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スタチンと呼吸器疾患の関連について

こんにちは、糖尿病・甲状腺上西内科 副院長の中畑です。
今回は以前から話題がちらほらと出る脂質異常症の薬剤であるスタチンと呼吸器疾患の関連について、改めて現在のエビデンスを調べてみました。
スタチンは抗炎症薬であり、そのスタチンの抗炎症作用が呼吸器疾患の予後に影響を与えるのでは?という仮説がメインで、それによりさまざまな疾患に対して検討されています。

呼吸器疾患と言っても多岐にわたりますが、まずは患者数の多い気管支喘息についてです。https://www.cochranelibrary.com/cdsr/doi/10.1002/14651858.CD013268.pub2/epdf/full

コクランライブラリーのまとめになります。
喘息に関してスタチンの投与で検討した報告は1研究のみであり、60人と小さい規模の研究でありました。
喘息の成人60人を対象に、アトルバスタチンとプラセボ(ダミー治療)を12週間にわたって評価した試験デザインです。
アトルバスタチンは喘息患者の肺機能の明確な改善には至リませんでしたが、プラセボよりも喘息のコントロールに優れている可能性があるとされています。
やはり明らかに症例数が少なく、しかも明確な差があるものではないと
思われます。(コクラン自体もそうコメント)

次はC O P Dです。
https://journal.chestnet.org/article/S0012-3692(17)30194-0/fulltext

元々喫煙者が多いこと、高齢者に偏ることから心血管リスクは高いです。
カナダの研究で後ろ向き研究になります。
エンドポイントは全死亡で、心血管イベント以外の肺疾患関連死亡も2つ目のエンドポイントに設定されています。
7,775名について検討されており、かなり研究の症例数に差があります。
スタチン処方で全死亡はHR0.79で21%減少という結果になりました。
肺疾患関連死亡に関しても、HR0.55という結果でした。
喘息と比較してこちらは効果が期待できそうなデータですが、できれば前向き研究でのエビデンスが欲しいところです。

次は難治性疾患であるIPFについてです。https://thorax.bmj.com/content/thoraxjnl/72/2/148.full.pdf

方法としては、IPF治療薬であるピルフェニドンの比較試験3つにおいてプラセボ群に割り付けられた624人が対象としています。
ベースラインのスタチン使用によって層別化をおこなった。アウトカムは1年後の疾患進行、死亡率、入院、死亡などの複合アウトカムとなっています。

結果に関しては、ベースラインにおいて276人(44%)がスタチンを使用しており、348人(56%)がスタチンを使用していなかった。
スタチン使用者が高齢で心血管疾患およびリスク因子の頻度が高かったことを除いて、両群とも患者背景は同等でした。(元々そういう方にスタチンが使用されるので仕方ない背景の差です)。
スタチンの使用は死亡あるいは6分間歩行距離減少(ハザード比0.69)、入院(ハザード比0.58)、呼吸器関連入院(ハザード比0.44)、IPF関連死亡率(ハザード比0.36)を有意に改善しましたが、IPF疾患進行(ハザード比0.75)、総死亡(ハザード比0.54)に対しては有意な効果は観察されませんでした。
有効そうに見える結果といえますが、総死亡に変化がないことが気になります。
こちらもやはり前向き研究が必要かと考えます。
ただし、IPFは難治性でもありCOPDや気管支喘息のように有病率が高くないことから、効果がありそうなら使ってみたいとも考えます。
抗線維化薬が登場したものの、いまだにやはりIPFは予後が厳しい疾患です。

現状、いずれも否定的な効果はなさそうとしか言えないところですが、脂質異常症の内服が必要か迷うLDLの数値の時には、少し積極的に導入もありかと考えます。
逆に言えば、呼吸器疾患がメインで診療にあったっている方でもかかりつけ医としてしっかり生活習慣病の治療適応についても考慮していく必要があると改めて感じました。

愛知県小牧市
糖尿病・甲状腺 上西内科
副院長 中畑征史

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