1三のマスの戦いに勝つことができました。
 
上手は△5六歩(139図)と「垂れ歩」で反撃に出ます。

本節では、この139図を題材として「受け」を考えてみたいと思います。
相手の攻めを受ける際にまず大事なのが「相手の狙いを知ること」です。相手の狙いが分かって初めて、正しい受けを考えられるようになります。
139図の△5六歩と垂らした上手の狙いは2つあります。その狙いを知るために、下手が▲3六歩(参考116図)とゆっくり桂の活用を目指す手を指した局面を考えます。

上手の狙い、一つ目。
△5六歩と打った形を生かして△5七香(参考117図)と打つ手です。

こうした「自分の歩の利いているマスに駒を打つ手」を「打ち込む」と表現します。(俗な言い方だと「ぶちこむ」とは「ぶっこむ」とも言います笑)ただし、この局面では怖い攻めではなく▲5八歩(参考118図)と受ければ大丈夫です。

ここで上手が△同香成なら▲同金右で大丈夫です。
参考116図に戻ります。

上手の狙い、二つ目。
ここで△5七歩成(参考119図)と成る手があります。

下手玉の真上にと金を作るので、下手にとって非常に怖い手です。しかし、このと金、下手は▲同馬(参考120図)と取ることができます。

強力な攻め駒である「と金」を取ったのですが、これも上手の予定通りでした。ここで△5六香!(参考121図)が厳しい一手です。

この△5六香は単に馬取りというだけでなく、
その奥にいる玉を狙っています。そのため、下手は馬を逃げると玉を取られてしまうため、まるで金縛りにあったかのように動けないのです。
(この状態を私は「金縛り」と呼んでいます→金縛りを学びたい方は金縛りマニュアルをどうぞ)。参考121図では下手が▲同馬と香を取っても△同銀で馬を取られるので下手が失敗です。
 
139図に戻ります。

以上、△5六歩と垂らした手の狙いは「△5七香」「△5七歩成(▲同馬なら△5六香)」という二つがあることを解説しました。特に後者の受けが大事です。
ではあらためて、ここでの受けの選択肢を順に解説します。
1)▲5八金右
2)▲4八銀
3)▲6八玉
4)▲5八歩(推奨)
 

まずは1)▲5八金右から。
この手は、重要なマスである「5七」を守った手です。
しかし、これには△5七香(参考123図)と打つ手があります。

この香が金と、奥にいる玉を狙って厳しい攻めになります。これも5八の金が動けず「金縛り」です。参考123図では、下手がどう応じても金か馬のどちらかを取られてしまいますので、下手失敗です。
これは皮肉なことに、▲5八金右と守りに参加するために近づいた駒が「逆に狙われてしまう」例なのです。

このケースのように、将棋では「発想としては悪くないのに、結果的に損をしてしまう」ということがよくあります。もしこのような手を実戦で指した場合、金で5七を守るという「発想自体はとても良い」のでそこは自信を持っていただき、その上で修正案を探すようにしてもらえたらと思います。

なお、もし金で受けるなら▲5八金右に代えて▲4八金(参考124図)の方が良いです。

この▲4八金がベストというわけではありませんが、こうした受けの形もあります

これなら、△5七香に▲5八歩と受けて大丈夫です。

次に2)▲4八銀(参考125図)を考えます。これも5七のマスを守る自然な手です。ここで△5七香の攻めには▲5八歩で大丈夫。
しかしやはり△5七歩成(参考126図)という攻めがあります。

下手は▲同銀(参考127図)と取ります。

上手はやはり△5六香(参考128図)と打ちます。

この手順も下手の銀が「金縛り」で動けず、次の上手の手番で必ず取られてしまいます。銀と香の交換なので、致命的な損とは言えませんが、他の受けを探したいところです。

続いて3)▲6八玉(参考129図)です。
これは玉自ら5七のマスを守りつつ、次に▲7九玉と狙われている5筋から遠ざかる狙いもある手です。
▲6八玉に対して△5七香はあまり意味がないので、上手は△5七歩成(参考130図)と攻めます。

下手は▲同馬(参考131図)と取ります。

上手は△5六香(参考132図)と攻めますが…

下手の玉が5九にいた時は、この△5六香は馬と玉を狙って厳しい攻めでした。しかしこの局面で狙われているのは馬だけですから、▲3五馬(参考133図)と逃げることができます。

これなら下手の受けが成功しています。
本マニュアルでは別の手を本手順としますが、この3)▲6八玉も好手です。
139図に戻ります。

ここまで、いろいろな手を解説しました。では本手順の4)▲5八歩(140図)に進みます。

これがもっとも確実な受けです。上手が四段目(この場合、盤面の符号としては「六段目」です)に歩を進めたり垂らしたりした場合、このように歩を受けるのが確実です。この▲5八歩を打つと「そのマスに他の駒が進めなくなる」「その筋に歩を打つと二歩になってしまうので攻めが制限される」などマイナスもあるのですが、四段目に歩を打たれて迷った時は▲5八歩のように2マス先に歩を受ける手がおススメです。
 
ステップ4-4は以上です。
次回は「ステップ4-5」です。 


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