【六枚落ちマニュアル】第2部第2章第9節 9筋攻め定跡 ステップ3-1

◆本節では、9筋攻め、ステップ3―1を解説します。

44図は、例の「▲8四角切り」から下手が飛車を成りこみ、上手が△5二金と受けた局面です。ステップ2では、ここから▲7五歩の「突き捨ての歩」から攻める順を解説しました。しかし、この手順は上手に馬を作られてしまうので、少し形や手順が違えば、勝つのは大変です。
そこで、このステップ3では、「上手に馬を作らせずに勝つ」をテーマとして考えてみます。これは上野が指導対局で指された将棋をもとに、考えた指し方です。よってまだ改良の余地がありますので、手順をただ覚えるのではなく、指し手の意味を知ることを心がけて読んでもらえたら幸いです。 

ではあらためて44図を。
この局面は下手の手番です。しかし、まずは上手の狙いとその受け方を知るためにあえて「もし上手の手番ならどう攻めてくるか」という視点で考えてみます。もちろん、下手は馬を作らないように受けることが大事です。
1)△5四角
2)△4五角
3)△6五角
4)△5七角
5)△7五歩

では1)△5四角(仮想1図)から。

この△5四角という手自体はステップ2でも解説しました。しかし、結論から言えばこの局面での△5四角では馬を作ることはできません。
理由は、下手に▲7六歩がいるので、上手の狙いは△2七角成と△7六角の2つになるからです。仮想1図では△2七角成を受けることを優先した▲3八金(仮想2図)でまずは角成を防ぐことができます。

これで下手は△2七角成と成られても▲同金と取り返せるようになりました。よって上手はもう一つの狙いである△7六角(仮想3図)と指します。

この△7六角の狙いは「△6七角成」と「△8七角成」の2つです。よってその両方を受ける▲7八金(仮想4図)が良い手です。

▲7八金に代えて▲7八銀も良い手です

こうなれば、上手は馬を作ることができません。やはり「馬」と「角」は性能がかなり違うので、角のままなら下手が戦いやすいです。仮想4図では、次の下手の手番で▲7三歩の垂れ歩を狙うこともできます。
続いて2)△4五角(仮想5図)を考えます。

この△4五角の狙いは「△2七角成」と「△5六角」です。これも角を成れるのは△2七角成のみですので、受けやすいです。
 よって、今回もまず△2七角成を受ける▲3八金(仮想6図)が良い手です。

▲3八金に代えて▲3八銀も良い手です

上手は△2七角成を防がれたので△5六角(仮想7図)と指します。

下手は歩を取られてしまいましたが、馬を作られることに比べれば小さな損です。そして上手の次の狙いは△6七角成のみですから、▲7八金(仮想8図)と受ければ大丈夫です。

▲7八金に代えて▲7八銀や▲5八玉等でもOKです

こうなれば上手は馬を作ることができません。
仮想8図以下、下手はすぐに攻めずに▲5八玉や▲4八銀などで陣形を整えてから攻めるのが良いでしょう。
次に3)△6五角(仮想9図)を考えます。

この△6五角の狙いは「△5六角」と「△7六角」です。いずれもすぐに馬を作ることはできませんから、それほど怖くありません。下手は▲5八玉(仮想10図)と備えておきます。

▲5八玉に代えて▲7八金などでもOKです

この▲5八玉は「4七」と「6七」をあらかじめ守っています。よって、ここで上手には△5六角と△7六角の2つの手がありますので順番に解説します。まず△5六角(仮想11図)は次の狙いがありません。

こうなれば、▲5八玉の一手が役立っており、やはり上手は馬を作ることができません。
そこで上手は△5六角に代えて△7六角(仮想12図)とこちらの歩を取ります。

この△7六角なら、次に△8七角成を狙っています。しかし下手は▲7八金(仮想13図)と受けます。

▲7八金に代えて▲7八銀等でもOKです

この▲7八金で下手は△8七角成も防ぐことができました。上手は仕方なく△5四角(仮想14図)と引きます。

この△5四角の狙いは△2七角成です。よって下手は▲3八金(仮想15図)と受けます。

▲3八金に代えて▲3八銀も良い手です

これで上手の一通りの狙いを受けることができました。
次に、今までの考え方とは全く違う4)△5七角(仮想16図)を考えます。

ここで確認しましょう。駒は、基本的に相手陣(一段目から三段目)に進めば成ることができます。そしてこの△5七角のように、相手陣に「打った」駒は、次に動かす時に成ることができます。打った時点で、次の手番で成る権利を持っているイメージです。
さて、この△5七角の狙いは「△3五角成(あるいは△2四角成)」です。ということは、この方向の利きを止めればよく、▲4六金(仮想17図)が正しい受けです。

上手は△3五角成を防がれてしまいました。それならと、逆方向に馬を作ることを目指して△7五歩(仮想18図)と突きます。

ここは注意が必要です。下手はこの△7五歩を素直に▲同歩(仮想19図)と取ると…

上手はもちろん△同角成(仮想20図)で成功です。

下手はせっかく持ち駒の金まで打って角の捕獲を目指したのに、馬を作られてしまいました。
では△7五歩と突かれた仮想18図に戻ります。

ここでは素直に▲同歩と取らずに▲6八銀(仮想21図)と角を捕獲するのが良いです。

▲6八銀に代えて▲4八銀や▲5八玉等でもOKです

角の捕獲に成功して、下手良しです。
では、最後にもっとも手ごわい5)△7五歩(仮想22図)を考えます。

上手の狙いを知るために、まずは▲同歩(仮想23図)と素直に取ってみます。

ここで、上手には2つの狙いがあります。
「△5四角」と「△5七角」です。まずは△5四角(仮想24図)から。

繰り返し登場している△5四角です。△7五歩と突いて▲同歩と取らせて下手の歩を移動させたことで、△2七角成と△8七角成の両方を狙うことができます。下手はこの2つの手をいっぺんに受けることはできず、上手に必ず馬を作られてしまいます。
続いてもう一つの狙いである△5七角(仮想25図)を見てみましょう。

これも「△7五歩と突いて▲同歩と取らせる」工夫をしてから△5七角と打つことで、次に△3五角成だけではなく△7五角成も狙っています。よってこれも上手は必ず馬を作ることができるので下手失敗です。
では、△7五歩と突かれた仮想22図に戻ります。

先ほどは▲同歩と取ったために、△5四角や△5七角と打たれてしまいました。よってここでは▲同歩と取らずに▲7八金(仮想26図)と備える手が推奨です。

上手はもちろん△7六歩(仮想27図)と取ります。

これで7五のマスが空いたので、次に上手は△5七角と打つ狙いがあります。そこで下手は▲5八玉(仮想28図)と備えます。

これで下手は5七のマスも守り、とりあえず安心です。このあとは、さらに▲3八金や▲4八銀と備えてから攻めるとよいでしょう。
 
以上、1)から5)までを一通り解説しました。44図に戻ります。

この44図で「仮に上手の手番ならどう攻めてくるか」という前提で、上手のいろいろな攻め方、それに対する下手の受け方を解説しました。おもに「2七」「5七」「8七」の3つのマスを守ることがポイントです。
これらを踏まえて、44図で▲5八玉と指したステップ3基本図に進みます。

これまでの解説で分かる通り、この▲5八玉は、△5七角という手にあらかじめ備えた手です。 
以上、ステップ3-1でした。
次回は「9筋攻め定跡 ステップ3-2」です。

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