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"新型コロナワクチン”について呼吸器内科専門医が思うこと

上西内科副院長の中畑征史です。
新型コロナウイルスのワクチン接種が開始になっておりますが、自分でネットを見ても情報は玉石混交で、皆さまも判断に迷われる事が多いかと思います。
2021年6月時点ではっきりしていること、またはっきりしていないことへの考え方などを自分なりにお伝えしていければと考えております。

1.mRNAワクチンとは

まず、現在日本で承認されているワクチンは3つで、主に使われていく予定となっているのが、ファイザー/ビオンテックとモデルナの2つのmRNAワクチンです(あとはアストラゼネカのウイルスベクターワクチンも検討中)。

ワクチンの種類について先に解説すると、元々COVID-19が流行する前は、2つのタイプのワクチンしかありませんでした。
ひとつは不活化ワクチンというもので、インフルエンザワクチンが代表例であり死滅させた病原体や病原体の成分を用いるものになります。死滅させる不活化処置によって免疫に対する反応が鈍くなってしまうので、有効性が低めになるのがネックでした(インフルエンザでも約60%)。

もう一つは生ワクチンと言われるもので、毒性を弱めたウイルスそのものを体内に投与します。こちらは不活化処理がないので効果は非常に高いですが(風疹、麻疹では90%以上)、まれに弱毒化していても発病する人がいること、白血病などで免疫が低下している方には使用できないというデメリットがありました。

「mRNAワクチン」というのは、いわばその "いいとこ取り” をするものです。

そもそも、人間はどのようにタンパク質を作っているか?という問題になりますが、これはDNAという2重らせんの構造物からRNAという作りたいタンパク質の設計図となる部分を取り出して細胞内で作り出す、ということになります。
DNA→RNA→タンパク質というのは基本的には一方通行で、逆に戻ることはできません(例外はレトロウイルスの逆転写酵素など)。

では、新型コロナワクチンのmRNAはどのようなタンパク質を作るものなのでしょうか?
これはコロナウイルスの表面にあり、人間の細胞にとりつく元になるスパイクタンパク(スパイクとはとげのこと)になります。つまりウイルスそのものではなくウイルスの一部を自分の体で作り出し、そのタンパク質と人間の免疫系が反応して抗体が作られることになります。

タンパク質は自分の体で作られているので、不活化したタンパクよりも免疫の反応性が高くなります。
また、生ワクチンのように発病することもありません。

mRNAワクチンというとここ1年くらいでいきなりできたものに聞こえますが、実は最初の開発の始まりは1990年になります。

この研究で、マウスに外からmRNAを入れた場合に外来性のmRNAでもしっかりとタンパクが作られることが証明されました。
その後も研究は30年かけて進められ、数年前から実用化はされていないものの、狂犬病やHIV、HPV、ジカ熱などに対する感染症予防mRNAワクチンの臨床試験が開始されていました。
そして、今回遂に実用化されてきました。

ちなみに、SNS上で遺伝子が自分の体に組み込まれるのでは?という懸念が散見されますが、基本的にはmRNAからDNAに組み込まれることはありません。また、mRNAは非常に不安定なのですぐに分解されて長期的に体内に残ることもありません。

2.新型コロナワクチンの効果

次に、よく報道されていますが「実際の効果」について再確認していきます。
ワクチンの情報は日々アップデートされていますが、信頼できる情報はどこにあるでしょうか?
英語になりますが私はニューイングランドジャーナルオブメディスンの特設ページをこまめにチェックしています。

https://www.nejm.org/coronavirus

内科の雑誌としてはやはり信頼性は一番と考えています。
ファイザーとモデルナのワクチンもこちらに掲載されました。

https://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa2034577?articleTools=true

https://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa2035389?articleTools=true

あえて今回はファイザーワクチンとモデルナワクチンに絞って比較してみようと思います。

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効果としては「ほぼ同等」と考えてよく、今までのワクチンの常識よりもかなり高いものになります。
重症のアレルギーであるアナフィラキシーは接種後15分以内にほどんど起こっており、接種後15分の経過観察はこのためです。
ややファイザーの方が多い印象ですが、鎮痛剤や抗生剤などのアナフィラキシーよりは低い頻度となっています。
副反応としては、2回目接種後に発熱、倦怠感、頭痛などの全身反応の頻度が高くなることが報告されています。
ファイザー製は日本人でも同様のデータになっています。
モデルナ製は接種部位に高頻度で発疹が出ることが海外で報告されておりこれをモデルナアームと呼んでいますが、基本的には一時的なものです。

治験上は非常に効果が出ていると考えますが、整った条件ではなく "リアルワールド” でのデータではどうでしょうか?
いち早くファイザーワクチンを導入したイスラエルのデータを見てみたいと思います。

2020年12月20日から2021年2月1日までにワクチン接種を受けた約60万人と、ワクチン未接種者(性別・年齢・人種などを合わせてあります)である約60万人を国の保健情報から抽出し、COVID-19の状況を追跡しています。
ワクチンを接種することにより、COVID-19のPCR陽性者を92%、症候性のCOVID-19を94%、COVID-19による入院患者数を87%、重症のCOVID-19を92%抑えることができたと報告されています。
また、無症候のCOVID-19を抑えることができるかも、ということも示唆されています。
そうなると今度は治験でははっきりしていない「他者への感染を防ぐこと」も証明されてくるのではないかと考えます。
現状は他者への感染を防いでいるのではないかと推測できるエビデンスは少しずつ出ていますが、査読済みの論文が発表されてはっきりとした結論がでるのはもう少し時間がかかりそうな印象です。

3.新型コロナワクチンとの向き合い方について

最後に、あくまで個人的見解ですが "ワクチンとどう向き合うか” に関して述べたいと考えています。
ワクチンの効果が非常に高いのは間違いないですが、それでもワクチンの接種をためらう人が出るのは当然でもあります。
その場合には「副反応」のことが心配のメインになると思います。

副反応に関しては、数日で収まるような発熱や痛みなどと、死に直結するような血栓症などの副反応(幸いファイザー製・モデルナ製では指摘は少ないですが)を分けて考えることになるかと思います。
また、「COVID-19にこれからずっと感染しない場合」と比較すると、リスクしか感じられなくなると思います。
例えば離島に一人暮らしをしているなどでほとんど人と接触しない場合なら、接種することにメリットは感じにくいでしょう。
厚生労働省のデータでは、大体全国では100人に1人が感染していることになり、人口1億人に対して1万人は死亡しているわけです。その確率と比較した場合には、(若年者のように死亡リスクが低い場合には当然リスクが高い計算になりますが)少なくとも高齢者ではベネフィットがかなり上回ると考えます。
「10年後に副作用が出るかもしれない」という懸念も確かにあり得るので、これも若い人は慎重に判断でもいいでしょう。
ただし、そこまで薄い確率の死亡率を考えるのであれば、車にも飛行機にも乗れなくなってしまうのではないかとも思ってしまいます(交通事故の10万人あたりの死亡者は2.5人程度)。

「打つデメリット」もあれば「打たないデメリット」もあるので、そこを含めての判断になってしまうと思いますが、いずれにしろ打つ打たないは個人が考えて決めることなので、「打たないから非難」というようなことだけはない世の中であってほしいとは思います。

当院のかかりつけの方でワクチン接種に関してご質問がある方は、受診時に是非お気軽にご相談いただければと思います。

愛知県小牧市
糖尿病・甲状腺 上西内科
副院長 中畑征史
https://uenishi-naika.com/

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