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トルストイ 愛あるところに神あり

 トルストイと言えばロシアの大文豪。『戦争と平和』『アンナ・カレーニナ』などたくさんの方々に読まれていると思います。
 しかし私がおすすめしたいのはトルストイの民話です。
 トルストイの『愛あるところに神あり』です。とても平易な語り口で書かれています。
 靴職人の老人はある夜「明日、お前に会いに行くから待っておいで」という神の声をききます。翌朝もその声が夢だったのか本当だったのかが気になります。靴職人は仕事にとりかかりながらも窓のほうばかりをのぞいていました。
 その日靴職人は雪かきする老人をお茶に招き入れてねぎらいました。また、寒い中粗末な上着で赤ん坊を抱きうずくまる女性に食事をさせて温かい外套を手渡しました。そしてまた、りんご売りの老婆からりんごを奪おうとする男の子を見かけて仲裁に走りました。
そうしてその日も暮れていきました。すると部屋の隅に何かが立っています。そして昨晩の声が再びささやきかけます。

 果たして神は現れたのでしょうか。

『愛あるところに神あり』という表題通りの民話に心が温まります。

 トルストイは、自身が一体何者で何のために生きているのかを長いこと探し求め、「自然科学から哲学まで、人間が獲得したあらゆる学問の中から、その疑問に対する説明を探した。それでもなんにもみつからなかった」と言い自殺を考えたと言います。そして「何十回何百回と、喜びと生気、それにつづく絶望と生存不可能の意識を繰り返して」その解答が、「無学で貧しい、素朴な、額に汗して働く、農民や労働者の信仰の中にこそあると悟」ったと言います。この「神への信仰」によって光を取り戻したトルストイは『戦争と平和』『アンナ・カレーニア』などの大作を否定し、これからは「民衆とともに生き、人生のために有益な、しかも一般の民衆に理解されるものを、民衆自身の言葉で、民衆自身の表現で、単純に、簡素に、わかり易く」書くことを決意し、このような民話を数多くのこしたと言います。

 トルストイの民話。
たくさんの人に読んでいただきたいです。そして隣人に愛を持って接して欲しいです。


トルストイの散歩道 5   『愛あるところ神あり』 あすなろ書房

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