【六枚落ちマニュアル】第2部第3章第3節 棒銀定跡 ステップ1

◆本節では、棒銀定跡ステップ1を解説します。

攻め駒を赤、攻めるマスを青で表示しました

ではあらためて、この六枚落ちの棒銀の攻め方を確認します。棒銀は通常2筋を狙う作戦ですが、今回の場合は2筋の守りが堅いため、1筋を狙います。攻める駒は「歩+銀+香」です。(この順番はちゃんと意味があります)
そして、まずは「1四」のマスを破り、次に「1三」のマスを破ります。
というわけで、下手は▲1四歩(25図)で攻撃開始です。

上手は△同歩(26図)と取ります。

そして、この局面が重要です。次の3つの選択肢があります。
1)▲同銀(本手順)
2)▲同香(これは失敗)
3)▲1三歩(高橋流の手筋)

この局面では▲同銀(27図)と銀で歩を取る手が自然であり、本手順として解説します。

通常「数の攻め」は「弱い駒から順に攻める」のが基本ですが、今回の場合は香よりも先に銀で攻めます。その理由は、▲同銀に代えて2)▲同香(参考1図)を解説すれば分かりますので、こちらを先に解説します。

この▲1四同香で「1四のマス」の戦いに勝つことができました。しかし、上手に△1三歩(参考2図)と打たれた時に困ります。

ここで1三のマスの戦いになります。攻めている駒は▲1四香だけ、守りの駒は上手の△2二銀がいますので「1対1」です。(1三のマスの戦いには、△1三歩は参加していません)参考2図では▲同香成(参考3図)と取るしかありません。

上手はもちろん△同銀(参考4図)と取ります。

1三のマスの戦いは上手が勝ち、下手は香を取られてしまいました。よって下手の攻めが失敗です。失敗した理由は、▲2五銀が1筋攻めの役に立っていないからです。

この1筋攻めは、最初に「1四」を破り、次に「1三」を破る必要があります。▲2五銀は1四のマスの戦いには役立ちましたが、次の1三」のマスの戦いには参加できなかったのです。

よって、▲同香に代えて▲同銀(再掲27図)と取ることで、1三のマスの戦いを「2対1」で勝てるようにするのです。

では27図からの解説を…の前に、3)▲1三歩(参考5図)を先に解説します。

この▲1三歩は工夫の一手です。前述した高橋九段の本で解説されています。この手も良い手であり、本手順にするかどうか迷ったのですが、▲1四同銀と取る手の方が他の棒銀でも応用しやすいと考え、こちらを本手順としました。

この▲1三歩は、次に▲1二歩成を狙った「垂れ歩」です。ただし、通常の垂れ歩と違うところは、△同銀(参考6図)と取られてしまうことです。

もちろん、下手は△同銀と取られることは予定通りです。こうして歩を犠牲にすることで、上手の銀を1三におびきだし、▲1四香(参考7図)と攻めるのが真の狙いです。

先ほどは、この▲1四香の攻めでは失敗しました。しかし今回は銀をおびきだしているので、上手は△1三歩と受けることができません。
参考7図、上手は△同銀と香を取っても▲同銀と取り返されるので、△2二銀(参考8図)と引きます。

参考8図は見たことがありませんか? そう、下手が▲1四歩△同歩に▲同香と取った参考1図と似ているのです! 
参考1図と参考8図の違いは以下の通りです。
1)下手の持ち駒の歩の数が、参考1図は2枚、参考8図は1枚
2)手番は、参考1図が上手の手番、参考8図が下手の手番

つまり、下手は▲1三歩と垂らして△同銀と取らせることにより、「一歩を犠牲にして、手番を得た」のです。
これは将棋用語で「一手と一歩の交換」と言います。一歩よりも一手多く指せることの方が価値が高い局面が多いので、この考え方は重要です。
参考8図、下手は▲1二香成(参考9図)と攻めます。

これで下手は1筋を突破することができました。
まだ先は長いのですが、この手順の解説はここまでとします。興味がある方は、ぜひこの攻め方も試してもらえたらと思います。

では▲1四同銀と取った27図に戻ります。

今、下手は銀と香で1三のマスを狙っています。
ここで上手は△1三歩と受けるのが本手順ですが、受けずに△6四銀(ステップ2基本図)と上がる手もあります。

ステップ2はここからの手順を解説します。
では、△6四銀に代えて△1三歩(28図)の方を解説します。

この△1三歩は銀取りです。
しかし、1三のマスは「攻め駒2枚対守り駒1枚」ですから、恐れずに▲同銀成(29図)と攻めます。

上手は△同銀(30図)と取ります。

下手はもちろん▲同香成(31図)と取り返します。

これで下手は1三のマスの戦いに勝ち、1筋を突破することができました!

上手は△6四銀(32図)と上がります。

この△6四銀は、次に△7五歩と攻める手、あるいは△5五歩と角道を止める手を狙っています。下手は1筋を破ったので、今度は2筋を狙い▲2三成香(33図)と攻めます。

ここにきてようやく、飛車が攻めに働きます。そうなんです、この棒銀定跡では、飛車は1筋の攻めに参加せず、こうして2筋を攻める時点ではじめて攻めに参加するのです。

上手は△同金(34図)と取ります。

下手はもちろん▲同飛成(35図)と取ります。

これで下手の攻めが大成功です。
1筋、そして2筋を順番に破ることができました。

上手は△7五歩(36図)と突きます。

この△7五歩は上手待望の反撃です。
下手から見れば「歩と歩がぶつかった局面」なので、▲同歩と取るのが自然です。しかしこの局面は下手の攻めの方が速いので、取らずに▲3三角成(37図)と攻めます。

この▲3三角成で、下手は竜に続いて馬を作ることができました。しかも王手です。上手は△5二玉(38図)と逃げます。
※△5三玉と逃げる手をのちに解説します。

下手の好調な攻めが続いています。
そして実はこの局面、正しく指せば上手玉を詰ますことができます。
正解は▲3二竜(39図)です。

こうして2段目の竜の利きで、上手玉を6二に逃がさないのが急所です。
しかも4二のマスに馬も利いているので、上手は4二に合駒をしても▲同竜と取られてしまいます。よって上手は△6一玉(40図)と逃げます。
※△6一玉に代えて△5三玉と逃げる手は後述します。

さて、ここが大事な局面です。
下手は金を持っていますので、多くの方は▲6二金をまず考えると思います。頭金は詰みの基本です。しかし、この局面は△6三金がいますので、▲6二金は△同金と取られて失敗です。
そこで工夫をして▲7二金(41図)と打ちます。

これで見事に上手玉を詰ますことができました!

最後に、上手が他の逃げ方をした場合の詰まし方を書考えます。まずは▲3二竜と王手をした局面で△5三玉(参考10図)と逃げた場合です。

この場合は▲4三馬(参考11図)が好手で詰みです。

直前に▲3二竜と指した手が生きています。

何気ないようで、竜を動かさずに馬で王手をかけるのが重要です。竜は二段目でにらみを利かし、6二に逃げられないようにするのが良いのです。
(なお、▲4三馬に代えて▲4二竜や▲5二金でも詰みです)

それからもう一つ、少し前に戻り、38手目に▲3三角成としたところで△5二玉に代えて△5三玉(参考12図)を考えます。

ここでは▲4三馬と自然に攻める手も良い手です。ただし△6二玉と逃げられて勝つまでに時間がかかります。
参考12図では▲5二金!(参考13図)が好手です。

上手は△同玉(参考14図)と取るしかありません。

この局面、どこかで見たことがありませんか?
…そうです。▲3三角成と王手をかけた時に△5二玉と逃げた38図にそっくりなのです! 

この場合、5三よりも5二の方が危険なマスなので、下手は金を取らせる代わりに玉を危険な5二におびきだしたのです。このような捨て駒の手筋を「呼び出し」と上野が名付けました。
そして、ここからは38図からの手順と同じく▲3二竜(参考15図)と攻めます。

上手は△6一玉(参考16図)と逃げます。

下手は、今回は金を捨ててしまったので持っていませんが、まだ銀を持っていますので▲7二銀(参考17図)で詰ますことができました。

7二に打つ駒は、実は金と銀どちらでも良かったのです。
以上、ステップ1でした。

次回は「棒銀定跡 ステップ2-1」です。(4月7日公開予定)


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