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第3章 主な医薬品とその作用2

胃腸に作用する薬

▢ 1.制酸成分
制酸成分は、中和反応によって胃酸の働きを弱めます。
制酸薬には、次のような成分が配合されています。
(1)炭酸水素ナトリウム(重曹)、(2)アルミニウム(乾燥水酸化アルミニウムゲル等、(3)マグネシウム(ケイ酸マグネシウム等)、(4)アルミニウムとマグネシウム(合成ヒドロタルサイト等)、(5)カルシウム(沈降炭酸カルシウム等)、(6)生薬成分(ボレイ(カキの貝殻))
 
▢ 2.制酸成分の使用上の注意
アルミニウムを含む成分は、透析治療を受けている人では使用を避けます。
透析治療を受けている人がアルミニウムを含む成分を長期間使用した場合に、アルミニウム脳症、アルミニウム骨症を引き起こしたとの報告があります。また、腎臓病の診断を受けた人は、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム等が貯留しやすいので、使用の適否を考慮します。
 
▢ 3.健胃成分
健胃成分は、味覚や嗅覚を刺激して唾液や胃液の分泌を促し、弱った胃の働きを高めます。
健胃薬には、次のような生薬成分が配合されています。
(1)苦味健胃作用、オウバク、オウレン、センブリ、ゲンチアナ、リュウタン、ユウタン
(2)芳香性健胃作用、ケイヒ、コウボク、ショウキョウ、チョウジ、チンピ、ソウジュツ、ビャクジュッ、ウイキョゥ、オウゴン
(3)その他 乾燥酵母、胃腸の働きに必要な栄養素の補給
塩化カルニチン、胃液分泌促進、胃の運動を高める、胃壁の循環血流を増す
 
▢ 4.健胃成分についての注意事項
生薬成分が配合された健胃薬は、散剤をオブラートで包んで使用すると効果が期待できません。
健胃薬に配合される生薬成分には独特の味や香りがあり、それらが味覚や嗅覚を刺激することによって胃液の分泌を促し、弱った胃の働きを高めます。オブラートで包むなど味や香りが遮蔽される方法で服用すると効果が期待できません。
 
▢ 5.消化成分
消化成分には、(1)炭水化物、脂質、蛋白質、繊維質等の分解酵素を補うもの、(2)利胆作用により消化を助けるものがあります。
消化薬には、次のような成分が配合されています。
(1)分解酵素を補う、ジアスターゼ、プロザイム、ニューラーゼ、リパーゼ、セルラーゼ、ビオジアスターゼ、タカジアスターゼ
(2)胆汁の分泌を促す、胆汁末、動物胆、ウルソデオキシヨール酸、デヒドロコール酸
 
▢ 6.消化成分についての注意事項
胆汁の分泌を促す胆汁末、動物胆等は、肝臓病の診断を受けた人が使用すると症状を悪化させるおそれがあります。
胆汁末、動物胆、ウルソデオキシコール酸、デヒドロコール酸には肝臓の働きを高める作用もあるが、肝臓病の診断を受けた人が使用すると症状を悪化させるおそれがあるので、使用の適否を考慮する。また、ウルソデオキシコール酸は胎児毒性の可能性があり、妊婦には使用しない。
 
▢ 7.胃粘膜保護・修復成分
胃粘膜保護・修復成分は、胃粘液の分泌を促し、胃粘膜を覆って胃液による消化から保護し、荒れた胃粘膜の修復を促す。
胃粘膜保護・修復成分として、次の成分が配合されている。
アズレンスルホン酸ナトリウム(水溶性アズレン)、アルジオキサ、スクラルファート、ゲファルナート、ソファルコン、テプレノン、塩酸セトラキサート、メチルメチオニンスルホニウムクロライドなど。
 
▢ 8.胃粘膜保護・修復成分配合成分についての注意事項
(1)アルジオキサ、スクラルファートは、アルミニウムを含むため、透析治療を受けている人は使用を避け、腎臓病の診断を受けた人は専門家に相談する。
 
▢ 9.胃粘膜保護・修復成分配合成分についての注意事項
(2)ソフアルコン、テプレノンは、まれに肝機能障害を生じることがあるため、肝臓病の診断を受けた人は専門家に相談する。
 
▢ 10.胃粘膜保護・修復成分配合成分についての注意事項
(3)塩酸セトラキサートは、体内で代謝されてトラネキサム酸を生じるため、血栓のある人、血栓を起こすおそれがある人は専門家に相談する。
 
▢ 11.胃液分泌抑制成分
胃液分泌抑制成分には、副交感神経伝達物質のアセチルコリンの働きを抑える抗コリン作用がある。
胃腸薬には、抗コリン成分として、ロートエキスや塩酸ピレンゼピンが配合される場合がある。塩酸ピレンゼピンは、排尿困難、動悸、目のかすみの副作用に注意する。まれに、重篤な副作用としてアナフィラキシー様症状を生じることがある。使用後は、乗物または機械類の運転を避ける。
 
▢ 12.その他の成分
胃の薬には、胃粘膜の炎症を和らげる抗炎症成分及び消泡成分が配合されていることがある。
(1)抗炎症成分=胃粘膜の炎症を和らげる=グリチルリチン酸ニカリウム、グリチルリチン酸ナトリウム、グリチルリチン酸モノアンモニウム、カンゾウ(生薬成分)
(2)消泡成分=消化管内容物中に発生した気泡の分離を促す=ジメチルポリシロキサン(ジメチコン)
 
▢ 13.安中散
一般用医薬品の胃薬の使用において、使用をやめると症状がぶり返す場合は、再度使用して症状を抑えるとよい。
安中散は、やせ型で腹部筋肉が弛緩する傾向にあり、胃痛または腹痛、胸やけ、げっぷ、食欲不振、吐き気を伴う人に用いる。
安中散は、やせ型で腹部筋肉が弛緩する傾向にあり、胃痛または腹痛、胸やけ、げつぷ、食欲不振、吐き気を伴う人の神経性胃炎、慢性胃炎、胃アトニーに適すとされるが、まれに重篤な副作用として、肝機能障害を生じることがある。
 
▢ 14.人参湯(にんじんとう)
人参湯(理中丸)は、手足が冷えやすく、尿量が多い人の胃腸虚弱、胃アトニー、胃痛、下痢、嘔吐に適している。
人参湯を下痢または嘔吐に用いる場合、1週間位使用しても症状の改善が認められないときは、漫然と長期の使用をせず、いったん使用を中止して専門家に相談する。
 
▢ 15.平胃散(へいいさん)
平胃散は、胃がもたれて消化不良がある人の急性、慢性胃カタル、胃アトニー、消化不良、食欲不振に適している。
平胃散を急性胃カタルに用いる場合、5~6回使用しても症状の改善が認められないときは、漫然と長期の使用をせず、いったん使用を中止して専門家に相談する。
 
▢ 16.六君子湯(りっくんしとう)
六君子湯は、胃腸が弱く、食欲がなく、みぞおちがつかえ、疲れやすく、貧血性で手足が冷えやすい人に用いる。
六君子湯は、胃腸が弱く、食欲がなく、みぞおちがつかえ、疲れやすく、貧血性で手足が冷えやすい人における胃炎、胃アトニー、胃下垂、消化不良、食欲不振、胃痛、嘔吐に適している。まれに重篤な副作用として肝機能障害を生じることがある。
 
▢ 17.腸の不調
腸内で、消化・吸収が正常に行われなかったり、腸管運動等に異常が生じると、便秘、軟便、下痢等の症状が現れる。
消化、栄養及び水分の吸収が正常に行われなかつたり、腸管から内容物を送り出す運動に異常が生じると、便秘、軟便、下痢等の症状が現れる。ただし、腸の働きは自律神経系によって制御されており、腸以外の病気等が自律神経系を介して腸の働きに異常を生じさせることもある。
 
▢ 18.整腸成分(生菌成分、生薬成分)
整腸薬には、腸内細菌のバランスを整える生菌成分、便通を整える生薬成分等が配合されている。
腸内細菌のバランスを整える生菌成分には、ビフィズス菌、アシドフィルス菌、ラクトミン、乳酸菌、酪酸菌等がある。便通を整える生薬成分には、ケツメイシ、ゲンノショウコ、アセンヤク等がある。
 
▢ 19.整腸成分(マレイン酸トリメプチン)
マレイン酸トリメブチンは、消化管の平滑筋を支配する自律神経に働き、運動を調整する作用がある。
マレイン酸トリメブチンは、消化管(胃、腸)の平滑筋を支配する自律神経に働いて消化管の運動を調整する作用がある。まれに肝機能障害を生じることがあるため、肝臓病の診断を受けた人は、使用の適否について相談する。
 
▢ 20.止潟成分(収斂成分)
収斂成分は、腸粘膜を引き締めることにより腸粘膜を保護し、炎症を鎮める。
収斂成分には、ビスマスを含む成分(次没食子酸ビスマス、次硝酸ビスマス)、タンニン酸アルブミン等がある。細菌性の下痢や食中毒のときに使用すると、症状を悪化させるおそれがある。ビスマスを含む成分は、1週間以上継続して使用しない。服用時は飲酒を避け、また妊婦には使用しない。
 
▢ 21.止潟成分(塩酸ロペラミド)
塩酸ロペラミドが配合された止潟薬は、食べ過ぎ・飲みすぎ、寝冷えによる下痢に用いられる。15歳未満の小児の適用はない。
(1)食あたり、水あたりによる下痢は対象外。 (2)2~ 3日間使用しても改善されない場合は、受診する。(3)胃腸鎮痛鎮痙薬を併用しない(腸管の運動を低下させる)。(4)成分の一部が乳汁に移行するため、授乳を避ける。(5)服用時は乗物や機械類の運転を避ける。(6)肛門疾患のある人には使用を避ける。
 
▢ 22.止瀉成分成分(腸内殺菌成分)
腸内殺菌成分は、乱れている腸内細菌のバランスを正常に近づけ、細菌感染による下痢症状を鎮める。
腸内殺菌成分には、塩化ベルベリン、タンニン酸ベルベリン、アクリノール、クレオソート等がある。ベルベリンはオウレン、オウバクにも含まれ、抗菌作用のほか抗炎症作用も併せ持つ。クレオソートには殺菌作用のほか局所麻酔作用もある。クレオソートが医薬品として使用される。
 
▢ 23.止瀉成分(吸着成分)
吸着成分は、腸管内の異常発酵等により生じた有害物質を吸着させる。
吸着成分には、炭酸カルシウム、沈降炭酸カルシウム、乳酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、天然ケイ酸アルミニウム、ヒドロキシナフトエ酸アルミニウム等がある。カオリン、薬用炭などの生薬成分も用いられる。
 
▢ 24.刺激性瀉下成分(小腸刺激性瀉下成分)
ヒマシ油は小腸刺激性瀉下成分で、誤食・誤飲等による中毒時に腸管内の物質を速やかに体外に排除させる場合等に用いる。
ヒマシ油は、主に誤食・誤飲等による中毒時に用いられるが、防虫剤や殺鼠剤等の脂溶性の物質による中毒に使用すると症状を増悪させる。また、激しい腹痛や悪心・嘔吐がある人、妊婦、3歳未満の乳幼児、授乳中の女性(乳汁中に移行し、乳児に下痢症状が起きる)は使用を避ける。
 
▢ 25.刺激性瀉下成分(大腸刺激性瀉下成分)
センナ、ダイオウ、ビサコジル、ピコスルファートナトリウム、カサントラノールは、大腸を刺激して排便を促す瀉下成分である。
大腸刺激による瀉下作用を期待して、センノシドに類似の物質を含むアロエや、ジュウヤク(ドクダミの全草)、ケンゴシ(アサガオの種子)等の生薬成分が配合されることもある。
 
▢ 26.無機塩類
酸化マグネシウムなどマグネシウムを含む成分や硫酸ナトリウムは、腸内容物の浸透圧を高めて糞便中の水分量を増し、大腸を刺激して排便を促す。
酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、硫酸マグネシウム等は、一部が腸で吸収されて尿中に排泄されるため、腎臓病の診断を受けた人では高マグネシウム血症を生じるおそれがある。硫酸ナトリウムは血液中の電解質のバランスが損なわれるため、心臓病を悪化させるおそれがある。
 
▢ 27.膨潤性瀉下成分
膨潤性瀉下成分は、腸管内で水分を吸収して腸内容物に浸透し、糞便のかさを増し、糞便を柔らかくする作用がある。
膨潤性瀉下成分には、カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウムのほか、生薬成分としてプランタゴ・オバタの種子または種皮が配合される場合がある。効果を高めるためには併せて十分な水分を摂取する。
 
▢ 28.カンゾウを含む漢方処方製剤
桂枝加芍薬湯及び大黄甘草湯は、構成生薬としてカンゾウを含む。
桂枝加芍薬湯は、腹部膨満感のある人のしぶり腹、腹痛に用いる。大黄甘草湯は便秘に適すが、虚弱な人、胃腸が弱く下痢しやすい人では、激しい腹痛を伴う下痢等の副作用が現れやすく不向きである。
 
▢ 29.ダイオウを含む漢方処方製剤
大黄甘草湯、大黄牡丹皮湯、麻子仁丸は、構成生薬としてダイオウを含む。
大黄牡丹皮湯は、比較的体力があり、下腹部痛、便秘しがちな人の月経不順、月経困難、便秘、痔疾に適すが、虚弱な人、胃腸が弱く下痢しやすい人では、激しい腹痛を伴う下痢等の副作用が現れやすく不向きである。麻子仁丸は便秘に用いるが、胃腸が弱く下痢しやすい人では、激しい腹痛を伴う下痢等の副作用が現れやすく不向きである。
 
▢ 30.専門家への相談
桂枝加芍薬湯、大黄甘草湯、大黄牡丹皮湯、麻子仁丸は、一定期間使用しても症状が改善しない場合は、いったん使用を中止する。
桂枝加芍薬湯、大黄甘草湯、大黄牡丹皮湯、麻子仁丸は、短期の使用に限られるものではないが、大黄甘草湯及び麻子仁丸では5~6日間、桂枝加芍薬湯及び大黄牡丹皮湯では1週間位服用しても症状の改善がみられない場合は、いったん使用を中止して専門家に相談する。
 
▢ 31.相互作用
医薬品成分には副作用として便秘や下痢を生じるものがあり、それらを含む医薬品と止瀉薬や瀉下薬が併用されると作用の増強や副作用が生じるおそれがある。
(1)駆虫薬とヒマシ油の併用を避ける。(2)センナ及びセンノシド配合の瀉下薬と生薬成分配合の整腸薬の併用を避ける。(3)複数の瀉下薬の併用を避ける。(4)センナの茎を含有する食品と瀉下薬の併用を避ける。
 
▢ 32.抗コリン成分の働き
抗コリン成分は、副交感神経の伝達物質であるアセチルコリンと受容体の反応を妨げることにより消化管の過剰な動きを鎮める。
急激な胃腸の痛みは、主に胃腸の過剰な動き(痙攣)によって起きる。消化管の運動は副交感神経系の刺激によって亢進し、また副交感神経系は胃液分泌の亢進にも働くため、副交感神経の伝達物質であるアセチルコリンと受容体の反応を妨げてその働きを抑える抗コリン成分が用いられる。
 
▢ 33.抗コリン成分の種類
抗コリン成分は、胃腸の過剰な動きにより生じた急な胃腸の痛み、さしこみを鎮めるほか、胃酸過多や胸やけにも効果がある。
胃腸鎮痛鎮痙薬に配合される抗コリン成分には、臭化メチルベナクチジウム、臭化ブチルスコポラミン、臭化メチルオクタトロピン、塩酸ジサイクロミン、塩酸オキシフェンサイクリミン等のほか、生薬成分のロートエキスがある。
 
▢ 34.抗コリン成分の副作用
抗コリン成分の副交感神経系抑制作用は消化管に限定されないため、副作用の症状は全身にわたって現れる。
抗コリン成分の副作用としては、散瞳による目のかすみや異常な眩しさ、顔のほてり、頭痛、眠気、口渇、排尿困難等がある。排尿困難の症状がある人、心臓病、緑内障の診断を受けた人は症状の悪化を招くおそれがある。また、高齢者では口渇や便秘の副作用が現れやすい。
 
▢ 35.ロートエキス
ロートエキスはロートコン(ナス科ハシリドコロ等の根茎及び根)の抽出物で、抗コリン作用を示すアルカロイドを豊富に含む。
ロートエキスは、吸収された成分の一部が母乳中に移行して乳児の脈が速くなるおそれがあるため、授乳中は使用を避けるか、使用する場合には授乳を避ける。また、ロートエキスにより母乳が出にくくなることがある。
 
▢ 36.塩酸パパベリン
塩酸パパベリンは、消化管の平滑筋に直接働いて胃腸の痙攣を鎮める成分で、抗コリン成分のような胃液分泌抑制作用はない。
塩酸パパベリンは、抗コリン成分と異なり、自律神経系を介さず、消化管の平滑筋に直接働いて胃腸の痙攣を鎮める。眼圧を上昇させる作用があるので、緑内障の診断を受けた人では症状を悪化させるおそれがある。
 
▢ 37.局所麻酔成分
アミノ安息香酸エチル等の局所麻酔成分は、消化管の粘膜及び平滑筋に対する麻酔作用により鎮痛鎮痙の効果を示す。
アミノ安息香酸エチル、オキセサゼイン等の局所麻酔成分は、痛みを感じにくくなることで重大な消化器疾患や状態の悪化を見過ごすおそれがあるため、長期間の使用を避ける。アミノ安息香酸エチルは、乳幼児でメトヘモグロビン血症のおそれがあり、6歳未満の小児への使用を避ける。
 
▢ 38.相互作用
胃腸鎮痛鎮痙薬に配合されている成分は、ほとんどが胃腸以外に対する作用も示すため、複数の胃腸鎮痛鎮痙薬の併用を避ける。
抗コリン成分は、かぜ薬、乗物酔い防止薬、鼻炎用内服薬等にも配合されており、抗ヒスタミン薬には抗コリン作用を併せ持つ成分が配合されている場合がある。これらを併用すると抗コリン作用が増強し、排尿困難、目のかすみや異常なまぶしさ、頭痛、口渇等の副作用が現れやすくなる。
 
▢ 39.受診勧奨
腹部の痛みは、胆嚢炎、胆石症、急性膵炎など胃腸以外の臓器に起因する場合があり、胃腸鎮痛鎮痙薬の使用が適当でない場合がある。
痛みが次第に強くなる、周期的に痛む、嘔吐や発熱を伴う、下痢や血便・血尿を伴う、原因不明の腹痛が30分以上続く等の場合には、医療機関を受診することが望ましい。安易に一般用医薬品を使用すると痛みの発生部位が不明確になって原因が特定できないことがあるので注意する。
 
▢ 40.浣腸薬の働き
浣腸薬は、便秘の場合に排便を促すことを目的として、直腸内に適用される医薬品である。
浣腸薬の剤型には、注入剤と坐剤がある。繰り返し使用すると直腸の感受性の低下が生じて効果が弱くなるため、運用しない。便秘については、便秘になりやすい食生活等の生活習慣の改善が図られることが重要である。また、流産・早産のおそれがあるため、妊婦には使用しない。
 
▢ 41.注入剤の配合成分
注入剤には、浸透圧の差により腸管壁から水分を取り込み直腸粘膜を刺激して排便を促すグリセリンやソルビトールが配合されている。
グリセリンが配合された浣腸薬では、排便時に血圧低下を生じて立ちくらみの症状が現れることがあり、高齢者や心臓病の人は使用の適否を専門家に相談する。また、肛門等に損傷があり出血している場合、グリセリンが傷口から血管内に入って溶血や腎不全を引き起こすおそれがある。
 
▢ 42.注入剤の用法
薬液の注入後すぐに排便すると、薬液のみが排出されて効果が十分得られないため、便意が強まるまでしばらく排便を我慢する。
注入剤の使用方法と注意は次のとおりである。(1)薬液の放出部を肛門に差し込み、薬液だまりの部分を絞って、薬液を押し込むようにゆっくりと注入する。(2)薬液注入後、便意が強まるまで排便を我慢する。(3)半量使用の場合は、残量を再利用せず、廃棄する。
 
▢ 43.坐剤の用法と配合成分
坐剤は、無理に挿入すると直腸粘膜を傷つけるおそれがあるので、硬すぎる場合は柔らかくして使用する。
坐剤の挿入後は、便意が強まるまで排便を我慢する。配合成分としては、ビサコジル、炭酸水素ナトリウム等があるが、炭酸水素ナトリウムを主薬とする坐剤では、まれに重篤な副作用としてシヨックを生じることがある。また、坐剤を誤って服用することのないよう注意する。
 
▢ 44.駆虫薬
駆虫薬は、腸管内の寄生虫を駆除するために用いられる医薬品で、一般用医薬品が対象とするのは回虫と蟯虫である。
駆虫薬は腸管内の虫体にのみ作用し、虫卵や腸管内以外に潜伏した幼虫(回虫の場合)には作用が及ばないため、それらが成虫となった頃に再度使用しないと完全には駆除できない。再度駆虫を必要とする場合には、1ケ月以上間隔を置いてから使用する。
 
▢ 45.駆虫成分(サントニン、カイエン酸)
サントニンは回虫の自発運動を抑える作用、カイニン酸は回虫に痙攣を起こさせる作用を示し、虫体を排便とともに排出させる。
サントニンは主に肝臓で代謝されるため、肝臓病の診断を受けた人は症状を悪化させるおそれがある。副作用として、一時的に物が黄色く見える、耳鳴り、口渇が現れることがある。カイニン酸を含む生薬成分として、マクリ(紅藻類マクリの全薬)が配合されていることがある
 
▢ 46.駆虫成分(リン酸ピペラジン)
リン酸ピペラジンは、アセチルコリン伝達を妨げて、回虫や蟯虫の運動筋を麻痺させ、虫体を排便とともに排出させる。
リン酸ピペラジンの副作用として、痙攣、倦怠感、眠気、食欲不振、下痢、便秘が現れることがある。痙攣の症状のある人、貧血、栄養障害の診断を受けた人は症状の悪化を招くおそれがあり、肝臓病、腎臓病の診断を受けた人は、ピペラジンが血液中に滞留して副作用が生じやすくなるおそれがあるため、使用の適否を相談する。
 
▢ 47.駆虫成分(パモ酸ピルビニウム)
パモ酸ピルビニウムは、蟯虫の呼吸や栄養分の代謝を抑えて殺虫作用を示す。
パモ酸ピルビニウムは赤~赤褐色の成分で、使用すると尿や糞便が赤く着色することがある。水に溶けにくいため消化管からの吸収は少ないが、ヒマシ油との併用、脂質分の多い食品やアルコール摂取は避ける。
 

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